人は、一生のうちにいくつの「忘れられない言葉」と出逢うのだろう。
言われたことが嬉しすぎて忘れられない言葉もあれば、恥ずかしすぎて忘れられない言葉もある。
前者であればその言葉を思い出す度に幸せな気持ちになれ、いつまでも心に残しておきたい言葉となるだろう。
しかし後者なら?
どうにかして忘れたいのに、ふと心を許した時に思い出してしまっては、いたたまれない気持ちになり、「あぁ、忘れてしまいたい…。」と独りごちる言葉となる。
このように同じ「忘れられない言葉」であってもこれらの間には天と地ほどの差が存在する。
そして、今から書くのはおそらくお察しのとおり、私にとって今でも忘れられない、いやきっと生涯忘れられない恥ずかしすぎた赤面言葉の類いである。
小学生時代の私は、決して大人しいタイプの子供ではなかった。言葉づかいもかなり悪く、活発で、男の子をからかったがために、最高潮の怒りをかってしまい、追いかけ回されたこともあるくらいの子供だった。
ある日のこと、いつものように休み時間に女友達と話し込んでいたら、同じクラスの男子学生が近寄ってきて私をマジマジ見つめてこう言った。
「女でも、ヒゲはえるねんなぁ。」
ガ、ガ、ガ、ガビーーーーーン…。
私はそのあまりにも衝撃的な言葉に、しばし呆然。
「わ、私のことではないですよね?」と問いたい気持ちはやまやまだったが、その必要は全くないくらいに彼は私を真直ぐ見つめながら言っていた。それでもまだ信じたくなくて、「ん?誰に言ってるのかしら?」などと独り言を言いつつ、後ろを振り向いてみたい気持ちも捨てきれなかったが、それでも彼は相変わらず私をじっと見つめていたし、何より私が観念してしまった理由は、彼が自分の鼻と唇との間をピトッと指さしているのを見せつけられたからであった。
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