おそらく、剃っても剃らなくても、どちらにしても結局は恥ずかしいのだ。

色々考えた末、最終的にこのように思った私は、よけいな努力をすることなくそのままの状態で登校し、ひとまずほとぼりがさめるのを待って、それからさりげなく剃ろうという結論に達したのであった。

次の日、案の定彼は何度かヒゲについてからかってきた。しかし彼からの攻撃は私にとって思っていたよりひどいものではなかったのである。
なぜならそれは、彼以上に陰湿な攻撃をしかけてくる、第三の男が登場したからだった。
その第三の男は、私の様子がいつもと違うことに気付いたようで、男友達からその訳を聞き、ニヤニヤとずる賢い笑顔を私に向けるようになった。ただ唯一不気味だったのは、いつもはもっと口に出してあれこれ言う第三の男が、「女のくせにぃー!」とも「おいっ!ヒゲ!」とも言わずに静かにしていたことだ。
それもそのはず今回の彼の攻撃方法は、他人は知らない秘密の合図であるかのように「ただ指を鼻の下に置く」というだけのものだったからだ。
私が何かを言いかけたら、一言も話さないかわりにただパッと人指し指を鼻の下にもっていくわけだ。
他人が見たら何のことだかわからない、迫力のない「加藤ちゃんぺッ!」くらいにしか見えなかっただろう。
しかし私にはかなりの大打撃だった。いつもの勢いはどこへやら、それをやられた途端に「あわあわ、あわわ…。」とへなへなと縮こまり、何も言えなくなってしまっていたのだ。

いっそのこともっと沢山の人に知られていたのなら、「フッ。人の噂も75日よね…。」と髪をかきあげながら窓ごしに見える車に向かってつぶやき、諦めることもできただろう。しかし恥ずかしくても我慢してでも諦めず、彼らの攻撃に耐え続けたのには訳がある。
それは「まだ数人にしか知られていない」という僅かな光が残っていたからである。
男勝りでもガラが悪くてもやっぱり女、できることならこれ以上多くの人間に、私のヒゲのこと(何度も言いますが産毛です…。)など知られたくはなかった。→続きを読む