HEADLINEテスト問題を作るときのポイント(目標準拠評価)
第Ⅰ部 基礎理論
1 テスト(定期考査)は、授業の到達点であり、学びの通過点である
2 授業設計に教育目標ありき
3 評価観の転換が授業観を変える
4 評価の実践的課題
(1) 妥当性と信頼性 … 客観性を構成する要素
(2) 実行可能性
(3) 成績管理の合理化 … コンピュータを使って合理的な成績管理
第Ⅱ部 テスト問題を作ってみよう
5 テスト問題(筆記試験)作成上の実践的課題
(1) 基本的な視点
(2) 技術的な視点
(3) 著作権の制限
(4) 各観点の特徴
6 主なテスト問題(方法)の特徴
(1) 完成法(補充法・穴埋め問題法)
(2) 真偽法(正誤問題法)
(3) 多肢選択法(択一・短答問題法)
(4) その他の短答式テスト法
(5) 知識を与えて推論させる方法(自由記述法)
(6) 作問法(自由記述法)
(7) 認知的葛藤法(自由記述法)
(8) 文章分析法(自由記述法)
(9) 論文体テスト法(自由記述法)
(10) 概念地図(マップ)法(自由記述法)
(11) パフォーマンス評価
1 テスト(定期考査)は、授業の到達点であり、学びの通過点である
◎ 子どもたちから見たら
・授業の「重要な部分」の理解をしているか否かを試されるのがテスト
(定期考査)である。
・「テスト」に出題されない「授業内容・がんばり」は、結果的に切り
捨てられる。
・授業を受けなくても解答できる「テスト」であれば、授業を受ける必
要がない。
2 授業設計に教育目標ありき
何を学ぶ授業かを、指導者が明確に意識することが基本。
授業設計(指導案)
↓
授業実践
↓
評価問題(授業の成否の検証)
↓
授業設計の見直し(回復指導)
3 評価観の転換が授業観を変える
① 3つの観点は、一つの学力モデルを示したもの
② 子どもを序列化するテストから授業の点検のためのテストへ
③ 3つの観点に分類された教育目標を設定しよう
↓
観点別評価のテスト問題の作成
④ 3つの観点は、独立しているのではなく相互に関連している
↓
例:正確な知識・理解や資料活用技能・方法に基づいた思考力・判
断力・表現力
4 評価の実践的課題
(1) 妥当性と信頼性 … 客観性を構成する要素
① 妥当性 … 目的としている評価対象をどれほどよく評価しているの
かを示す概念(内容的妥当性:評価内容が評価対象を的確に代表
しているのかを問う概念)
② 信頼性 … その評価がどの程度一貫して評価できているかを示す概
念。いつどこで誰が実施しても、その評価の精度が一貫している
ことを示すもの。
(2) 実行可能性
◎ 実践上、総括的評価に利用しやすいのは「定式化」や「数量化」さ
れた評価方法。
(3) 成績管理の合理化
① 観点別評価に対応した授業と「テスト」作成が、成績管理合理化の
第一歩。
② 成績評価をPCで管理する( DataBaseソフトがベター。表計算ソ
フトでも可能であるが、表計算ソフトでは個人の成長を把握すること
は困難になる )。
5 テスト問題(筆記試験)作成上の実践的課題
(1) 基本的な視点
① 授業内容(教育目標)を正確に測定するテスト問題であること(妥当
性)。
② 授業で指導したことか、その応用問題のみを出題するテスト問題で
あること。
③ 授業の成否(定着度・理解度)を点検するテスト問題であること。
④ アカウンタビリティーに耐えられる(対応できる)テスト問題である
こと。
(2) 技術的な視点
① 作成時間 … 完成法や論文体テストは、簡単に作成でき、時間もか
からない。完成法は知識の定着度を測定するのに優れているが、
思考力・判断力を測定することは困難。論文体テストは採点基準
の作成が高度で、採点に時間がかかる。
② 採点に要する時間と客観性 … 完成法や多肢選択法は、採点が容易
で早く、採点の信頼性は高い。
③ 測定できる学力内容・性質 … 基本的な概念や事実をどの程度知っ
ているかを調べるには、完成法や多肢選択法が適切である。「思
考力・判断力」の総括的評価では、ペーパーテストでも、「発展
的な多肢選択問題」を利用すれば可能。統合や評価のようなさら
に高度な認知過程を知るには、論文体テストが適切である。
④ テストの難易度の設定 (一般的な傾向を、難度低から難度高の順を
→ で示す)
記憶・理解を測定する側面:再認法 → 再現法
思考・判断を測定する側面:少量の情報 → 多量の情報
内容的な側面:単純な概念 → 複雑な概念、概括的な概念 → 瑣末
(さまつ)な概念
これら以外に、テスト法の組み合わせによっても難易度は異なる。
(3) 著作権の制限
授業用の教材として利用する場合は、免責されていることが多い。
しかし、業者の「教材プリント」や「テスト問題」の複製は許されな
い。
(4) 各観点の特徴
① 知識・技能 … 活用しうる「知識」すなわち「概念」の意味理解
(「わかる」レベルの学力)が求められる。したがって、ここ
でいう「知識」には、専門用語や事象の名称を再認できる、
再生できるだけではなく、理解を伴った豊かな習得(有意味
学習)を保障し、記憶に定着しかつ応用の利く知識にして、
生きて働く学力を形成することが求められる。たとえば、生
徒指導要録の解説では「我が国の国土と歴史、現代の政治、
経済、国際関係等に関して理解しているとともに、調査や諸
資料から様々な情報を効果的に調べまとめている。」とされ
ている。
③ 思考力・判断力・表現力 … ある事柄と別の事柄との相互関係の
関係性が説明できたり、社会事象の条件を指摘し社会事象を
多面的・多角的に考察したり、社会事象の変化についての因
果関係等が説明できる学力。たとえば、生徒指導要録の解説
では「社会的事象の意味や意義、特色や相互の関連を多面的
・多角的に考察したり、社会に見られる課題の解決に向けて
選択・判断したり、思考・判断したことを説明したり、それ
らを基に議論したりしている。」とされている。
③ 主体的に学習に取り組む態度 … 学習した内容(社会科学概念や
思考・判断方法)を活用して、社会科的にかつ主体的に社会
事象を観察したり、問題の要因を探ったり、解決方法を思考
・判断したり、結論と思考・判断した過程を説明するような
表現、評価しようとする学力(意識・行動傾向)である。生徒
指導要録の解説では「社会的事象について、国家及び社会の
担い手として、よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に
解決しようとしている。」とされている。
④ 各観点の出題比率 … 「知識・技能」を測定する問題の比率を高
めれば、「容易なテスト」になる傾向が強い。一般的には、
「知識・技能」を50%程度、「思考・判断」を30%、「表
現」を20%程度の割合にする実践が多い。
いずれの学力内容(観点)も、単一の存在ではなく相互に補完し合ってい
る。特に、「知識・技能」は、その基礎的な内容(パーツ・ツール)となる
ので、他の学力内容と切り離して考えることは困難。
6 主なテスト問題(方法)の特徴
(1) 完成法(補充法・穴埋め問題法)
「知識・理解」を試す問題に多く利用される方法。
問題文の内容の構成によっては「思考・判断」を試す問題に利用できる。特に、学習後の知識を問題文中に使って、解答を推論させたり、資料を併せて提示する方法をとれば、「思考・判断」力を試したり、応用問題を作成することも可能である。
① 生徒がうめる答についてヒントを与えすぎないようにする。
② 正解がいくつも考えられるようなまぎらわしい問題はさける。
③ 必要以上に文章を過度に切って、空欄をいくつもつくらない。
(2) 真偽法(正誤問題法)
真偽法は、上手に作成すると生徒の正しい陳述と間違った陳述を認識する能力を正しく測定することができる。
しかし、この方法は、正解のチャンスが50%あることに注意しなければならない。さらに、真偽法では、まだ十分に解決されていない項目について問題を作成することはむずかしい。
① 「決して~でない」(never)、「常に」(always)、「できな
い」(impossible)、「めったに~でない」(seldom)、「通常」
(usually)、「かもしれない」(may)等の限定詞は用いない。
② 1つの文では、問いは1つだけにする。
③ 問題に対する正解がはっきりとわかるようなもの、あるいは逆に非
常にあいまいなものであってはいけない。
(3) 多肢選択法(択一・短答問題法)
正解を選択させる方法、誤答を選択させる方法、グルーピングをさせる方法、接続詞を用いて思考させる方法など多様な種類がある。
多肢選択法は、数個の選択肢をもっているので、真偽法より推量で正答になる確率は少ないが、問題の作成は真偽法よりもむずかしい。
① 迷わし肢の項目は、完全に誤りであることが重要である。
② 正解の選択肢が選ばれるような不必要な手がかりを与えない。
③ 質問文と選択肢はできるだけ簡単に書く。
(4) その他の短答式テスト法
① 順序問題
② 組み合わせ問題
(5) 知識を与えて推論させる方法(自由記述法)
問題を解くのに必要な知識を問題の中で与えておいて、それを使いこなせるかどうかを試す方法。資料活用技能や思考・判断力を試すテスト問題に利用できる。
(6) 作問法(自由記述法)
「問い」を作成させることで、理解度だけではなく、理解に基づいた思考力を判定できる。また、「問い」を持つ力は、子どもたちが自律的に学ぶ力の中核であると言われる。子どもたちの「問い」が、事実を問うものか、思考についての問いなのかは、疑問詞で区別できることもある。
○ 事実を問う「問い」は、「何が」「どこで」「いつ」などで始まること
が多い。
○ 思考について問う「問い」は、「なぜ」「~ならどうだろう」
○ 事実と思考の両方を問う「問い」は、「いかに」で始まることが多い。
① 特定の形式で問いをはじめさせる方法。既習の情報を書き並べた後
で、「~ならどうだろうか?」、「なぜ … ?」、「どのように …
?」のどれかを用いて問いを作らせる方法。
② 特定の情報(引用文、データ表、地図、図表等)を与え、それに基づ
いて問いを作る方法。
③ 答えを提供して、問いを要求する方法。
④ 学習している内容でよくわからない部分についての問いや、自分
を困惑させるような問い、「思考的な問い」を作らせる方法。
⑤ 学習した内容についての理解をテストする問題を書きなさいと指示
する方法。
(7) 認知的葛藤法(自由記述法)
理科の評価方法として、堀哲夫が提唱している評価方法である。「子どもに認知的葛藤を起こすような問題や事象を提示して、それがどのように解消されるのかを分析することにより、理解の実態を評価しようとするもの」である。
社会科の授業や評価でも、理解力を深めたり、思考・判断力を判定する方法として利用できる。
(8) 文章分析法(自由記述法)
キーワードを与えて、それに関係する文章を自由に書かせ、その内容を分析し、子どもの既有の知識や考えを知る方法。
① テスト問題として利用する場合は、予め問題文にキーワードを提示
する方法と、自由記述の中から読み取る方法が考えられる。
② 採点は、採点基準を明確にした「ルーブリック」が決め手となる。
いわゆる「評価規準表・基準表」は「ルーブリック」の一種である。
③ 深い理解や表現力を試す問題に利用できる。
④ 生徒の自己評価に利用すれば、「自ら学び自ら考える力」の評価方
法として有効であるといわれている。
(9) 論文体テスト法(自由記述法)
あらかじめ、教師が生徒に求めるものをできるかぎり明確にしておくことがpoint。
① 問題がはっきりとわかるキーワードを用いる。
◎求める行動に対応する語句を用いる(参考:ブルームの認知的領域
の分類)。
知識(想起):述べる、定義する、表にする、同定する、意味をいう
理解 :例を示す、要約する、解釈する、説明する、論ずる
応用 :予測する、関係づげる、決定する、応用する、~で説明する
分析 :~の間を区別する、比較する、対照させる、~の間の関係を
見分ける
統合 :創造する、発展させる、示唆する、生産する、定式化する
評価 :批評する、弁護する、~の理由を示す、正当化する、判断す
る
② 生徒があるわく組をもって論述することができるように、問題はか
なりくわしく書く。
③ 問題を作成する場合、生徒からどういった答がかえってくるかをあ
らかじめ想定する。もし必要であれば、問題を修正し、採点の仕方を
変える。答案をつける場合、最初何枚かの答案に目を通し、場合によ
っては、採点基準を若干修正することも考えられる。
④ 採点は、採点基準を明確にした「ルーブリック」が決め手となる。
⑤ 採点する場合、できるだけ客観的に、一貫性をもって、公正に採点
するためには、はじめに何枚かの答案を読み、教師が良いと考えた答
案に点をつけておく。たとえば、生徒がある行為の過程から生まれる
と考えられる3つの結果について、それを予測し、説明しなければな
らない場合には、その問題に対しては総計6点とする(それぞれの予
測について各1点、その説明について、それぞれ1点)。あるいは、
3つの予測と、説明は2つであるが、それが十分に納得のいくかたち
でおこなわれていると教師が判断した場合には、その答案に6点を与
えてもよい。また、最初に、特定の採点基準を考えないで、答案を読
みながら採点基準を書きとめ、それを考えながら採点していくことも
方法として考えられる。
(10) 概念地図(マップ)法(自由記述法)
ある概念に関係するキーワード(概念ラベル)をいくつか選び出し、それを配置し、線で結び、概念ラベル間の関係を説明し、可視的な関連図を作成する方法。
① テスト問題として利用するには、キーワードや事柄の結びつきを矢
印で表現させる。
② 構造化した板書・授業とのセットになるテスト法である。
③ 矢印の意味を文章で説明させると思考を明らかに出来るであろう。
教師の発想を超えた子どもの理解を発見することも出来る。
④ 作図法とあわせることで、表現力や思考力を試す応用問題に利用で
きる。
(11) パフォーマンス評価
① パフォーマンス課題に基づく評価
(※ パフォーマンス評価の詳細はこちらで説明しています)
ア 知識・技能が実生活で生かされる場面や、
イ その領域の専門家が知を探究する過程を追体験させる学習課題
(パフォーマンス課題)に対する実演を評価する方法。
ウ 採点はルーブリックで行う。
② ルーブリック(評価基準表)
ア 自由記述問題やパフォーマンス評価において用いられる評価指標
(採点指針)のこと。
イ 成功の度合いを示す数段階程度の尺度(点数やレベル)と、それぞ
れの尺度に見られる認識や行為の質的特徴を示した記述語からなる
評価基準表として示される。
ウ 答案を採点する場合には、最初に何枚かの答案に目を通す。その
結果によっては、採点基準を若干修正する。
[ 参考文献 ]
レイヒ/ジョンソン 宮原英種監訳『教室で生きる教育心理学』新曜社 1983年
田中耕治編著『新しい教育評価の理論と方法』[Ⅰ] [Ⅱ]日本標準 2002年
田中耕治『学力と評価の"今"を読みとく』日本標準 2004年
田中耕治編著『教育評価の未来を拓く』ミネルヴァ書房 2003年
田中耕治編著『パフォーマンス評価 -思考力・判断力・表現力を育む授業づくり』ぎょうせい 2011年
田中耕治『学力評価入門』法政出版 1996年
石田恒好・木下康彦編集『中学校社会 こうすればできる観点別評価の手順』図書文化1994年
北尾倫彦・祇園全禄編集『中学校社会 観点別学習状況の評価基準表』図書文化1994年
亀井浩明・佐野金吾・高橋秀美編『中学校 観点別評価の実際』社会編 教育出版1993年
北俊夫編著『社会科「関心・意欲・態度」の評価技法』明治図書 1993年
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