2007.01.21up

純愛なんて知らない (2)

上郷  伊織



  ◇◇◇

「……あっ…。……………んん………」
 準備室のソファーベッドの上で俺達は睦みあっていた。
 学校でのこのような行為は既に日常化していて、佐伯の授業時間が少なく、ここには人が寄り付かない事に俺は感謝すらしている。
「あきら、輝。気持ち良さそうだね」
 俺の中に進入した佐伯の大きくて器用な分身がゼリーの滑りを借りて小刻みに蠢いていた。的確に俺の快感を誘うような場所をひっきりなく攻め立てるソレを俺は愛しくさえ思う。
 数年前から俺はもう男無しでやっていけなくなっている。
 後ろでしか決定的な快感を得られない。そんな男になってしまった。
 こんな風に体を重ねているからといって佐伯を愛しているのか、と言えばそうでもない。
 佐伯の無駄な肉がそぎ落とされた体、理知的でともすれば冷酷な表情を見せる顔、セックスを愛しているかと聞かれればYESと即答出来てしまうのだ。
「……輝、愛している」
 こんな風に佐伯は俺に言葉を刻む。
 果てる前には特に沢山言葉をくれる。
「俺も、愛してるよ」
 だから俺はお手軽に同じ言葉を佐伯に返すのだ。
 その方が佐伯は俺を大切にしてくれるから。
 心から佐伯を欲しているとは思えないんだけど。
 もし、今、佐伯よりも上手い奴が俺の前に現れたら、きっと俺は尻尾を振ってそいつについて行くかもしれない。佐伯と同じだけ優しく、俺の都合に合わせてくれるような人ならば。
 目下、佐伯以上の存在がないから俺は佐伯といるんだ。
 愛ってさ、なんかはっきりしなくて解らない。
 解るのは、今、この噎せ返るような甘ったるい空間が居心地よくって、佐伯の与えてくれる刺激の全てが俺には気持ちいいって事だけ。
「森川二郎って子だけど……知ってる?」
 第一ラウンド終えて余韻に浸っている時だった。不意に二郎の事を聞かれて、俺はピクリと背中を震わせていた。
 今、この時、二郎の事は頭の外に押しやってしまいたかった。
「二郎が何?」
 間近で俺の顔を覗きこんでいた佐伯はフワリと笑った。
「やっぱりそうか」
 一人納得したような抜け目無い切れ長の目が冷たく光ったような気がする。
「何がそうなの?」
「だからね。最近、授業中に物凄い形相で私の事を睨んでいるんだよ。罪作りだね輝は」
 指先で胸を突付きながら悪戯な瞳をキラキラと佐伯は輝かせる。
 俺と二郎の関係を簡単に解ったような口を利く佐伯。簡単に解られてたまるものかと俺は心の中でささやき返す。
「俺、関係ないから。だいいち、二郎はノンケだし」
 二郎に俺たちの事をとやかく言う権利なんか全くないし。二郎なんか、俺の事、干渉ばかりして小姑みたいなマネしやがって。
 確かに中学の頃からの腐れ縁ではあるけど、確かにホンの1年前までは友達だと俺も思っていたけど。
「アイツ、俺の邪魔ばっかするから嫌い」
「珍しいね。輝が感情を表面に出すなんて」
 自分でも気付かずに膨らませた頬を佐伯の指に突付かれ、俺は顔の熱さに赤面してしまった事を知る。
「アイツが馬鹿だからだよ。ストレートの癖に俺の事ばっか構っているから、この間も彼女に振られたんだから……」
「それって、罪悪感? それとも心配?」
「どっちでもない」
 二郎の事なんて話すから、時間ばかりが経過してしまった。
 折角の気分は台無しな上に次のチャイムが鳴り、教室移動をする生徒達の足音や話し声が聞こえてきて、俺は首を竦めた。できる事ならば、HRの時間にこっそりと教室に戻るつもりだったのに。
 これじゃ無理だ。まだ俺の中にはキッチリ佐伯がいて、俺はと言えばシャツを羽織っただけの状態で、二人の腹は白濁でグショグショなんだから。
 俺の両脇に腕を差し込んで佐伯が体勢を変えたから、行為が終わったとばかり思って俺は佐伯から逃れようとした。だけど佐伯は俺の腰を押さえつけてソレを許さない。
「何? どうして……」
 ニヤリと片方の口端を上げて佐伯は不敵な笑みを浮かべる。
「この時間帯って刺激的だとは思いません? 君もまだ足りないって言っているようだし」
 俺の中で佐伯の分身はすっかり元気を取り戻していた。いつまでも出て行かない佐伯のせいで俺の分身も力を取り戻しかけている。
「でも…、人の声が聞こえっ………」
「だ・か・ら、声は我慢しようね」
 先端を指で撫でられ中で動かれたら、俺は抵抗できない。ジンっと昇ってくる熱さを頭の隅で感じながら、不本意ながらも俺は抜かずの二発に付き合わされる羽目になった。
 佐伯の体を跨いだまま、俺の両手は口を押さえつける。
 廊下に俺の声が漏れて誰かに気付かれるのは嫌だから。
 でも、そんな事を考えれば考える程、不安な気持ちと刺激が加わって、いつもよりも興奮してしまう自分を抑えるのが難しくて。抑えようとすればする程辛くて俺は涙を零していた。
 イカせて欲しいけど、今はダメ。
 だけど、イキたい。
 なのに佐伯は俺の分身の付け根を握りこんで離してはくれなかった。

 ホンの十数分がどれ程長く感じた事だろう。
 必死に声をかみ殺し、自ら刺激を与えないように俺は努めていたっていうのに、佐伯は好き勝手に俺の体を弄くって、まるで玩具にされているような気分だったのだ。
「……い…意地が……悪い」
 やっと物音がマシになって人の気配が消えた頃、俺はやっと声が出せた。
「必死に声を殺したり、涙を滲ませている君も可愛かったのにね。私は残念だな」
 そう言って佐伯は俺の涙を舌で拭った。
「もう、イッていいんだよ」
 言葉も終わらぬ内に佐伯は一際激しく腰を動かし始めた。俺も堪らなくなって、自ら腰をうねらせて最後の瞬間を待っていた。
「……さえ…き。…佐伯!」
 多分、俺と佐伯は同時に達したんだと思う。でも、何か物音がしたような気がして………。
 快感に朦朧とする頭を左手のドアに向けると、ソコに人影がある。
 だ、だ、誰かに見られてた!
「ウッ、……。どうした?輝?」
 俺は焦って、佐伯の上で咄嗟に膝立ちになって、そしたら佐伯の分身を思いっきり絞ったまま抜いちゃって佐伯はうめき声を漏らす。
 だって、だって、準備室の入り口に誰かいるんだもの。
 そんなのってないよ。
 俺は肩に引っ掛けてたシャツも殆どずれちゃってて、半裸どころか殆ど全裸のAVのお姉さんみたいな状況で……。
 兎に角、服を着なくちゃいけないけど、ソファーベッドの近くには服はない。
 ちゃんとしたベッドじゃないからシーツや毛布もない。
 ナイナイ尽くしでどうすればいいのか解らないのに、佐伯は妙に落ち着き払って俺を抱きしめた。
「やあ、お招きした覚えはないんだけど、何か御用かな?森川二郎君」
 佐伯が良く通る声を発したその時、俺の尻で搾り取っちゃったゴムから生ぬるい液体が漏れて俺の太ももの内側を伝い落ちた。


つづく

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