シャベルを頭の上で振り回したいほどワクワクして『おぉー!イモ掘りするぞー!』と私達が一歩前へ踏み出した瞬間、

「遠いな。」

と、おばあちゃんが一言つぶやいた。
え?と思っていると、「道も悪いしねぇ、行く?あそこまで…。」とイモ畑と私達を交互に見ながら何やら曖昧なことを言っている。「行く?」ってイモ畑はあそこなんだから遠いも何も…と思いながら「はぁ。」と返事をしていると、「ここでいいか…。ねぇ、ここでも。」と言いながらシャベルで指し示した先は、なんと私達のすぐ目の前に植えられていた、イモ畑ならぬイモ達だった。
少し先に広がる広大なイモ畑に向かうまでの道に植えられていたおまけのイモ達だ。
あぜ道から一歩入っただけの場所だ。
きっとここのイモ達だって、「俺達、こんな所に植えられるはずでは…。」と思っているであろう場所だ。
私達だって「こんなバカな…。」と思わずにはいられない場所だった…。
しかし、おばあちゃんはそんな私達の気持ちなどお構い無しに、「一株、二株…」と数えながら、六株目の端に棒をつきさし、「ここまで掘っていいですからね。」とイモ掘りにGOサインを出す。

い、いや、何も言うまい。いいんだ…。ここでもいいんだ。なにも私達がガンガン楽しむためにやって来たわけではない、カシオが楽しければそれでいいんだから…。

さてさて、イモ掘りを始めてみたものの、この静けさはなんなんだ。なんて静かなイモ掘りなんだ。
話す声よりも、カツ、カツ、シャッ、シャッと土を掘るシャベルの音の方が大きいくらいだ。日本中探しても、こんなに静かなイモ掘りにはなかなか出くわさない。
そして、当たり前のように掘り始めてからもおばあちゃんはずっと私達を見ていた。ものすごい威圧感だ。
とても90のおばあちゃんから発せられるパワーだとは思えない。→続きを読む