近所の商店街にある唯一の本屋さんは、もともと何の特徴もない普通の本屋さんだった。それがある日、何を思ったのか突然絵本専門店に変わっていた。絵本好きの私がそれを見のがすはずもなく、喜び勇んでお店に入ってみたりしていたのだが、とにかく蔵書数が少なく、“痒い所に手なんか届くわけがない”といった感じの本屋さんで、「○○という絵本はありますか?」と聞いてもあったためしがなかった。
そんなこんなするうち、『ここ数日店を閉めてるな』と思っていた矢先、久しぶりに開店した時には、絵本専門店というよりはどこかの画廊のように店が変貌していたのである。もちろん絵本も置いているのだが、絵本よりもどこぞの画家の絵をメインに売るお店に変わっていたのだ。なんだこの店とか思いつつもお店の前を通る時には一応店先に置いてある絵本をちょっと見たりはしていた。

そんなある日、いつものごとく店先の絵本をちょっと見ていたら、珍しく中からお店のお姉さんが出て来そうな気配がした。一瞬面 倒になり『もう行こうかな』と思ったのだが、出てきたと同時に通り過ぎるのも失礼だなと思い、そのまま絵本を見ていると、なんとそのお姉さん、腹話術の人形を手に店から出てきていたのである。気の毒だけどこれが全くかわいくない人形で、かわいいどころかちょっと恐ろしい感じの人形だった。
そしてお姉さん、人形の首や目を動かしながら「こんにちは!」と控えめにしゃべりかけてきたのだが、やってることは全く控えめではない。しかも驚くほどお姉さんの口は動いていた。これがどこかの公民館や劇場なら何もおかしな話ではないのだが、ここはごく普通の商店街。あまりにも周りに溶け込まない状況に周りの道行く人もみんな見ていく。しかしお姉さんはそんな周りの目も気にならないのか気付かないのか、一生懸命カシオに話し掛けている。→続きを読む