私には全くもって他人には迷惑な癖がある。それは「自分が気に入ったものを人にすすめたくなる」というものだ。別にこれだけを聞くと『それがどうした?』といった感じだろうが、問題は、相手が知人であろうと、見ず知らずの人であろうと関係なくすすめてしまうというところにある。
ある日、本屋さんに行くと、今時珍しいくらいに清楚なイメージをかもし出す女子高校生が本を選んでいた。長くもなく短くもない中途半端な丈のスカートが、より一層そのイメージを強調させている。彼女は平積みされている本を一冊手に取り、あらすじを斜め読みしては元の位
置に戻すというのを繰り返していて、どの本にしようか思案中といった感じであった。
そして彼女が何冊目かの本を手に取ったのをふと見た時、私の胸は高鳴った。それは、その本が私が最も敬愛すべき作家、幸田文の「おとうと」だったからである。人が見ている本をじっと見るのも悪いとは思いつつ、私は彼女がその本をどうするのか気になって目を放せずにいた。すると彼女は、今までと同じようにその本もさらっとあらすじを読んで元の位
置に戻しかけたのだ。
あぁ!?と思った瞬間、言葉の方が先に出ていた。
「それ、おもしろいよ。」
ひぇー!言っちゃったよ。怪しい奴だと思われる…。
と思ってみてもあとの祭り。もう言ってしまった言葉は取り消せない。私も長年本屋さんに通っているが、一度たりとも、聞いてもいないのに「それ、いいよ」なんて他人から話しかけられた事はない。もしそんなことがあったなら、「え?あなた、私が本選んでるのずっと見てたんですか?」とか思って引いてしまう。
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