たれちの子守唄-古都姫活劇編

・・・・・・・パッチワーク小説-3.2(2002.7.13-8.6)   

 
 なぜか宇宙に飛び出した一行、くろスパピーを救うために、ついに古都は古都姫に変身!って、そんなのあり?


38   いままでのあらすじ 2002/07/13 01:01:43  ひつじ@羊亭  

連載回数も増えて、私自身が全体像を把握できなくなってきたのでメモ代わりにあらすじを書いてみます。(名前は通称かつ敬称略)

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くろス / そして、たれっちは妙な子守唄を歌い始めた。「事件」を解く鍵か。

ともす / たれるりたれるらたれりんり くびをたれるはたれじゃいな

ともす / 垂れ血の子守唄?

ひつじ / たれるりたれるらたれちぞな たなぼたさまのおまつりだ

ともす / 織姫は機を織る。彦星の懐には女郎蜘蛛。蜘蛛のような見えない網を張る

くろス / くろス、ミシマ、ともす、ひつじ、こと登場。100円のともす、ミシマの芳香フケ

ひつじ / ともす何か隠す、ミシマは女、たれっち「行かなきゃ」、てす子「織姫の所へ」

ともす / ミシマは古都? マドモワゼルココの香り、100円で売られたプチともすは髪の毛、リュックには織姫への土産 てす子とたれっち蜘蛛の糸で空へ、追うくろス

古都 / 織姫のところに大人は行けない(落とされてしまう)、くろス追いついてくる

ともす / 糸を切るたれっち 落ちるくろスはFのキントンへ 落とされても拾う

ひつじ / 文章担当のミシマとイラスト担当の古都に分かれた、古都はこと座のこと

ともす / くろス、ともす、ミシマ、古都、ひつじがFのキントンへ 追いつく 織姫は女郎蜘蛛 体液を吸って捨てる(謎の死体?) 彦星は逃げた 男なら誰でも たれっちは織姫と連絡をとっていた 妙齢の女性にライバル意識

くろス / 織姫は不老 聖杯の水 コトモスがキントンに乗って バルシファルの序曲

ひつじ / 織姫は実は「クレオパトラ」似 

くろス / コトモスのキントンにひつじ「ろ」F「ろ」? 殺人は去年の七夕? 七夕過ぎて男性は安心

古都 / リュックの中身は化粧品 ミシマのフケはルーセントパウダー 美しくなりたい織姫 織姫の蜘蛛の糸につかまるくろス 織姫は美人 乙姫の言い間違えの意図は?

くろス / ひつじ転落 くろスは謎の「ギロチンの唄」を残し織姫と宇宙の彼方へ ひつじジャックの豆の木で復活 Fが転落 たれっちがキントンを運転? 乙姫とコトモスと100円ともす

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いやあ、改めて全部読み返すと、破綻もなく伏線もそれなりに生きていてよくできておりました。

では、続きをお楽しみくださいませ。


39   夢の浮橋 2002/07/13 02:48:45  たれっち  

たれっちのきんとんさばきは栗きんとんの味がした。即ち、甘い。
そして甘いものには蟻が群がるのだ。
たれっち熟睡中に重力の法則に従って地上へするする糸を引いて落ちた涎は、友巣宅の付近で糸を引いたまま着地していた。粘着性の涎は乾いてさらに涎がコーティングされて行ったため、今やグラスファイバーなみの強さになっていた。たれっちが叩き起こされ、たれなりに素早くきんとんに飛び乗った時、たれっちの涎は織姫の雲の端に引っ掛かった。
そうだ、重力の法則に従って落下しているF氏の状況について説明しなければならない。落下中の気分はバンジージャンプよりスリリングだ。アドレナリンの出方が尋常じゃない。緊張で頭が冴え冴えとしている。しかし加速度がついて息が出来ない。窒息しそうだ。死ぬのかどうかわからないがとにかく見るだけのものは見てやらなければ、と当たりを見回そうとした。そのとき、

ぼすっ。

彼は俯せにきんとんの上に落下した。.....下界をもう少し眺めてスリリングな気分を味わいたかった、とたれっちの素早さを恨んだ。
「ぼくにしては早かったでしょ?ね?」
たれっちは得意そうに言った。
「助かったには助かったけど、早過ぎたよね、もうちょっと貴重な体験をしたかったのに....。」
F氏は少し拗ねてしまった。
「お〜い、Fさんは無事か?」
ひつじジャックが豆の木の蔓に捕まりながら言った。

さて、七夕前後の留守の間に、黒豚サバトの宅急便の箱が友巣の下宿のドアの前に置きっぱなしになっている。従業員教育が悪いのではない。黒魔術フリークの社長が、夜毎にサバトを開いては黒豚を捌いてサタンに捧げ、黒猫とかペリカンとかカンガルーとか飛脚のライバル会社を追い抜く祈念に従業員を動員して行っているのだ、夜明けの一番鶏が鳴くまで。慢性寝不足の従業員一同、ゾンビのように疲れている。留守でも出直す気力がないのだ。

まあ、しかし、こんなけったいなモノを盗む酔狂は余程の変人なのだ。というのは、荷物の中身は100円ショップ屋から返品されたプチトモスの山なのだ。プチトモスと云えども友巣とDNAを同じくするもの。大人しく箱入り娘でいたのだが、お腹が空いたので箱に穴を開けてわらわらと飛び出した。これが動く綾波レイやフェイ・バレンタインあたりだったら売れたんだけどねえ。なんせ1/20友巣.....。それも邪な用途に使われないように、イッセイミヤケのプリーツワンピースの下は、鋼鉄のビキニ、ご丁寧にもパンツ部分はテイソウタイで開ける鍵なし。これじゃ余程の変態じゃなきゃ買わないの。それも100円ショップに売る傾向の商品じゃない....。それでも酔狂な客に若干売れたのだがクレームがついた。持って帰って袋を見たら、髪の毛の切れ端しか入ってなかった。

「おなかすいたよ〜」
と外に飛び出したプチトモスどもは細く細く天に向かって伸びる透明な糸を見つけた。それは実はたれっちの涎なのだが、そんな事情はプチトモスどもにはわからない。
「透明で奇麗ねえ」
「空にすうっと伸びているのねえ」
「空の上には何があるのかしら」
「ねえ、登ってみましょうよ」
興味本位で無方針、何かに熱中すると空腹を忘れる友巣と同じDNAを持つプチトモスどもはわらわらとたれっちの涎の糸にシガミツイて上り始めた。
さてコトモスの計画通りに進行しているのであろうか?

さて、ほっそりとした華奢な体、細面に大きな瞳、高い鼻梁、官能的に光る幾分厚めの大きな唇....これは確かに、太め、丸顔、細目、細い鼻、おちょぼ口が美の基準であった平安時代であれば「ブス」であったであろう。でも今は違うのだ。美しい、あまりにも美しい!
「私の体も心も貴女の虹色の蜘蛛の糸に絡め取られて身じろぎひとつもできないくらいです。」
「まあ、言わずにおられないのが文学系の方の性ですのねえ。仰らなくても解っていますわ。」
宇宙の果て、薔薇星雲の蜘蛛の巣の中で、クロス氏は夢見心地で繭の中の蚕のように蜘蛛の糸に包まれてウットリと涎をたらしているのだった。傍らで、織姫はにっこりと舌舐めずりをしている。
「そろそろ乙姫が来る頃なのだけれど....。男を引き止めておくことにかけては右に出る者がいないのよ、彼女。」


45   織姫の謎 2002/07/17 23:22:23  WakiTomos 

果たして、織姫の紡ぐ糸は口から出るのであろうか?尻から出るのであろうか?
楳図かずおの罪は大きい。
蜘蛛は糸を尻から出すのだ!蛇の鱗は繋がっているのだ!初期のホラー漫画の生物学的知識の誤りがその後の漫画や文学のテキストに与えた影響は大きい。
生物学的厳密さで探求するのであれば、織姫が口から糸を出すなら彼女は蚕系ということになり、尻から出すのなら、女郎蜘蛛系に属すると言うことになる。というわけで、くろす氏は、口から出された糸で簀巻きにされたのか?尻から出された糸で簀巻きにされたのか?

ご当人に突撃いんたびゅ〜。くろす氏、どっちですか?

ま〜細菌の数から言うと、肛門はせいぜいが大腸菌程度ですが、口は数千種類の雑菌が......慰めになってない?


46   唐沢なをきのように 2002/07/18 01:05:49  ひつじ@羊亭  

キスよりも「あっち」のほうが衛生的と言わんばかりのともすさんの発言には当惑するばかりだが、もっと当惑するのはともす氏の肩に手をおいていただけのひつじが次の瞬間にはともす氏を抱きかかえてしまっていることである。しかも、その次の場面では、豆の木の蔓につかまっているではないか。

前回、古都さんに抱きついたときにはメガネを飛ばされた実績があるひつじである。なんのことわりもなくともすさんにそんなことをすれば、ふたたびキントンから落下することは必至である。こういうパッチワーク小説では、この程度の表現のブレはやむをえないのかもしれない。くろス氏はここでひとネタほしいようだが、スルーしてしまおう。

織姫がくろス氏を連れて宇宙の果てに行ってしまったところへ、織姫とよく似た雰囲気の妙齢の女性が訪ねてきた。

「オリヒメは、どこ?」
ともす以下のキントングループは、主のいないオリヒメの館に居座っているようなことになっていた。
「実は、私たちの仲間をからめとって、どこかへ行ってしまったのですよ。」
その女性は、やれやれまたかという表情で館の奥へ入っていこうとした。
「ひょっとして、あなたはオトヒメさん?」
思い切って、ともすはたずねた。
「まさか、そんな恐ろしいものじゃないわ。私は、オリヒメの妹のオルヒメといいます。もうすぐ、みんなそろうはずですから。」

と、そこへ二人の女性。
「この子は口が悪くて」「オレヒメだ」
「お姉ちゃんはなまってるの」「オラヒメだ」
さらに、落ち着かない感じの女性。「まあ、どうしましょう。オロヒメです。」

「娘がお世話になります。オヤヒメです。」
「姪がお世話になります。オバヒメです。」

「秀吉の妻のオネヒメです。」
「信長の妻のオノヒメです。」
「浅井長政の妻のオダヒメです。」
「待った。濃姫がオノヒメというのは許すとしても、浅井長政の妻はお市の方でしょう。」
ミシマ氏のつっこみが入る。
「織田の姫だからオダヒメでいいんです。」と、オダヒメ平然。

「まてまて〜、オウヒメです。」
「このあたりに、オクヒメです。」
「引いてもだめなら、オスヒメです。」
「卵で巻いてます、オムヒメです。」
「それは、ダメね。」とともす氏。「だいたい、オムレツって、「仕事の速い男」という意味なの。オムは卵とは何の関係もないんだから。本当は、オムライスやオムソバと命名するほうがおかしいわけ。」
「そういえば、あんこをオムレツでまとわせてはいけないと、昔、聞いたような。」とひつじ氏。
「えっち!!!」ともす、こと、ミシマの三人ツッコミが即座にはいる。

ヒメたちはまだまだ登場し続ける。
「夏が来れば、オゼヒメです。」
「風が吹いたら、オケヒメです。」

「また太っちゃった。オモヒメです。」
「いやあ、寝過ごしちゃって、オソヒメです。」

「オソヒメが来たってことは、これでそろったってことなんですかね。」ミシマ氏はつぶやく。

しかし、まだ一人のヒメがやってきている。

「オソヒメより遅いというと誰なのかしら。」
ことさんの疑問はすぐに解かれた。

「チャンチャン。オチヒメです。」


48   薔薇星雲のイスカンダルにて 2002/07/21 09:24:43  ゲーテすこ 

くろスは思う。私に突撃インタビューしてるこの人は誰だろう?髪の毛振り乱し、妙に興奮気味で、楽しそうに雑菌まみれのマイクを私の口元に押し付けてくる。つばきを飛ばしまくってる。目つきがイッてる。肛門ですか?口ですか?だって。何のことか分からない。私たちの愛の巣を乱す性別不明・年齢非公開の怪人め、オリヒメちゃんに成敗してもらうぞ!


49   不謹慎な円環 2002/07/21 10:00:14  ゲーテすこ  

「「あっち」はHIVウィルスに感染する可能性が高いのよ!」
と、最近のお下品な展開にいたたまれなくなっててス子が叫んだ。

「ドキッ」
「ん?今「ドキッ」って言ったの誰?」
「ドキドキドキッ」
「だから誰?」
ことは辺りを見回した。

「私よ。悪い?」
黒髪を掻き上げながら答えたのはともすだった。
「あなたもしや・・・」
さすがに言いよどむひつじであったが、ともすは即座に切り返した。
「うんまあね、たまにね」
ひつじの愛は一瞬にして冷めたが、そうとも知らずともすは続けた。
「だってそうゆうもんでしょ?「あっち」なら妊娠する可能性ないし!」
「おいおい」

ことは目を丸くして再び周囲を見回した。ヒメ達含め、全員が目を丸くしていた。特にひつじは、いろんな不謹慎なイメージが脳内をぐるぐると駆け巡ったので、一番に目を回して倒れてしまった。他の人々もひつじに続いて次々と目を回して倒れていった。


50   不思議な晩餐 2002/07/21 11:06:50  ゲーテすこ  

「大量でしたよ!」
プチトモス狩りに出ていたFが戻ってきた。
「あれ?みんな寝てるのかな?」
「みんな疲れてるのよ」
ただ一人倒れなかったともすは白々しく答えた。

「なんだそうか!じゃあ私は料理にかかります。ともすさんはこれに食器類を並べてみんなを起こして下さい」
そう言ってキセキはおでこに貼り付けてある四次元ポケットから直径30mはあろうかという円卓を取り出し、ともすに投げつけた。
「何で私がこんなことしなきゃいけないの・・・」
ともすはぶつぶつ言いつつも円卓をえび反りキャッチしてそのままの体勢で大広間まで運び、ひょいと下ろして食事の準備を始めた。キッチンからはキセキが軽やかにプチトモスを切り刻む音が聞こえていた。

とんとんとん、とんとんとん、ビチッ、ブチュッ、ビリビリビリビリ・・・・

ともすがようやく全員を起こし終えた頃、キセキが料理を運んできた。円卓の中央にプチトモスの丸焼き。それを囲むように正視に堪えない種々のプチトモス料理が配置された。プチトモスたちは無残に切り刻まれ、引きちぎられ、俗に言うバラバラ死体に変わり果てて、今や料理としてそこに在った。
「テーブルをくるくる回して好きなものを食べて下さい!」
ひつじはプチトモスの唐揚げを手に取り、しげしげと眺めてから意を決してガブッと噛んだ。

ガリッ

「あいたたた・・・何か固いものが入ってますよ!」
「そうですか?でも私のせいじゃないです」
キセキはキッチンに引き返していった。
「鋼鉄のビキニじゃないですか?」
頭をボリボリ掻きながらミシマが口をはさむ。
「てーそーたいかもォ」
ことも何げに続く。無意識に発言しているようだ。
「てーそーたいみたいです。鍵穴が見えます」
ひつじは口からブツを取り出すと苦悶の表情を和らげてそう言い、その三角形の固いものを灰皿にぽとんと落とした。隣りのともすは見て見ぬふり聞こえぬふりのY夫モードで、どす黒い血の滴るプチトモスのマリネの汁をすすっていた。
「プチトモスの自意識がこのてーそーたいに集約されているのですね」
ミシマは感慨深げにそう呟き、ことの脇をつついたが、ことはきょとんとしていた。

「そんなの自明よ」
ともすは吐き捨てた。
「自明?自意識?てス子わかんな〜い」
「ぼくもわかんな〜い」
たれっちに続き、ヒメ達も一斉に、
「わかんな〜い、わかんな〜い」
「自明ってなあに?」
「自意識ってなあに?」
「わらわ全然わかんな〜い」
「わらわもわかんな〜い」
「わらわも」
「わらわも」

場は一気に騒然となったが、ともすは表情一つ変えず、再び吐き捨てるのだった。
「ピーピーうるさいわねえ、自明なのよ」
するとことが小さな声でボソッと、
「・・・わかりやすすぎるわ」
「それも自明」


51   不可避の宿命 2002/07/21 11:29:59  ゲーテすこ  

そこへ怪人コトモスが現れ、ヒメ達の首を手刀でぽんぽんとはねていった。

ぽんぽんぽん、ぽんぽんぽん

オケツヒメとオマケヒメだけが残された。
何だかよく分からないが、宿命なのだった。

「たえがたきをたえ、しのびがたきをしのび・・・わしの先祖の近江戦国大名浅井長政の妻のオダヒメを殺したのは誰じゃい!ゆ・る・さ・ん〜」

ヒロヒト君が現れた。

「アレは柴田の妻になって北ノ庄城で自害せなならんのじゃ!歴史を変えればわしやわしの子孫たちの存在も怪しくなってくるではないか!許さんゾォォォォ〜〜〜〜〜」

問題はオダヒメが殺された時点である。三女のおごうを生む前に殺されたのなら、ヒロヒト君も平成天皇も浩宮も、家光以降の徳川将軍も、自動的に消滅する。
日本が変わる、かも。


53   うっうっうっ(泣)閑話休題 2002/07/21 20:37:47  WakiTomos 

ちがうもん。織姫さんの一族は『高丘親王航海記』のカリョウビンカみたいに、単口性なんだもん。だからえっと、要するにニワトリさんみたいなの。人間と違うんだもん。
...わたくしの言いたかったのは、どっちにしてもバイ菌やウィルスがいるよってことなのにいっ。

古都さまが、ミラクルプリンセス、メークアップ!って、古都姫になるらしいので、この阿鼻叫喚を暫く静観するの。古都さま、お待ちしているわ。


54   類似項 2002/07/22 00:42:44  s_fish_koto 

「もう食べるのをやめなさい、意地汚い」
ミシマは隣でガリガリやっている古都の手を止めた。
「どうして?てーそーたいと鉄のビキニを取れば、結構美味しいよ?」
敬愛する友巣に寸分違わぬプチトモスであっても古都はまるで平気らしい。
「あんたのそういう倫理観の無いところがあたしには信じられないわ」
そうは言うものの、当の本人だって食べてるわ、と古都はちらりと不機嫌そうな友巣の様子を伺う。
ミシマは、ぺッと灰皿に口にしていたものを吐き出した。
「倫理観云々はともかくとして、腸閉塞になりますな」
ひつじも同じように灰皿に吐き出す。そこには黒い髪の毛が唾液にまみれて玉になっており、あまり見た目もよろしくはなかった。
「腸閉塞になったりしたら、あっちでやるのそっちでやるのってな問題じゃないわね」
ミシマはけけけ、と意地悪く笑う。 

「ところで」
プチトモスを料理したキセキは腸閉塞に責任は感じていないようだ。みんなが吐き出した後の、料理類の後片付けをマメにしながら首を傾げた。
「乙姫様の到着はまだなのでしょうかね。私は約束を守らないような人間とは付き合う価値はないと思うのですが、皆さんはいつまでここにとどまっておくつもりなのですか?」
「それも確かにそうね」
友巣は頷く。
「こうしてたれちゃんてス子ちゃんは無事なわけだし、織姫様は新しい彦星様を手に入れて御満悦なわけだし、クロス氏も意外や美人な織姫様に満足してるみたいだしね」
ひつじも同意した。

「ねぇ」
てす子が控えめに呟く。今までのあまりに耳を覆いたくなるような話にすっかり圧倒されて顔色も幾分悪い。
「今、ひつじさん、パピーのこと『新しい彦星様』って言ったよね?」
「あ、ああ。ものの例えだね」
「それって、例えにならないわ。……パピー、来年の七夕にはミイラ的死体になっちゃうってことよね?」
てス子の思いも掛けない発言に、あっと皆は顔を見合わせた。
てス子はぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「だから来ちゃダメって言ったのに……。この中ではパピーが一番カッコイイから、きっとこうなるって思ったわ」
ひつじとキセキが憤然として顔を見合わせた。
「確かに、クロス氏が一番ご自身の欲望に素直かつ忠実な上に本能に健全なまでの反応を示すから、ま、織姫様が美人だったとあってはこうなるのが自然の成り行きよね」
ミシマの言葉を聞いて、てス子が人知れずキッと睨み付けた。

「では、『男を引き止めておくことにかけては右に出る者がいない』乙姫様が来る前に、クロス氏を織姫様から引き離さねばならないということなのでしょうか?」
キセキが修辞的な質問を投げかける。
みんな、てス子さえいなければ、クロスを織姫様との愛の巣から無理矢理引きずり出そうなど、露程も思わない。むしろ、クロスとしては愛の行為の果てに儚くなれば本望なのではないかとさえ思っているのだ。
しかし、たれっちを両腕に抱えて目に涙をいっぱい溜めて愛くるしい顔を苦痛に歪め、じっとりと上目遣いで大人達を見ているてス子の期待は裏切れなかった。
みんな、いい大人だからだ。

「仕方がないわね」
ミシマはフフンと鼻を鳴らして眼鏡を拭いた。
「乙姫の到着については、気になっていることがあるのよね」
ミシマは続ける。
「『怪人コトモス』というのが暴れ回っているらしいわね。実体があるかどうかさえ怪しいヒメ達を虐殺してしまったわ。ネーミングからして、友巣さんと古都の融合体ではないかということは想像出来るんだけど、ひつじ氏のまとめたレポートによると」
言って、ミシマははさりと一枚の紙を広げた。

「織姫様の永遠の命と美貌を保証している『聖杯』を求めているようね。しかし、彼女は今や消滅の危機にあるとあたしは思う」
「どうして?」
「『コトモス』という名前から、彼女の存在意義の別面を考えたのよ。まず浮かんだ言葉はコスモス、つまり宇宙ね。これは、今回の舞台がまさに宇宙であることを予示していたことに他ならない。そしてもう一つはパトモス。聖ヨハネが流刑中電波を受け取った島の名前として有名だわ。これは、たれちゃんが織姫様の電波を傍受してしまったことを思い起こさせる」
「スゴイわ、アキラちゃん。いつにも増してあなたが一番電波受信している感じよ。そこまでこじつけることが出来ればカバラ数秘術も吃驚だわ。リンカーンもブッシュも何でも来いね」
古都が尊敬とも皮肉とも分からない感想を述べた。
「無意味だなぁ」
ひつじが苦々しく笑った。
「あなたのオリヒメ類似項騒動がこの謎を解くヒントになったのよ。今更そんなこと言わないで」
ミシマの低い呟きに、ひつじは大人しく黙る。
「こうして『コトモス』の名前の謎が解かれた今、『コトモス』は用済み。もうクロス氏を悩ませることもないはずよ」
「どうしてパピーをコトモスが悩ませてるって、ミシマさんは分かるの?」
「え、みんな分からないの?」
ミシマは驚いて見回す。
「虚実が錯綜してて実に不明瞭だね」
「ADSLは妨害電波の影響を受けやすいのよ」
キセキと古都が返答ともつかない返答をした。

「そして次なるキーワード、これこそ乙姫の到着の遅れを解く鍵だわ。つまり、古都。あたしとあんたが二人に分かれたのはこの鍵のためだった。Tomosさんが無意識に発したと思われる『コトヒメ』、実に『オトヒメ』と良く似た響きだわ」
「へ??」
ミシマの冗長な話に飽きてピアスを留めたり外したりして遊んでいた古都が、突然指を突き付けられて思わずピアスを落とした。
「確かに」
友巣がまじまじと古都の顔を覗き込む。
「容姿はともかく、ストーカー体質なところなんかソックリかも」
「へ??へぇえ???」
古都は耳たぶを触ってオロオロしている。
「ティファニー、落としちゃったぁ!」
途端に涙顔である。
「古都、オルフェウスとエウリューディゲの未来はあんたの双肩にかかっているのよ!」
「アキラちゃん、電波受信するのはいい加減にやめてぇ……(涙)」


55   歪む時空の水平軸で 2002/07/23 19:34:30  WakiTomos  

誰かがきっと待っているかどうか解らないが、なんだかカオス状態に拍車がかかっているような。
ちなみに織姫一族は「単口性」ではなく「単孔性」です。卵は買ったら良く洗って冷蔵庫の卵入れに入れましょう。
ああ、ところで、星新一のショートショートで外面的には地球人そっくりの異星人の星へ地球人が初めて遭遇して、でもその異星人は、口が肛門の役割を果たし、肛門が口の役割を果たすことが最後にわかったという話があったのを思い出してしまった。イソギンチャクとかだと、口も肛門も同じなんだけど。あれ?また閑話休題。

さて、時空をひとっ飛びして目を血走らせてくろす氏に突撃インタビューしたのはわたしですが、友巣と言われるのは心外ですね。あんなぬいぐるみフリークな女と一緒にしてもらわないで欲しいわね。さて、時空を縦横無尽に行き交い、殺戮を悦びとする私って誰?怪人コトモス....古都と友巣の合体ですって?1未満の数同士を掛け合わせたら、値はもとの値より小さくなるのよ。1以上のものをかけないとね。え?何の話って?だから、コトモス<コト&コトモス<トモスってことね。神ならぬ至らぬ人間どもが何人かかってもわたし一人には至らないのよ。え?足せばいい?そうなんだけどね...大きい値の方を小さい値で割る?それもあるけどねっ。

ああ、なんかミシマが五月蠅いわね。召還しようとやっきになってるみたい。隠密行動もこれまでかしら?それとももう少しとぼけていようかしら?うふっ、世の中って面白いことばかりよね。


56   ルネ・マグリット的どこでもドア 2002/07/28 00:02:28  たれっち  

プチトモスは胃にもたれた。もたれにもたれて文章ももつれもうたれたれ。
F氏だけは何故か元気だった。おでこに四次元ポケットというのがファッション的に斬新だ。
「ちょっとルネ・マグリット意識しましてね」
「あ、それなら青空にどこでもドア作ってくれると嬉しいな、ぼく的には。ゼブラ柄なんか格好よくない?」
たれっちはF氏に頼んだ。どこでもドアは、のろいたれぱんだには、憧れの的なのだ。
「簡単ですよ。これさえあれば、無駄な高速道路を作る資金も節約出来るし、何より地球環境にいい」
F氏はおでこの四次元ポケットからひょいとドアを取り出した。・・・着せ替え可能の携帯電話のようなゼブラ柄の・・・。
「青空にゼブラ柄・・・」
古都氏はたれっちのセンスに呆然とした。また胃もたれに拍車がかかりそうだ。
「まあでも柄はともあれ、薔薇星雲には行けますよね」
ひつじ氏は、古都氏ほどファッションに拘りがないので、平然としている。
友巣は最後の一押しという感じで、顔面蒼白だ。自分の髪の毛で自家中毒を起こしている。

いざ!大宇宙の彼方へ!

・・・ところで、怪人コトモスに惨殺された織姫の親戚たちは?

実は五月蠅い外野を厭ったクロス氏の妄想なのだった。
「三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい」
傾国傾城の美女の前では誰もがそう願うのだろう。

ところが、間もなく五月蠅い外野が登場するのだ。これは更に血を見ずにはいられまい。その時こそ、真実がヴェールを脱ぐときなのだ!


59   人生は悪い夢さ 2002/07/31 21:51:28  たれっち   

その声に驚いて目を覚ました。目の前には、ヒメたちの首なし胴体と首が転がっている。雲は血で一面に赤く染まり、重力の法則に従って血は海に滴り落ちている。何十という死体。雲が大理石で出来ているなら、足首まで血に埋まっているだろう。だがこの雲は血でぬかるんでいる。水蒸気で出来ている筈なのだが。

 コン

と誰かがヒメの切り落とされた首を蹴った。首は鞠のようにころころと雲の上を転がり、切れ間から海へ落ちた。コン、ゴロゴロゴロゴロ.....コン、ゴロゴロゴロゴロゴロ.....ぼくは恐ろしくて顔を見上げてその人を見ることが出来ない。その人はぼくの耳元に黒猫のような声で囁いた。
「ご覧、血の臭いに気づいて海に鮫が集まっているのだよ。だけど、ほら、首は餌にならないから胴体を欲しがっているんだ。待っておいて。今、あげるからねえ。」
怪人コトモスの声だ。僕は怖くて怖くて体が強張って動かない。

「オシリヒメ、オマケヒメ、胴体を海へ放り込んでおしまい」
ひいっという声がして、それからよたよたとした物音が間断なく聞こえた。ここは何処なのだ?血の池地獄だろうか?現実なのか?夢だ。夢に違いない。早く覚めなければ。早く....。
「ほうら、最後はお前たちも飛び込むのだよ」

酷い。まるで生き埋めにするために穴を掘らせるようなことを....。反撃すればいいのに。2対1なのに。そうだ、ぼくはそう叫びたいのに!ぼくがコトモスの足を押さえていれば、二人とも逃げられるかも知れない。ぼくは必死になって体を動かそうとした。だが、金縛りに会ったみたいに耳鳴りがして体が痺れて動かない。
「逃げて!」
ぼくはあらん限りの声をふりしぼって叫ぼうとした。それは声になったのだろうか?


60   たれちの子守唄ふたたび 2002/07/31 23:23:46  ひつじ@羊亭  

ところで、こんな惨劇が行われているというのに、怪しいランチタイムをしているともす一行って、ずいぶん気楽なものだ。惨劇はきっとオリヒメ邸の庭先ででも行われていたのだろう。彼らがプチトモスで食あたりをしたオリヒメ邸の大広間からは外の様子がわからなかったらしい。こっそり出て行って嫌なものを見たたれっちも気の毒というものだ。

いや、もう一人気づいた者がいた。共鳴したというべきか。古都が例の子守唄を歌い始めたのだ。

 たれるりたれるらたれちぞな
 くびをはねるはたれじゃいな
 うでをたべるはなぜじゃいな
 ゆかにたれるはなんじゃいな
 たれるりたれるらたれちぞな

「来たーっ」
ミシマだけは、何かを知っているらしい。
「って、何が」
と、聞きたいのはひつじだけじゃない。
「古都が目覚めつつあるのです。」
「目覚めねえ。でも、古都ちゃんの唄って、たれちゃんが歌っていた歌詞と少し変わってるみたいだけど、あんまり気持ちいいもんじゃないわねえ。」
さっきまで、共食いもどきをしていたともすが言うべきせりふではない。

古都はもう何も聞いていなかった。より不気味さの増した「たれちの子守唄」を歌いながら、よろよろとオリヒメ邸の外へ出て行った。
外では、たれっちが血の海の中で泳いでいた。少なくとも、ともすにはそう見えた。その後ろには巨大なオオサンショウウオのようなものと、二人のヒメ。

「きゃー!!」
ともすの声に飛び出そうとするてス子をミシマが押しとどめた。
古都は子守唄を歌いながらさらに血の海に近づいていくのだった。


61   古都はミラクル・プリンセス 2002/08/02 22:24:56  WakiTomos 

「たれっちが白目剥いて血の海の中でクロールしてるよ!凄いよ、見て見て!」
惨状を目の前にして、友巣は未だ物見遊山気分である。
「間抜けな顔だなあ。まるで目を入れる前のモノクロ・ダルマ!」
「友巣さん....浮いてるよ、この状況で...」
ひつじ氏が困惑した顔をして言った。友巣の悲鳴は驚愕ゆえではなく、ミーハーな驚きゆえだったのだ。
「このたれぱんだおたくが」
ひつじ氏は吐き捨てるように言った。

「おや、織姫にお客様?」
嫌に落ち着いた艶のある声が血塗れで怯えた二人のヒメ達の向こうから聞こえる。
「そこをおどき」
二人のヒメは、抱き合って震えながらよろよろと退いた。そこには、輝くばかりの美姫が佇んでいた。しかし、不釣り合いなことに彼女の上にはオオサンショウウオのようなものがふわふわ浮かんでいる。

「ごきげんよう」
「あら、ごきげんよう」
「友巣さん、なじまないでっ。相手は怪物よ!」
ミシマが警告する。
「え?美女じゃない」
友巣の場をわきまえないミーハーぶりに一同が脱力しそうになる。その賓客ならぬ珍客達をオオサンショウウオのようなふわふわしたものを頭の上に浮かせた美女が目を細めて眺めている。細めた瞳の奥には尋常でない光が宿っている。
「怪物とはご挨拶ね。私は乙姫よ」
思わず一同がどよめいた。
「ひつじさんが織姫と間違えた成り行きで出てこざるを得なくなったキャラ!」
ひつじ氏は憮然とした。

「乙姫さま、さっきから気になってるんですが、上に浮いてるオオサンショウウオのようなふわふわしたものは何ですか?」
「ああこれ?日傘がわりね。私、普段は海底に住んでいるから、紫外線に弱いのよ」
「なごえもんなの〜〜〜〜」
オオサンショウウオのようなふわふわしたものがほわほわした声で言った。

「聞き捨てならない!」
今まで俯いていた古都が叫んだ。
「五右衛門がそんなサンショウウオの水死体みたいなものと同じ名前だなんて!」
オオサンショウウオのようなふわふわしたなごえもんは暢気に答えた。
「Not Goemonをアメリカ英語の発音丸出しで言ってね」
「なっごえもん」
「そうそう」
再びみんな脱力しそうになった。
「ダメよ!これは彼らの戦術なのよ!」
古都は再び叫んだ。

 たれるりたれるらたれりんり....

たれっちが血の海でクロールしながら白目を剥いて歌い始めた。

「そうよ!たれてはいけないのよ!倫理観を回復させなければ!」
古都は凛々しく叫んで、右手を天に伸ばした。右手の指先から蛍のような光が粉雪のように煌めき出る。古都は再び叫んだ。
「古都 ミラクル・プリンセス メークアーップ!!!」
強烈な光があたりを満たした。超新星の爆発のようだが熱はない。骨さえも透けて見えるほどの輝きだというのに。ところで、話がこんな所に飛んじゃっていいんだっけ?まあいいや。とにかく先を進めれば、光源に黄金の甲冑を着、緋色のマントを羽織ったミラクル・プリンセス古都とメカたれに変身したたれっちが佇んでいるのだった。

「古都さんとたれっちって、柄谷の『倫理21』読んだのかなあ....」
F氏が不安そうに呟いた。
「それどころじゃないのよ!男性の方々!」
ミラクル・プリンセス古都は言った。
「旧暦の七夕はこれからなんだから!」


62   Re^2:古都はミラクル・プリンセス 2002/08/04 02:19:49  ミシマアキラ  

「な、何ィ!」
キセキが叫んだ。
「そういうオチかい!」
ひつじも叫んだ。
「まだオチてない!」
ミシマは突っ込む。
「そう、物語はこれからよ!」
古都はハッスル。
「さぁ、行くわよ!たれちゃん!」
メカたれぱんだに乗り込む古都を見て、てス子が呟く。
「てス子の方が絵的に似合ってると思う……」
古都があと数年で三十路だということはこの際内緒にしておいてあげよう。

かくしてクロス奪還戦争の幕は開けた。
「今年の旧暦七夕は8月24日。タイムリミットはあと二十日ね」
友巣はパラパラとカレンダーをめくりながら呟く。
「あれ、古都さん仕事だって言ってませんでしたっけ?」
キセキが思い出したように隣のミシマに尋ねた。
「一段落ついたんだって。念願叶ってのコスプレに、我慢出来なかったみたいね……」
ミシマは呆れたように俯いて溜息と共に首を横に振る。
「戦闘はガラじゃないわ。あれはあっちに任せておいて、こっちはこっちで解読作業をしましょう」
友巣がはらりとメモを広げる。

 たれるりたれるらたれりんり
 くびをたれるはたれじゃいな
 うでをたれるはなぜじゃいな
 ゆかにたれるはなんじゃいな
 たれるりたれるらたれりんり

 たれるりたれるらたれちぞな
 くびをはねるはたれじゃいな
 うでをたべるはなぜじゃいな
 ゆかにたれるはなんじゃいな
 たれるりたれるらたれちぞな

「古都ちゃんは、この歌を何故、歌ったのかしら? たれっちのものとは少しばかり違う、この歌を。たれっちが電波傍受して歌ったのは前者で織姫様の電波。古都ちゃんが電波傍受して歌ったのは後者で乙姫様の電波。これに、一体何の意味があると言うのかしら?」

美姫の高笑い、もう一人の美姫の嬌声、そしてガシャーンガシャーンというメカの音、古都がたれっちを励ます声と、クロスの呻き。間で挟まる「なのぉ」という間延した、あぶくの弾けるような和やかな音。
「とてもじゃないけど……」
メンバー中唯一の良心と成り果てたてス子が嘆く。
「尋常じゃないわ」
ここへみんなを誘ってしまったのは自分だと言う事実は忘れてしまったようだ。


63   古都姫の必殺技は何だ?! 2002/08/05 21:09:09  WakiTomos 

「古都、お前、私を裏切ることが出来るのかえ?」
乙姫はドスの利いた声で言った。
「え?なんのこと?」
メカたれっちが聞いた。
「ふふふふふふ」
古都は不敵に微笑んでいる。
「私の世を忍ばない仮でない姿は古都S太。だけど、変身したときは、ミラクル・プリンセス古都、またの名を」
とポーズを決めて右斜め45度カメラ目線で見栄を切ると、何故かどこからかシャキーンという効果音が轟く。
「愛と倫理の美女戦士、フォトショップ古都姫!」

.....ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待った何でフォトショップよ。え?本業がイラストレーターだからなわけ?
「そゆこと。重要な点は、変身したら魚系の名前が入ってないのよ!貴女の支配は受けないわ!」
「え?じゃあ、なごえもんは山椒魚だから乙姫様の家来なの?」
メカたれっちがもともとまん丸な目をもっとまん丸にして(そんなこと可能か?円形の精度を上げるってこと?)聞いた。なごえもんは乙姫の上でふわふわ浮かびながらのんびりした声で言った。
「そうなの〜。でものんびりしてないとしんじゃうのお。だから役に立つのは日傘程度なのよ。」

倫理ね、と乙姫は鼻でせせら笑った。
「魚の世界は大量出産、大量死の世界よ。虐殺なんかでびびってたら大笑いさ。何が愛と倫理よ。冷徹な自然の摂理こそが真実よ。」
メカたれっちが怖いよ〜と泣きじゃくっている。
「こんなこと言ってるよ〜。なごえもんちゃん、なじめるの?この人に。」
「なじめないかも〜。」
「あのさあ〜愛と倫理がないともっと魚の種類減っると思うんだけど〜。漁獲技術上がり過ぎちゃってさ。」
「うっ」と乙姫が詰まった。こんなことでへこんでどおする乙姫!

え〜と〜。それで、怪人コトモスはどうしよう。懸案事項だわ。


64   つじつまあわせ 2002/08/06 23:13:48  ひつじ@羊亭  

「で、おまえたちは、何をしようというの?」
乙姫は、改めて一行を見据えた。

「パピーを返してほしいの」
テス子は動じることなく言った。

「パピー? ひょっとして、織姫の今年のオトコのこと? 返すったって、本人は喜んでるんじゃなくて?」
ホホホホホと高笑いをしながら乙姫は、物色する目つきになった。

ほどなく、にらみ返したFと目があう。
「だめね。もう少し大人になりなさい。」
その瞬間、「男をたらしこむ技術については」という評判を思い出したひつじだったが、
「あなたもだめ。言葉を知ってるだけじゃ、本物じゃない。」
乙姫の視線は通り過ぎる。
そして、いったん通り過ぎた視線がミシマのところに戻って止まった。
「あなたよ。いらっしゃい。私が幸せにしてあげる。タイやヒラメのマイオドリよ。」

「でも、ミシマさんって、本当は・・・」と言いかけた友巣を、ミシマは一瞬目で制したあとで、急に脱力した表情になった。
「も、もちろんですとも、オトヒメさま。。。」
ほどなくミシマを手中にした乙姫は、片手でヒョイとミシマを自分の肩に乗せると、もう一方の手でなごえもんからたれさがったヒモを引いた。
「いいわね。あなたも、薔薇星雲に行くのよ。なごえもん、準備はいい?」
「だいじょうぶなの〜〜〜〜」

ガスが突然わいてでたようになごえもんが膨らむと、乙姫はミシマをかついだまま天空高く消えてしまった。

「そんな、ミシマさんまで」
ことの成り行きに驚きながら、ひょっとすると自分があの立場になっていたかもしれないと考えると、ほっとしたような、うらやましいようなひつじである。
「でも、ミシマさん、さっき私に合図をしていたような」
友巣も、どうするべきなのかわからないでいる。

わらわらわらわらわらわら・・・・・・

二人のヒメがおびえきった様子で何かを言っている。
「わらわらを、わらわらを殺したのは、さっきのヒメじゃ。あれは、ヒメではありませぬ。ヒメのふりをした怪人じゃ。だって、わらわらを、わらわらを・・・」

「そうよ。早く追わなきゃ。ミシマの時間稼ぎも、そんなに通用しないだろうし。メカたれっち、いいわね。」
古都姫は元気いっぱいだ。
「でも、ぼく、メカになってもたれてるし、スピードを期待されても」
「何を言ってるんですか。何のために、私がマグリットの扉を出したと思ってるんですか。」
「そうか、Fさん、忘れてたわ。」


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