やっとお座りができだした頃、ある日カシオが私に両手をのばしてきた。『どこかに移動したいんだな…』そう思い、いつものように抱きかかえようとした瞬間、ふと私は頭でこう思った。
一歩先へも移動できないんだな…。

よく「子供は親の所有物じゃない」という言葉を聞く。確かにその通りだ。どんなに小さくても子供は一人の人間だし個性もある。子供には子供の進むべき道があり、人生がある。
しかしこの時期、誰かがいないとまだ一人で生きられないのも事実だ。どんなに動きたくてもこの子は誰かがいないとこの場所から一歩も移動する事ができない。今どころか、産れてから今までずっと、この子は誰かがいないと生きてこられなかった。そしてそれは同時に、親も何ヶ月もの間、子供を抱きかかえながら生活してきたことを意味する。
そしてそういう生活を続けていると、何かを要求してこの小さい両手を一生懸命私にのばしている子供を見て「この子は誰かがいないとまだほとんどのことができないんだな」と思ったりする日があるのだ。

そしてそんな日は決まってちょっと思いに耽ったりする。
もしかして、この『誰かがいないと…』という気持ちが長年かけて『私がいないと…』に変化してしまったら?
そしてその気持ちが知らぬ間にだんだんと自分の中で大きくなって「この子は私がいないと何もできない…」と思いこんだりしてしまったら?
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