雪暈館の悲喜劇・・・・・・・パッチワーク小説-2(2002.5.30-6.9)「たれっち」の強引な召還により、当時のサイト主な訪問者が皆登場人物になってしまった。好き勝手な謎解きや裏返しを続けたあげく、別スレッドだった「パッチワーク小説−1」すらも掲示板の容量の関係で消えてしまい、無限増殖型掲示板導入のきっかけとなった。今にして思うと、ほんの10日ほどの書き込みだった。------------------------------------------------------ ご要望にお応えして(泣) 投稿者:たれっち 投稿日:2002/05/30(Thu) 21:20 No.315 肢体が出てから官能小説が展開されるように、死体が出てから推理小説は展開されるのだ。まるでとってつけた言い訳のような地の文から始まるこの一文に文句をつけないでもらいたい。 「さて、利尻富士山頂の遺体は誰なのかしらね」 友巣はソファーでセーラムピアニッシモを燻らしている。店子なのだから換気扇の前で吸うべきだと思う。 「それに三億円は何処に消えたか・・・」 何故煙草をやめないのだろう?人生に於ける楽しみの一つを諦める理由がないという理屈で、月1箱ペースの煙草をやめない。 「順当に考えると「俺」の側にいる砂漠でカラムーチョを散布するような酔狂な「お前」なんだけど、「お前」って誰かしらね?・・・たれっち・・・」 友巣は僕を見つめた。僕は次の言葉を待った。 「私のおやつの五三焼カステラ、留守中に食べたでしょう」 僕は否定しようとしたが、言葉を吐く前に呼吸困難に陥って「違う!」と言えなかった。言葉を待って息を詰めていたのだ。汚い!昨日の晩、友巣が夜食に食べた癖に!これでは容認したことになってしまう。僕は焦ったが、友巣は滔々と自分の推理を展開している。 ------------------------------------------------------ てス子の分はないの? かすていらのことなの! せっかくおよばれしに来たのに。。 話が違うわね。。 ------------------------------------------------------ 「てす子ちゃん!」 僕は慌てた。 「来て頂けると思いましたよ、てす子さん。ダージリン如何?」 友巣はにっこり微笑んだ。 「あら、有難う。頂くわね」 友巣はダイニングにてす子を促した。 「カステラは無事だと思いますよ。 http://ep.st35.arena.ne.jp/cgi-bin/mbspro/bbs.cgi?room=hana の [2425]の書き込みがありますからね。私が食べたとたれっちは言っているけれど、何処かに隠してあるんでしょう。貴女に食べてもらいたいと思っているならおそらくうちで一番上等な隠し場所、輪島塗の菓子器の中に・・・」 友巣は食器棚の扉を開けると銀の兎を象眼した漆塗りの黒い器を取り出した。 「ほらね」 蓋を開けると器の中には五三焼きカステラが厚切りで2切れ入っている。 「まあ、やっぱりあったのね」 てす子は父譲りの琥珀色の瞳を輝かせた。 「紅茶で頂きましょうね、貴女と私で」 「ちょっと待った」 と、後ろから声がした。無機的な細面のクロス・ヨーゼフがいつの間に立っている。 「じゃあ、たれっちは友巣氏が食べたと嘘を書いたわけだね。真抜けでバカ正直なワトソン役なのに。掟破りじゃないか?」 まさかクロスパパまで登場するとは!僕はたじろいだがプロテクトするしかない。 「語り手が常に自分にとっての真実を述べなければならないというルールは既に過去のものだと思う。例えば、殊能将之の『鏡の中の日曜日』の推理作家の語りとか・・・」 「ああ、あれ読んだけど、自分で自分をごまかしていることに気付かない偽善者だろ。それで言うなら麻耶雄嵩の『メルカトルと美袋のための殺人』だって自分にとっての真実は語っているが、客観的に錯誤だったという手法が使われている。でも故意に虚偽の語りはやっていないんだ。ルール違反だ」 「う〜ん、まあ麻耶雄嵩の『翼ある闇』が微妙な所かしらねえ」 友巣はテーブルに紅茶を並べながら言った。 「でも惚けているだけで明らかな嘘は言ってない」 クロス・ヨーゼフは僕を睨みつけた。 「カステラごときでどうしてこんなことになるの?もともと利尻富士山頂の死体と三億円の・・・」 「違うね」 クロスは侮蔑を込めて言った。 「文学手法の問題だ」 それは違う!と僕は思った。どうして最近の「推理小説」は本題からずれて蘊蓄語りに走ってしまうのだ? The shorter, the betterは推理小説には当てはまらないが如くに蘊蓄でどんどん長くなって行く小説。友巣はあまりの厚さにお風呂読書でかえって肩凝りが酷くなった。 「本題に戻るべきだと思う」 僕はきっぱり言った。 「ごまかしちゃダメよ、たれちゃん」 てす子がカステラを頬張りながら言った。 「カステラが何処にあるかなんてささいなことより、利尻富士の死体と三億円の所在の方が重要だと思う」 僕は諦めなかった。正論じゃないか。 「でも、それは警察の管轄じゃないかな?」 いつのまにか、ひつじ氏が赤いヴェルヴェットの飾り椅子に座っている。眼鏡の奥の瞳からは僕への疑念が見て取れる。 「カステラに関しては民事だからね。警察は民事不介入。我々で解決しないと」 「ま、いんじゃない?こうしてカステラ食べられたし」 てす子はカステラをつまんだ可愛い指を嘗めている。 「あのさあ、これってこういう展開で進んじゃって良いわけ?」 いつの間にソファーに古都が座っていた。 「たれちゃんは、友巣さんが留守中カステラを隠した。それでてす子ちゃんの所におやつの招待の書き込みをした。重要なのは、たれちゃんは、友巣さんが死体じゃないことを最初から知っていた。何故なら、死んでいるとわかっていれば、カステラを隠す必要はなかったから。香典云々の書き込みは冗談だよね。」 「どうかな?」 クロス・ヨーゼフは遮った。 「僕が三億円持っているとふんだんじゃないか?だから気前よく一万円くらい香典を出すと思ったんだろ」 「クロスさんが持っているなら、問題ないね。もともと彼のものだから。だけど、青酸カリのカプセルを飲ませた「お前」はクロスさんなのかな?」 ひつじ氏は、クロス・ヨーゼフを眼鏡ごしに凝っと見つめた。 ----------------------------------------------------- てきとー てス子
- 2002/06/01(Sat) 01:56
No.324 「さてと」 パピーはたれちゃんをひょいとつまみ上げ、ぽいと窓から投げ捨ててしまいました。 「アフっ」 ともちゃんがへんてこな悲鳴をあげた30秒後、外でぽちゃんと音がしました。あまりに急なパピーの行動だったので、わたしも他の人もたれちゃんを助けることができませんでした。みんなあっけにとられていたのです。 「てス子わけわかんないっ!どうしてたれちゃんをそんな目に!たれちゃんが何してってゆうの?!」 「うるさいっ!(バシッ)」 わたしはパピーを激しく非難しましたが、ビンタをもらって泣き崩れてしまいました。散乱したカステラの中にうずくまり、わたしは心の底からパピーを呪いました。 (パピーなんか死んじゃえ、パピーなんか死んじゃえ・・) 殺意がメラメラと燃え上がりました。これがパピーの仕掛けたトリックの一つだったなんて、その時は知る由もなかったのです。 パピーは再びひつじさんに向き直り、言いました。 「ひつじさんひつじさん、あいにく私は絵に描いたような堅物でしてね、例の「お前」氏みたいな酔狂さは持ち合わせてはおりません。砂漠にヘリを飛ばす財力もありません。もちろん三億円なんて大金見たことも聞いたこともありません。要するにですね、私はこの件とは無関係なわけです」 「なるほど」 そのときです。雪暈館がものすごい縦揺れとそれに続く横揺れに襲われたのです。 「ギャーッ!ギャーッ!」 それまでお人形のように無表情でちょこんと座ってたことちゃんが突然、狂ったように暴れ始めました。 「大丈夫です、落ち着きなさい」 どさくさにまみれて、ひつじさんがことちゃんに覆い被さりました。ひつじさんは何かてス子の知らない、いけない遊びをことちゃんに仕掛けているみたいでした。眼鏡の割れる音がしました。パピーは机の下に潜り、にやにやしてその光景を眺めていました。 「何なのよお?地震なのお?ケッタクソワリーぜぇ全く!」 お風呂場からともちゃんの声が聞こえました。いつの間に入水してたのかしら?かなり謎かも。 (ぼとっ) 天井から何か白い物が落ちてきました。見るとたれちゃんでした。息をしてませんでした。わたしはチューしてあげました。たれちゃんは死んだフリしてたみたいで、突然わざとらしく息を吹き返して抱きついてきました。 「やめてっ!ずるいわよたれちゃん!大体どうして息してるの?生きてないはずなのにっ!」 私はたれちゃんを振りほどき、床にうち捨てました。たれちゃんは二、三回バウンドして再び窓の外へ落ちました。20秒後にぽちゃんと音がしました。私はたれちゃんが心配になって、激しい揺れの中を必死に窓まで這いずっていきました。わたしが王朝風窓枠に手をかけたそのとき、たれちゃんの嬉しそうな悲鳴が・・・・ 「あっ!ゴンちゃんだっ!ゴンちゃんが来たよぉぉぉぉ!!!!」 ほとんど同時にパピーの叫び声がお風呂場から・・・・ 「友巣はんが消えた!下着だけ残してっ!やはりゾンビだったのかぁぁぁぁっ!!!!」 ------------------------------------------------------ てス子 黒ス
- 2002/06/01(Sat) 15:12
No.327 やめなさい。ここはよそのおうちだよ。みんな戸惑ってるじゃないか・・・ 皆様お騒がせしました。娘には虚言癖がありましてね、彼女の言うことをまともにとられないよう、どうかよろしく。 さて、ひつじさん、あなたは妙な疑いを私に抱いておられるようですが、はっきり申し上げましょう。私たち親子はこの件には一切無関係です。何せ私たちが北の大地に生まれて初めて降り立ったのが今日の正午過ぎなわけでして、その頃にはすでに死体は発見されていたはずです。みなさんの会話から推測するにね。しかし正直に申し上げますと私は、利尻富士山頂に死体が出たという事実そのものを疑っております。どなたか確認を取られました? そうなんです。誰も「山頂に死体」とは言っていない。一匹のパンダを除いてね。これも虚偽の語りである可能性がある。 そんな事件、ニュースでもやってませんよ! 大体にして不自然なんですよ。どうして死期の迫った男が大金を担いで山に登る必要があるのでしょう?まあ、死後ヘリで運ばれたっていうんなら別ですが。 あ、このカステラおいしい・・・ あと一つの疑問、それは誰が何のために私たちをこの館に集めたのかということです。私たちはカステラにつられてのこのこやってきたわけですが、ひつじさんと古都さんはいかなる理由でこの屋敷にいるのですか?誰に呼ばれて来られたのですか? ------------------------------------------------------ しまった先に書かれたか たれっち
- 2002/06/01(Sat) 18:58
No.329 筒井的展開をどう軌道修正するか周到に考えて書き込みに臨んだのに・・・。 閑話休題。 「ひつじさんと古都さんに関してですが、推理を展開する時には、複数の人間が集まるのが定石ですから、賑々しくしようと思ったまでです」 僕は答えた。 「登場の仕方に問題はありませんか?「いつのまにか」がわたしを含めて三人、まるで降って湧いたように登場した訳です。まさにミステリー」 クロス氏は肩をすくめた。珍しく僕は汗をかいている。 「それを言うならてす子さんだって、掲示板に書き込みをしていきなり登場したわけですから・・・外生的な不確定要素が極めて多く・・・」 「まあ、とにかく遺体に関しては記述があるわけで、それを検討することは出来る訳よね」 ソファーに深々と身を委ねた古都は、古手川祐子似の黒い瞳を輝かせて言った。 「おや、紅茶が濃く出過ぎたようだ。ミルク取って頂けますか?てす子さん」 肩を落としてうなだれていたてす子は、はっとしてミルクピッチャーをひつじ氏に渡した。 「どうも有難う。さて、遺体の所在は、利尻富士が見える地面と言うことが出来ますね。たれっちは山頂と言っているけれど、最初に出てきた「俺」は「利尻富士でも見て死ねって言うのか」と言っている。山頂でも利尻富士を見ていないわけではないが、普通は離れた所から全景を見て言う言葉ですよね。ですから、クロス氏が言われるように山頂に死体がある可能性は低い。ところで、クロス氏は、北の大地には生まれて初めて降り立ったと言っておられるが、北の島には初めて降り立ったとは言っていない。すなわち、利尻か礼文には行かれた可能性を示唆しておられるわけですね」 クロス氏は黙っている。ひつじ氏は続けた。 「貴方はその遺体を実際にご覧になっているのではないですか?描写が詳し過ぎる。強烈な腐乱臭とディオリッシモの香りも嗅いでいるわけで」 「葬儀で聞いただけですよ。友巣さんの実家が私の住まいの小金井市ですから。たまたま通りがかりに・・・」 クロス氏は反論した。 「・・・それ、恐らくうちの実家じゃないと思いますけど・・・」 友巣が口を挟んだ。 「パピー、間違えたのネ」 てす子が可笑しそうに叫んだ。クロス氏は顔色も変えず 「そのようだね。実際わたしは友巣さんの実家を知らないし。こうして友巣さんは生きているわけだから」 と言った。 「じゃあヴァルプルギスの夜の親戚一同のご面々って?」 古都が畳みかける。 「香典持っていくほどの面識もないしね」 クロス氏はこともなげに言い放った。てす子はさも可笑しそうに聞いた。 「パピー、誰のお葬式行ってたの?」 「てす子、君だって友巣さんが亡くなったと思いこんでいたじゃないか」 クロス氏は困り切った顔で言った。 「ところでたれっち、君は何故、友巣さんが利尻富士山頂で亡くなったと書いたのかな?」 ひつじ氏がいきなり話題を矛先を向けて来たので、僕は驚いて紅茶にむせてしまった。 ------------------------------------------------------ しかしですね 黒ス
- 2002/06/01(Sat) 21:32
No.332 基本テクストでは葬儀の場を出ると利尻富士が望めると記述されていたような気もします。私が小金井で通りすがりに摩訶不思議な葬儀に立ち会い、何らかの理由で死んだのは友巣さんだと思い込んでしまったけれど友巣さんは生きていて彼女の存在自体が私の思い違いを証明している、にしてもですよ、私が出席した葬儀とテキストに記述されている葬儀とは似て非なるものであるわけです。問題の葬儀は利尻富士の見える北の大地あるいは島で行われたのですよ! そこでです!友巣さんに訊きたい!あなたの周りで今朝から行方不明になっているディオリッシモな人物はいませんか?いるはずですよ!はっきり答えてもらいたい!どうですか?いるでしょ?どうなんですか?! ------------------------------------------------------ あら?変ねぇ てス子
- 2002/06/01(Sat) 21:41
No.333 ともちゃんのディオリッシモが激減してるの・・・ ここにいる誰かが何らかの特殊な用途に使ったのだと思うの・・・ ------------------------------------------------------ ほんとだぁ! 誰っち
- 2002/06/01(Sat) 21:45
No.334 でもぼくじゃないよ! ------------------------------------------------------ 乱入 ひつじ
- 2002/06/01(Sat) 22:05
No.335 ちょ、ちょっと待ってくださいよ。 うちに来た案内には、「けさ ごしゅじ しにまた きてくださり かすてらあいます」と、 Eメールに入ってたのですよ。わたしゃ、一番に旅行社へ行って、今朝出発で初日に小樽1日フリーがあるツアーを探して駆けつけたというわけですよ。 しめやかなお葬式かと思えば、突然ホラー映画のように家は揺れるし、古手川祐子に似た女性に抱きつかれるし。。。 お願いですから、こんなややこしい推理ドラマはごめんです。明日はバスで富良野に行くんですから。 しかし、このカステラはなかなかにうまいものですなあ。紅茶のほうも、ミルクとよくあってます。 ところで、矢川さんは、今日はおこしにならないんですか。 ------------------------------------------------------ 遅参につき 古都
- 2002/06/02(Sun) 08:14
No.339 あたしは何故ここにいるのかしら。 確か、決して広くはない2DKのアパートで愛用の Macを突きながら、友巣姉のホームページ内の水晶迷宮の謎を読んでいた。そこに登場したのは……あたし? 「まさか、そんなことあり得ないわ!」 あたしの脳裏にはかの名作「はてしない物語」そして「ソフィーの世界」が過った。ソフィーに至ってはつい数日前に読み終わったばりだった。要するに、ドラマティックアイロニーについて大袈裟に語った、蘊蓄物の推理小説風おとぎ話だったのだけど。手法は古典的、と思った。 それだけに、ここに今いるあたし自身が解せない。 もう、あれを大袈裟なドラマティックアイロニーとは笑えない。 「何故あり得ないのです?」 あたしに抱き着いておきながら、「抱きつかれた」と表現した少女漫画評論を著すひつじ氏が、紅茶を飲み、カステラを頬張りながら聞いてくる。眼鏡が割れているのは、どうやらあたしの鉄拳だったらしい。記憶がないのだけど。 「あなたも、案内を受け取ったのでは……?」 「いいえ!」 あたしはきっぱりと言った。 「そんなもの、受け取ってはいません。あたしは、ただたれちゃんと NHK大河の悪口を……」 そう、何故、北の最果ての大地に住む生きていないたれちゃんに、南の片田舎に住むあたしが鼻息荒く訴えなければならないのだろう。いや、そもそも、本当にあたしはたれちゃんと……? 一体、どこで? 「そう、あたしをここに呼んだのは『カステラ』、そして『ディオリッシモ』。そして、恐らく、ドラマティックアイロニーを揶揄するかのごとくに発せられた、あたしのシェイクスピア!」 このあたしの目の前にあるカステラは確かにあたしの冷蔵庫に入っていたもの。でも、これがたれちゃんが送ったものではないと、何故言い切れる? そしてここにあるディオリッシモ、これが友巣姉のものではないという証拠は? ここには、ない。あたしの愛用はマドモアゼル・ココだから、ディオリッシモはすっかり変色してしまって、ハンカチに含ませる微香としてのポプリ的使い方しかしていない。そうやって、一体いつから使っていた? ほら、あたしには答えることが出来ない。だから、これが友巣姉のディオリッシモで、何もかもを飛び越えて、そう時間も空間も物量も現実さえも飛び越えて、あたしの許にやって来たのだという可能性を、否定する証拠はないのだ。 そんなありもしない「招待状」のことなど。今考えても無駄。 ただ、この眼前に広がる「現実」に対処しよう。 あたしは「賑々しくしようと思った」たれちゃんに召還された幻獣なのだ。 まずは紅茶とカステラを頂いた。 美味しい (はぁと) さて、あたしは推理小説において推理の際には賑々しくなければならないという慣行にならって、召還された幻獣としての役割を果たすべく、再びふかふかのソファに腰を沈めた。 先程の地震は嘘のように鎮まり返っている。地震の間に下着を残して消えてしまった姉の身が心配だ。あ、でももう戻って来ているわ。しかし、そうするとこの友巣姉が本当に友巣姉なのかどうかが疑わしくなってくる。これがあたしの小説ならば先程の地震は夢幻と現世の融合の瞬間で、姉は果たして夢幻へと連れ去られここにいるのはその幻影だ、とでもなるのだろうが、あいにくとここはあたしが属し始めてまだ間もない「現実社会」なのだ。そんなこと、あり得ない。 「さっきから、あり得ない、あり得ない、ととばかり呟いているようだが、君はそんなに直面した現実を『身に起きたこと』として認識するのが苦手なタイプだったかな。およそ、その逆だと思っていたんだけどね」 いつの間にあたしを見下ろす形で立っていたのか、クロス氏はそう言って鼻で笑い、あたしを文字通り見下げた。 「そんなつまらないことを『あり得ない』としていたんじゃないわよ。これは、あたしの問題」 あたしは髪の毛をいじりながらクロス氏を上目遣いに見上げる。彼の切れ長の目が、少し苦手だ。 「そんなことよりも、気になることは山積しているわ。てス子ちゃんが書いた記述の中で、最初たれちゃんは窓から投げ捨てられた後30秒以上かかって『ぽちゃん』と落ちているの。でも、地震の後にてス子ちゃんの過失で落ちた時は20秒後なのよね。これは、地震のせい? 10秒ものタイムラグが出来るほど、地面と建物の窓が接近するかのごとく揺れたのなら、今ここにあたし達は存在していないわ」 「存在していない。実に微妙な言葉だね」 クロス氏はニヤニヤと笑い、顎を手でさすった。あたしはしまった、と思ったがもう遅かった。何故なら、言葉は既に発せられてしまったからだ。 「言葉のあやよ、あたしが言いたいのはそんなことじゃない。そこについて、てス子ちゃんが『パピーの仕掛けたトリック』と告白しているところだわ」 「だから、彼女は虚言癖があるのだと、言ったじゃないか」 あたしはまたソファの上に膝を折り曲げて座り直しその膝を両腕で抱き、いよいよ身体を丸めた。 「そういうあなたの言説が、アヤシイって、あたしは言っているのよ……」 だって、1度目も2度目も、姉の失踪にはあなたの影があるじゃない。そう思いはしたけれど、言って良いものかどうか分からずにあたしは唇を噛み締めるだけにとどめた。 推理は行き詰まっている、その上、死体は実は2体に増えているのだ。何故、71歳にもなって?と。たれちゃんは意気消沈気味だ。この話題は今はまだ避けよう。 ------------------------------------------------------ 今 黒ス
- 2002/06/02(Sun) 08:45
No.340 妙なことに気付きました。私たちに出されたカステラにはマドモアゼル・ココの匂いのものとディオリッシモの匂いのものと、二種類のものが存在するようです。加えて!文脈ではカステラは二切れしか残ってないはずなのに、まき散らされた上に皆で賞味するだけの分量があったというのはどういうわけでしょう?誰かが持ち込んだのでしょうか? ううむ・・・ 全ての存在は noch nicht にとどまっているようです。 ------------------------------------------------------ 大団円希望 古都
- 2002/06/02(Sun) 15:15
No.341 「これはこれは」 あたしはクロス氏の思いも寄らぬ失言に口許に笑いを含んで立ち上がった。 「クロス殿らしからぬ事実誤認。あたしは確かに『このあたしの目の前にあるカステラは確かにあたしの冷蔵庫に入っていたもの』と説明した。一切れはてス子ちゃんが食べている。これは間違いないですね」 あたしがくるりと向けた視線の先で、てス子ちゃんが小さな頭を一生懸命肯定の意を示しつつ振っている。 「そして友巣姉は『紅茶で頂きましょうね、貴女と私で』と言っているにもかかわらず、食べた形跡がない。それどころか、お風呂に入りに行ってしまいあろうことは肩凝りを余計にひどくしてしまった模様。たれちゃんに至ってはあなたに窓の外に捨てられてしまった。他に、カステラを食べたという描写が上がっているのはクロス殿、そしてひつじ氏とあたし。残るのは一切れのはずだけど、先にも説明したように、あたしはカステラ持参で来たのよ。ということは、仲の良い親子のこと (?)、クロス殿がてス子ちゃんの一切れから味見程度に貰ったと考えて構わない。何しろ、細かい描写はないのだから、てス子ちゃんもしくはクロス殿が一切れ丸ごとぺろりと綺麗にたいらげたと考えなければならない義理はないのですもの。とすれば、友巣家のもう一切れはひつじ氏が食べることが出来る」 あたしは一気にまくしたてる。もちろん、クロス氏に反論させないためだ。 「そして問題はここよ」 あたしは、あたし持参のディオリッシモの瓶を皆の前に恭しく捧げ持った。 「あたし持参のカステラが、例えあたしの冷蔵庫に数日前から入っていた物だったとしても、それがたれちゃんのイメェジによるものだと言ってはいけない理由はないということ。確かにカステラはあった。でも、それは『ここ』に登場したその瞬間から、たれちゃんのイメェジによる『古都への招待状』へと変身させられてしまったの。すべての常識の枷を外してね。 それは、あたし達自身についても言えることなのよ。 『ここ』に登場しているあなた達は、本当にあなた達自身だと、言い切れる? ひつじ氏はかつて言ったわ。『知らないうちに、観客席から召還されて舞台に上がっているじゃありませぬか』とね。それでも、作中においてひつじ氏は一貫してひつじ氏であり、ひつじ氏としての役割を果たす以外に術はなく、読者はこの『両者』を『ひつじ』氏として『同一人物』とみなすわけよ。何故なら、読者はひつじ氏を物量世界での認識はしていない。彼を彼として判断することが出来るのは、唯一『ひつじ』という記号 (名前とも言う)、そして表出する幾らかのテキストだけなのだから。 だからこそ『誰っち』のように、他者を騙る行為も可能となってくる。これは微妙にたれちゃんを意識させながらも別人であるということを匂わせているから、ある意味では良心的だとも言えるかも知れないわね。でも、これは他者が他者を騙る、もしくは語ることの出来る可能性を示すいい証拠だわ。 つまり、あたし持参のこのディオリッシモが、姉のディオリッシモではないという証拠はない。ここに2つあるから、それぞれは別の物だろうって? いいえ、とんでもないわ。時空は連続しつつもその一瞬一瞬は明らかに異なっている。ここにいるあなた、あそこへ向かうあなた、昨日のあなた、明日のあなた、すべてが『あなた』かも知れない。でも、その『すべて』は『それぞれの』あなたなのよ。『同時に2つ存在するから』と言って、『その2つはそれぞれ別の物である』とは、言い切れない。そう、あたしが持参したこのカステラやディオリッシモのようにね。 科学がいくら発達しても『神がいる』という証拠を提出することが出来ないのと同様、科学がいくら発達しても『神はいない』という証拠を提出することが出来ないのは、こうしたわけなんだわ。 だから、物事の核心はこうよ。 表出の死体は、死体として機能していない。それはテキストに過ぎないのだから」 自分に酔ったように言葉を繰り出すあたしの視線がついにクロス氏を外れ宙に泳ぎ始めた時、友巣姉がぱん、ぱん、ぱん、と大きな音で3回手を叩いた。 「古都ちゃん、なかなかよく出来ていたわ。でも詭弁よ、詭弁だわ。哲学的な概論で煙に巻くのは容易いことよ。誰もがそうして明らかにしなければならない重要なことを歴史を通じてをうやむやにして来たわ。ましてや、あなたは哲学をきちんと学んだわけでもない。もちろん、それでも吐くのは勝手。でも、あなたがそれを吐き戻して咽を詰まらせて死んでしまったら、私は『ああ、あの時注意したのに』って残念に思うわ。哲学は、それほど危険なものなのよ。少しなら薬になっても、処方を間違えれば毒になる。当たり前のことでしょう? もう少し、慎みなさい。経済を知らない政治家が国家を動かすのと同じくらい危険なのよ……」 友巣姉は黒い長いさらさらの髪を耳にかき揚げながら、優しい目でそう言った。最後の一言には、憂いも含まれていた。 「はい、ごめんなさい……」 あたしはさっきまでの勢いの反動か、しゅんと小さくなった。姉に怒られるとめげる。 「さて」 姉はあたしからたれちゃんへと視線を移動させた。 「たれっち。事の起こり、事の発端はあなた。決着を付けるのは、あなたよ」 ------------------------------------------------------ えっ?大団円? たれっち
- 2002/06/02(Sun) 17:11
No.344 古都氏の話を聞きながら、僕はキースの小夜啼鳥のことを思った。いま窓の外で囀っている小夜啼鳥が百年前と同じ鳥でないと断言することは出来ない。それはロマンチックな夢想なのだろうか?人間が容易に人種や性別や国籍で人を判断し、個を黙殺する思考と同じではないだろうか。一方、ひつじ氏は「ひつじ」と書かれただけで同一のひつじ氏と判断されてしまう。個としての「ひつじ」氏は、どんどん増殖してゆく。 友巣は偉そうだ。人に説教をする権利があるんだろうか?僕は古都氏の味方だ。ごんちゃんの生みの親だから。僕は無力なたれぱんだだ。僕の武器は考えて書くことだけなのだ。書くことのみによって友巣に復讐できる。何度でも殺すことが出来る。僕はそう思ったのだ。でも現実に友巣は生きていて僕は生きていない。 唐突に始まった書き込みごっこが唐突に終わったとき、観客席から茶々が入った。そのとき、僕は生きている人達を手玉にとる方法を思いついた。しかし、僕の考えは甘かった。生きている人達はどんどん入り込んできて、僕は追い詰められてしまった。僕の心を悟られてはいけない。僕は僕のキャラを守らなければいけない。 ・・・・・・ ご、ごめんねえっ。ぼくがお調子者だったの(泣)。だって古都おねえさまが「第5幕で死ぬやつがあるか」って書いたから、ぼくが頑張って続けようと思ったの。でも登場人物多すぎたみたいなのっ。恋愛小説なら2人、推理小説なら3人から始めないと、どんどん複雑になるし、誤読は多くなるし、もう頭ぱにっくなのっ! ええとね、利尻富士山頂っていいうのは僕の誤読なの。利尻富士が見える地上だと思うの。だけどねえ、クロスパパの記述だと、普通に地上で死体として存在していたとしたら、この数日前に死んだ人じゃないよね。しかも、ディオリッシモの香りが腐乱臭に対抗できるくらい残ってるっていうのは、死体発見前に一瓶じゃ足りないくらい香水をかけないとダメなんじゃないかなあ?ふつ〜に考えると第一発見者が怪しいんだけど、ぼく思うに、クロスパパ、やっぱり怪しいの。だってさあ、ご主人、カステラにディオリッシモなんてかけてないもん。ということは、クロスパパの手にまだディオリッシモの香りがついているんだよ。これ、どういうことなのか説明してくれないかなあって思うの。クロスパパはたまたま利尻富士が見える利尻島か礼文島で見つけてディオリッシモをふりかけてご主人だってことにしちゃおうと思った愉快犯か、もしくはこの事件の殺人犯かも知れないよねえ・・・。 ぼく、読んじゃったの。しろさんの告発。 http://ep.st35.arena.ne.jp/cgibin/mbspro/bbs.cgi?room=hana の [2438]。「私は生前」ってあるの。生前って?誰の生前なの?もしかしてしろさんが天国から書き込んでいるんじゃないの? ------------------------------------------------------ 訂正 ともす
- 2002/06/02(Sun) 17:37
No.345 >たれっち >僕はキースの小夜啼鳥のことを思った それを言うならキーツだよ。 ------------------------------------------------------ 誤読の塔 古都
- 2002/06/02(Sun) 18:20
No.346 「果てしない物語」に出て来たのは象牙の塔……。ま、いいか。そんなこと。 たれちゃん、それは誤読よ。>しろさんの書き込み 「しろさん自身が危険人物」だから、てス子ちゃんは「しろさんに近付いてはいけない」と生前のパピー (?)に遺言されているので、このパピーの遺言をてス子ちゃんに「守らせるべく」しろさんは自らてス子ちゃんに近付くことが出来ないと自分に厳命しているが故に、近付くことが出来ない、と。そのパピーよりもなおいっそう影響力のある「高貴の母」の影をしろさんは感じているように見えるのだけど。 とすれば、天国から書き込んでいるのは、クロスパピー?! 文脈からすれば、遺言を授けたのはパピーなのか「高貴の母」なのか微妙なところではあるけどね。 うーむ。しかし、面白かった。 もっと続けた方が良かった? だって、解けていない謎はまだあるものね。三億円とか。 あ!バイトに行く時間になっちゃった!じゃーね! ------------------------------------------------------ 生前 ひつじ
- 2002/06/03(Mon) 00:14
No.349 え、じゃあ、利尻富士が見えるところで行われた葬儀って、クロスパピーのものだったってことですか。 と言ったところで、古都さんも帰ったことだし、上のたれっちの書き込みで大団円なんでしょうね。なんか今回の古都さんの帰り方が、習い事あるからといって帰っていく小学生のような感じで懐かしいなあ。 ------------------------------------------------------ 存在が存在するとき哲学は生まれるかも 古都幻シュタイン
- 2002/06/03(Mon) 01:32
No.353 「ああこりゃこりゃ(ブッ)私は苦笑を禁じ得ませんでしたよ。初心者向け哲学書もどきにかぶれてしまった古都君の大湿原、いや失言風景を目の当たりにしてね。君はこう言ったね。 『だからこそ『誰っち』のように、他者を騙る行為も可能となってくる。・・・・・これは他者が他者を騙る、もしくは語ることの出来る可能性を示すいい証拠だわ』 そんなあなたが古都もあろうに、失礼、事もあろうに『黒ス』なるHNを用いて書き込まれた発言を『クロス』氏のものと断定して疑うことを知らない。しかも『クロス』なるHNがこの迷宮に於いて使用されたことが未だかつて無いにもかかわらず!だ。これはどういうことか?一体『クロス』なる人物は何者か?『くろス』なる好人物に何らかの関わりをを持つ人物なのか?! 古都君は答えようとするだろう。あるいは答えてしまうかも知れない。しかし!彼女は決して「私たちに向かって」答えることは出来ないのだ。なぜなら!彼女の言語ゲームのルールは私たちの言語ゲームのルールと「=」で結ばれてはいないからだ。私たちの側から見ればルール違反であるわけだ。だから古都君は「古都君自身にしか」答えることが出来ない。古都君は「古都内海を泳いでいる」に過ぎない。今、淡路海峡大橋を過ぎたばかり。北の大地まではまだ遙か。 『或るものがそのものであるのは、そのものでないものがそこにあるからである。そのものでないものによってこそ、そのものはそのものである(屁ーゲルの弁証法的論理学)』 『世界とは言語が見る夢である』ウィトゲンシュタイン 『言語は存在の住処である』ハイデガー 結論はこうだ! 「古都君はいまだ存在していない」 なぜなら!古都的世界は・・・・・」 ああ私は自分に酔っていたようだ。ここまで一気にまくし立てた私なのであったが、肝心の「語りかけているつもりだった対象の」姿が見えない。彼女まで失踪?・・・いえいえ、彼女は何らかの理由により、泡を吹いて倒れておりました。 「ちょっとやり過ぎたわねぇ」 瓜実顔の友巣君が読書中の分厚い本に目を落としたまま気怠く呟くと、それを合図のようにしてごま塩頭のひつじ君が富士額の古都君の元へと走り、躊躇無く抱きかかえ、手厚い看護を始めるのでした。慣れた手つきで。 「そろそろあの世へ帰らねばなりません。ごきげんよう」 落胆した私は短くいとまを告げた後、あの世へ戻るべく羽を広げ、開け放たれた窓に近づいた。 「また来てね」 と暖かい声をかけてくれたのはてス子君だけだった。たれぱんだの姿は見えなかった。友巣君に座布団の役割を強いられていて動けないのだった。 私は遠くからあるばか君をおぶったフジ君がカリカリしながら雪暈館へ近づいてきているところの北の大地を、名残惜しい気持ちで一瞥し、気合いを込めて一気に大空へと飛び上った。二度と戻ることはないだろう。 ------------------------------------------------------ 大団円を締めるのはやはりここぞとばかり悪者にされてしまった私でなければならないと思い くろス
- 2002/06/03(Mon) 01:35
No.354 物語の最後、古都丼の留守をいいことに、彼女の冷蔵庫を調べてみた。 http://www.interone.jp/~sfish/img/pink.jpg 全ての問題を解決することの出来る「揺るぎない証拠」がそこに存在していたが、私は何事をも語り得ない。なぜなら、 『語り得ないものについては、沈黙しなければならない』から。(了) ------------------------------------------------------ 蛇足 ひつじ
- 2002/06/03(Mon) 21:39
No.355 「で、この (了)ってのは、どれくらい有効なんだい。」 と、割れたメガネをかけなおしたものの、前が良く見えなくて手厚い看護もままならないひつじ氏は言った。 ------------------------------------------------------ ごまかしちゃいけません たれっち
- 2002/06/04(Tue) 00:38
No.356 「衒学趣味の披露は結構です。然し、結末を煙に巻く終わり方には芸が必要なのです。まさに端倪すべからざる複数の論理的整合性ある解釈を開陳するのでなければ! さて、僕の解釈は以下の通りなのです。 実はクロス氏は、ハムソーセージだったのです。・・・失礼、一卵性双生児ですね。彼らはてす子さんまでもが区別出来ないほどに同一人物を装い、そして効果的に複数の名を名乗って多くの場所に出没していたのです。しかし、「クロスい」は「クロスろ」を殺してしまった。「俺」とは殺された「クロスろ」なのです。当然「クロスい」が「お前」です。しかし、殺されたの数日前であるにも関わらず、利尻富士が見える北の地での遺体はあまりに腐乱が進みすぎているかのようです。これは、「クロスろ」があたかもそれが「クロスい」でないかのように死体の腐敗を早めたのです。どうやって?それは生花でドライフラワーを作る方法と同じです。文章にはこうあります「まるで砂漠に放置されたマカデミアナッツチョコレートのように」そう。死体を容器に入れ、ドライフラワーを作る薬剤を入れて、巨大な電子レンジでチンしたのです。しかし、完全なミイラ状態にならない程度に。さらに蒸し暑い部屋に放置し、腐乱を早め、そして利尻富士が見える北の大地に放置したのです。友巣が死んだかのようにディオリッシモの香水を大量にふりかけて」 クロス氏は唇を歪めたが、それは微笑んでいるようにも見えた。 「それは承認の合図と受け取っても宜しいのですね?」 「ご随意に」 クロス氏は再び無表情な顔に戻った。 ダイニングは深海の底のような沈黙に沈んだ。 「そんな・・・」 やがて、色を失ったてす子の可憐な唇からかすれた声が漏れた。 「わたしのほんとうのパピーはどっちだったの?」 「わたしに決まっているじゃないか。私たちは私なのだからね」 クロス氏は、てす子に微笑んだ。 「誰も死んではいないんだ。僕は生きているのだから」 クロス氏は娘の震える肩を優しく抱きしめて言った。 「私だけの大切な一人娘なのだから」 神経質な芸術家のように尋常ならざる細心さで自己同一化を図っていたクロス兄弟は、然し娘を溺愛する愛の狂気ゆえに、もう一方を抹殺する誘惑にうち勝てなかったのだ。おそらく殺害者「クロスい」はてす子の実の父親ではあるまい。しかし、美しく可憐なてす子にそれを告げることが出来るだろうか?答えは否である。何故なら「クロスろ」を殺すことで初めて「クロスい」はてす子の真の父になり得たのであるから。我々はただ、速やかにこの事件を忘れ去り、この父子の幸福を願うばかりなのである。 閉幕(カーテンフォール) ------------------------------------------------------ 第二幕 アイーンシュタイン
- 2002/06/04(Tue) 02:24
No.357 「で、この (カーテンフォール)ってのは、どれくらい有効なんだい?」 と、くろス君は不満げに「ひとまず仮パンダ」君に尋ね、そして私に目配せをした。「推理小説なんて十年以上全く読んでなくてこのテリトリーでの戦いは不利だから助っ人を頼む」と彼に密かに現世に召還されていた私は、ついに自分の出番が訪れたことを悟り、カーテンを引きちぎって舞台中央に進み出た。 「ふうむ、面白い解釈だね、たれ君。いや!パンダの面を被った友巣君!!」 パンダの面を被ってたれっちのふりをしていた友巣君は、動揺を隠せず小刻みに震え始めた。さすがに自称・小心者だけのことはある。 「見たまえ!上の書き込みを!これがたれぱんだの文体に見えるだろうか?!」 一同は顔を見合わせ、「そういえば・・」「確かに・・」などと囁き合った。パンダの面を被ってたれっちのふりをしていた友巣君を除いて。 「確かに彼女の推理は理路整然とうまくまとまっているように見える。しかしみなさん!騙されてはいけない!優れた推論が現実と「=」である保証はどこにもないのだ!!このことは「カラマーゾフの兄弟」に詳しく出ておる。参照にされたし。要するにだ、証拠がなければ憶測に過ぎないということだ。せめて「巨大な電子レンジ」のひとつでも発見されているのであればよかったのにね♪ということなのだ。それにひきかえくろス君の方は古都君の冷蔵庫から何らかの証拠品をゲットしていて希望が持てる。「解釈を開陳」するだけでは事件は解決しないのだよ、ハッハッハッハ」 パンダの面を被ってたれっちのふりをしていた友巣君はがっくりとうなだれ、反論できる状態ではなかった。私は続けた。 「もう逃げられないよ、友巣君。際どいハデハデ下着を目くらましに使って失踪したフリができたのは昔の話。君の芸の細かさにはオジサンも敬服させられたけどね、フフフ」 私の一人舞台が始まる予感がする。 ------------------------------------------------------ 第二幕第一場第一景 アイーンシュタイン
- 2002/06/04(Tue) 03:22
No.358 「くろス君が「あたかもそれが「クロスい」でないかのように死体の腐敗を早め」ておきながら「友巣が死んだかのようにディオリッシモの香水を大量にふりかけ」たと主張するのであれば、証拠を持たない友巣君の唯一の希望の光であるはずの「論理的整合性」さえもおかしなことになってくるのだが、その辺はどうかな?」 私は彼女の答えを待った。しかし、答えはなかった。それもそのはず、ついに彼女までも泡を吹いて倒れてしまったからだ。彼女は誰にも看護してもらえず、そのまま三日三晩放置されたのだった。 ------------------------------------------------------ ある昼下がりの情景 古都
- 2002/06/04(Tue) 03:30
No.359 「あのさあ、これってこういう展開で進んじゃって良いわけ?」 いつの間にソファーに古都が座っていた。 ------------------------------------------------------ お耽美志向だったの! たれっち
- 2002/06/04(Tue) 19:18
No.360 まったく!閉幕(カーテンフォール)ってのは、小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』や麻耶雄嵩の『翼ある闇』で、(了)の気障な言い回しとして使われていたものなのに、クロスさんたら「七つの顔を持つ男、たらおばんない」レベルに叩き落としちゃうんだから趣味悪いよねえ〜。せっかくクロスの異常な愛情的お耽美かつドラマチックに終わらせようと思ったらこれだもの〜。 ピンクの2ドア冷蔵庫の中身がなければ状況証拠でさえないから、説得力ないもん。論理的整合性で勝負しなきゃつまんないじゃないの。『カラマーゾフの兄弟』出すまでもない自明さだよ。だいたい君ってシュレジンガーの猫を認めたくない人だしねえ。ポスト・モダン向きじゃないんだよねえ。早く恐山に帰ってくれる?え?知らないの?シュレジンガーの猫・・・アインシュタインじゃないの?アイ〜ンシュタインなの?バカ殿さまの変化した姿?・・・・ううん・・・・ ご主人、黙ってたけど、欧米で言う所のバスルームにはいたけど、風呂場にはいなかったんだってさ。つまりトイレにいて、クロス氏が脱衣所脇の洗濯機の洗濯籠から落ちてた下着を見て勘違いして叫んでいたときにトイレから出てきたんだよ。クロスさん、どうして話をややこしくしたがるかなあ? 「クロスい」がディオリッシモを使おうと思ったのは、たれぱんだ苑のぼくの文章を読んだからだよ。死体が誰のものか?男性のものでないという先入観を与えようしたこともあると思うけど。 ------------------------------------------------------ いやね ひつじ
- 2002/06/04(Tue) 20:20
No.363 ちょいと、無駄な投稿をしては消してしまった。さて、 せっかくクロス氏が火中の (渦中の?)栗を拾ってくれて、大団円らしい大団円を迎えてくれたとは思うのですよ。でも、いまさらピンクの冷蔵庫で終われるか、という疑問もあったのですよ。 しかし、私たちは、もうずいぶん長い夢を見てきたようですね。幾たびも開かれる終幕の果てに、謎は本当に解きえるんでしょうか。むろん、夢オチ導入などという意図は、さらさらないんですがね。 ------------------------------------------------------ ちょっと休憩☆ てス子
- 2002/06/04(Tue) 21:01
No.364 訂正があるんだって。 <参照にされたし→参照されたし> カタカナ表記についてなの。 <シュレジンガー>ってしろうとっぽい表記だと思うの。小説なんかではそうなってることがあるみたいだけど、理系専門書なんかでは<シュレーディンガー>ってなってることが多いと思うの。あっ、パピーが何か独り言言ってる!「シュレーディンガー方程式も解いたことないくせして・・・」だって。根拠のない憶測みたいけどぉ〜、やっぱてス子よくわかんないの。。 http://homepage2.nifty.com/einstein/contents/relativity/contents/relativity3135.html あとねえ、蛇足だけどねえ、ともちゃん前<シュルレアリズム>って言ってたけど、ちょっと変なのね。英語のつもりなら<シュルリアリズム>仏語のつもりなら<シュルレアリスム>って書くべきだなぁ〜って、てス子思ったりしてたの。どこかの偉い学者もそう言ってたの。ウフ ともちゃん気絶中だから安心してナマ言ったちゃった!聞かれてたらどうしよう?!ドッキドキなのぉ〜 ------------------------------------------------------ 新たな謎が・・・ くろス
- 2002/06/04(Tue) 21:07
No.365 ある時期からたれっちのメアドが変わっています。不思議です。事件の謎を解く鍵かも知れません。 あそうそう、恐山でも死体が発見された模様☆ ------------------------------------------------------ ひつじ君・・・ アイーンシュタイン
- 2002/06/05(Wed) 00:39
No.368 ツアーはどうしたのかな?ちょっと怪しいねぇ。。 <謎は本当に解きえるんでしょうか(ひつじ君の発言) これはもうシュレーディンガーを当てはめて解くしかないぞ!と、わしなんかは思うのだよ。。 http://quanta.synchem.kyoto-u.ac.jp/icigsd/icigsd.html 古都君!泣くのはおよし。ほらほらマスカラが溶けて辻○みたい・・・ ------------------------------------------------------ >てす子ちゃあん たれっち
- 2002/06/05(Wed) 03:11
No.369 >名前の表記 ホントは、発表論文で表記された名前で表記するのが一番だと思うの。だって、シュレジンガーだろうがシュレディンガーであろうが、発音悪くて日本人にしかわかんないことには変わりないでしょ?これに関しては、実は殊能将之が日記で書いたんだけどね。 ゲーテはホントはより正確にはギョーテだとか、ボッシュじゃなくてより正確にはボッスとかショパンはポーランド読みだとチョピンだとか聞くけど、それならそういうひとたちは日本語表記に拘るより最初から外語表記でやったらいいかなと思うの。シュルレアリズムに関してもそう思うの。でも、そうなると縦書きが鬱陶しいから、横書き本の方がいいのかなあ?水村美苗の『私小説』みたいに。 >猫 うん、解いたことないの。昔ニューエイジ系の本を乱読した中にあったので、理系の人には顰蹙ものかも知れない。 >くろすにいちゃあん あ、めあど変わったの気付いた?関係ないの。マックの iTOOLSが使えたからなの。ほむぺのアドレスも変えるつもりなんだけど。短い方がいいじゃない? ううう、夜中に目が覚めてふと書き込んだけど、また眠いから寝よう・・・あ、もう夜が明けるよお。夏至近いと早いんだよねえ。それにしても、話が収束しそうにないなあ・・・続けるべきなんだろおか?だって、本来遊びとしてやっているのに、どうやら本気で怒っている人がいるみたいなんだもの。それならやめた方がいいよねえ・・・。ダイニングキッチンにお集まりの皆様、どう思われます? ------------------------------------------------------ つまりね ともす
- 2002/06/05(Wed) 03:27
No.370 秘すれば花 ------------------------------------------------------ 私はつぼみ てス子
- 2002/06/05(Wed) 06:20
No.371 あのねぇ、てス子ねぇ、誰も怒ってはないと思うの。 でもねぇ、推理物だからねぇ、どおしてもバトルの要素が出てくるの。 あとねぇ、パピーもアイーンさんも無限増殖型だから、花として終わらせようって意志がないの。 だからねぇ、もし今度こうゆうことするならねぇ、専用の掲示板作ってねぇ、終わらせる必要なくすればいいのかな、とか思うの。 でねぇ、難事件の解決はパピーとご主人抜きでやっちゃうの。てス子はパピー抑えとくから、たれちゃんはご主人抑えといて!秘すのが苦手な人たちだから!・・・そしたら自然に収束するような気がするの。 これで今夜はゆっくり寝られるの。多分・・・(夢オチならぬ自粛オチ?) ------------------------------------------------------ でも、「まいった」って、いうのはいや ひつじ
- 2002/06/05(Wed) 20:07
No.373 専用掲示板というのも正しいかもしれないけど、実はもう十分に堪能したと言えなくもない。 (本当に、このすべての謎が解けるまで続けるというのなら。) というような場外乱闘的なやり取りを除けば、テキストの記述を見る限り (これ、言うてみたかってん)、明らかに時間の経過が読み取れるような部分はありません。 だからひつじ氏は、翌日の富良野行きのバスで爆睡することを覚悟しつつ、徹夜でこの謎につきあうことを決めたのだった。 今更、こんな地の文を書いてもなあ。 ------------------------------------------------------ 自己弁護のみは見苦しかった ひつじ
- 2002/06/05(Wed) 23:11
No.374 好みだけで言えば、筒井氏の「朝のガスパール」と「電脳筒井線」がないまぜになって、この掲示板で書かれた話題を取り込みつつ、だらだら続くというのを狙っていたところはあります。でも、それなら別掲示板になりますね。 (おいおい、そんな半年前の一言を伏線だったとかいわれてもなあ、とか) しかし、そうなると、皆さんがこれだけ精力的に参加することが可能なのかという心配はあります。 (仕事じゃないんだし)万葉ハンドルごっこといい、なんとなくみんなで遊んで、ああ楽しかった、というのが、この板の良いところかなとは思います。なんか同じことばっかり繰り返しているような。> と、それが何を意味するのかよくわからないまま、ひつじ氏は頭に浮かんだ言葉をひとりつぶやくのだった・・・ ------------------------------------------------------ あのね てス子
- 2002/06/06(Thu) 00:27
No.378 そろそろパピーもあんまり書けなくなりそうなの。あと一週間くらいでまた「平日冬眠」しなきゃいけなくなりそうなの。だから「テキトー」なの希望なの。取り決めとかは少ない方がいいの。へんに疲れたら楽しくないし。突然誰かが別の物語を語り出して、それが本筋にいつの間にか合流したり、その逆もあったりしていいかもなの。ほったらかしもありなの。こんな感じでどうかなあ? あ!ついにログが消えたみたい!知らない間にお尻に火が!でもてス子は気付いてたの。後ろが徐々に消えつつあったこと。 事件はほとんど迷宮入りみたいだけど、ひつじさんが自首すれば丸く収まるとてス子思うの。 ------------------------------------------------------ 自首だって? ひつじ
- 2002/06/06(Thu) 22:46
No.382 そもそも、死体だの、三億円だのと言ってるけど、それってどこにあるのですか。自首と言われて、あちこち下のほうも捜してみたけど、そんなもの、どこにも見つからないじゃないですか。 ------------------------------------------------------ 自首はしないけど ひつじ
- 2002/06/09(Sun) 23:48
No.391 「娘のいうとおり。もう、時間がないのです。」 クロス氏は、ため息をつきながら言った。 「私たちが語り続けることで、残り時間はさらに少なくなっているのです。ひつじ氏のいうとおり、私たちが召還された殺人事件の痕跡は跡形もなく消滅してしまいました。今私たちがいるこの場所だって、あと何日もつのかどうか。」 「そういえば、あるぱか君まで冬眠から目覚めたというじゃないか。」 ひつじは何かを察したようだった。 「あるぱかさんね。彼が目覚めたなら、この物語すべてを消滅させる力を持っているかもしれない。」 あきらめとも期待ともつかない声は、ともすさんだ。 もはや、雪暈館に集まった誰もが気づいていた。あらゆる謎を越えた存在。水晶迷宮の掟。 「わかった。せっかく戻ってきたけど、帰るわ。」 割り切ったら立ち直りが早い古都さんが消えた。 「そういうことなら、私もそろそろ」 ひつじは、いつのまに用意したのか、カメラをぶらさげ、スーツケースを引きづるという一昔前の旅行者のような格好で部屋を出て行った。 「パピー、私たちも帰るの」 「てす子、カステラのお礼をいうんだよ」 「ありがとう。たれちゃん、また遊ぼうね。」 クロス親子も帰っていった。 「あのー、ぼくたちどうなるんだろう」 「さあてね、どうもなりはしないでしょう ? この部屋を私ひとりで片付けさせるつもり?」 ともすは、慣れたてつきでカステラの皿を重ねるとキッチンへ運んだ。 「こうやって、洗い物してるうちに、このスレッドも消えるかもしれないわね。」 「それって、こわいこと
?」 「怖くはない、たぶん。心配しなくていいから。」 ともすさんは、たれっちが足元にまつわりついてきたのを見て、しずかにしゃがんだ。 「ねえ、ひとつだけ聞いていい ? あんなにあったディオリッシモを使って、あなたは何の匂いを消そうとしてたわけ ?」 「えへへ」 たれっち、うしろめたげに笑って、「でも、おもしろかった」と小さな声で言った。 |
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