あまりに真剣な様子にすぐに別れるのも悪く、そのまま話してはいたが、話かけられている当のカシオは睡眠中なわけで、「あら、寝てますね〜。今からお出かけですか?それともお帰りですか?」とか話しかけても、もちろんカシオが答えるわけもなく、結局私が「今から買い物なんです」とか答えていた。
この光景がより一層異様さをかもし出していたのだ。
腹話術で寝ている子供に必死に話し掛けるお姉さん→もちろん眠っていて答えない子供→寝ている子供の代わりに返事をする母親→母親が答えているというのに相変わらず母親を見ず、子供に向かって話し掛けるお姉さん…。
といったヘンテコな三角関係が出来上がっていたから。
こ、これは確かに異様だ。

右から左からと人が行き交う本屋の前で、腹話術の人形と目も合わさず話をしてる主婦ってどうですか?

結局5分くらい話した後、我慢仕切れずに私の方から「じゃあ」と言って別れたのだった。
その後も店の前を通る度にそれとなくお店の中をそっと覗いてみたが、いつ見ても正面にあるレジ台の横にはあの腹話術の人形がでーんと座らされていた。まるで人形が店番をしているかのように。あれでははっきりいってよけいに入りにくい店となってしまってる。子供達とコミュニケーションをとりやすいようにと用意されたであろう人形が、皮肉にも子供も大人も遠ざける要因の一つになってしまっていたようである。

このように試行錯誤しながらも頑張り続けていたその本屋さんは、先日悲しくも店を閉めていた。