時間のタリナイ恋なんて・・・17
上郷 伊織
◇◇◇◇◇
─────
どうしろって言うんだよ
ふらつく頭を抱えたまま、聖は開発室のデスクに向かっていた。
昨夜は全然眠れなかった。
あれはあくまでも男の生理だ。
何も裏切りなんかじゃない。
そう、断じて気持ちの伴ったモノではない。
気にする必要などない。
たかだか人の手を借りただけの話なのだから・・・・・・・・。
不可抗力だったのだ。
いくら自分に言い聞かせても、納得のいかない経験に聖は苛まれ続けていた。
隣のデスクでは、いつもと変わる事なく一柳が作業を続け、その奥のでかいデスクでは岸上も作業を続けている。岸上はもちろん知らない事だし・・・・・・・。自分一人だけが動揺しているようで、心に引っかかりを感じながら、聖は作業を続けていた。
「ココの所だけどな・・・・・」
仕様書を片手に一柳が身を寄せてくる。
「・・・えっ? ・・・あ・・・・・・・・・・」
仕事中に何か起こる訳も無いのに、身体が無意識に逃げの姿勢を取った。
その反応に聖自身、驚いていた。
あんなの大した事はない筈なのだ。
ちょっと野良犬に噛まれた位に考えないと、仕事なんてやってられない。
昨夜さんざん考えて出した答えがそれだった。
取り敢えず、一柳とはペアで仕事をしているのだから、プロジェクトが終わるまでは顔を合わさない訳にはいかない。それに、逃げたと思われる方が聖には耐え難い事だった。
一柳は一瞬眉を寄せたが、やがて一つ溜息を吐くと画面の動作に関しての打ち合わせを再開した。
聖もそれに合わせて仕事を続行したが、その日の仕事中、一柳と目を合わせる事はなかった。
テスト検証は大詰め、もう終焉は目の前まで来ている。その日の内に終わるのだ。そして、次は本番検証。
とにかく今は本番検証の事だけ考えろ。
無事に終わらせる事だけを・・・・・・・。
他は・・・・・・他の事は、後で考えればいいさ。
子供でしかない自分が呪わしい。
せめて、一柳と同じ歳であったなら回避出来たかもしれない出来事の不条理さに聖は唾を吐きかけてやりたい気分を無理矢理押さえ込もうとしていた。
────
早く終わっちまえ。終われば会う事もない相手だ
聖は自分に何度も言い聞かせていた。
それしか、今の聖には考えられなかった。
つづく