教えられたとおり廊下をひたすら真っ直ぐ進む

真っ直ぐ進む、真っ直ぐ進む

―――真っ直ぐ進む

まだ、着かない

実際には歩き始めて5分ほどしか経っていないと思う

しかし、没個性的なこの廊下は

体内時計を狂わせる

さらに

もしかして逆方向に歩いていて

玄関の方に向かっているのでは?

そんな不安がわき始めた頃

視界に大きな扉をとらえた

この扉の色も白

取っ手がついていなければ

壁と見分けがつかなかっただろう

もしかしたら講話が始まっているかもしれなかったので

そっと扉を引いた

ホールの中は天使で溢れかえっていた

前の方にこちらより数段高い舞台があり

その上にはマイクが用意されていた

天使もマイクを使うんだなっと

独りごちっていると

「こちらに帰ってこられたばかりですね?」

ふいに声をかけられた

声のほうに顔を向けると

私より少し背の高い男の天使が

両手にパンフレットらしきものをいくつか抱えて立っていた

たぶん、私みたいにこっちに帰ってきたばかりの天使に

パンフレットを配る係りの人なのだろうが・・・・・

「なぜ、私が帰ってきたばかりだとわかったんですか?」

「服装が違うからですよ」

言われて自分の服装を確認してみる

・・・・・・・・・・・・

いわゆるパジャマ姿だ・・・・・・

朝起きて自分の背中に羽が生えていた事に戸惑い

ピノと名乗る天使に“天使について”のレクチャーをうけ

そのままこっちの世界へ

着替える暇なんてなかったし・・・・・

そんな言い訳を思い浮かべていると

「こちらが、パンフレットになります

 もう講演がはじまってしまうので

 後で読んでください」

たぶん、3ページくらいしかないのだろう

薄くて白いパンフレットをもらった

「お〜〜〜〜〜

 今回も、こんなに集まりよって

 みんな仕事は良いのかな?」

ホールに響く声

威厳なんてものをまったく感じさせず

優しいおじいちゃん

そんな声

壇上に上がってマイクを持っているのは

声の示すとおり

白髪の老人天使

たぶん、あの天使がこの世界の長“キリト”なのだろう

想像とはずいぶん違ったが・・・・

満面の笑みを見せながら

キリトの講演は始まった

「まぁ、まずは報告からじゃ

 前回の講話から今回までに

 “堕天使”に落ちたものは500名

 相変わらず多いの〜

 増えていくばっかりじゃ・・・・・」

笑みが消え

沈んだ表情をつくる

「なぜ、皆ここを去ってしまうんじゃろ

 それほど、人間の“心”になることが魅力的なのじゃろか?

 そんなにもこの天使の世界に魅力がないのじゃろか?」

集まった天使たちに訴えるような声で講演は続く

「我々天使たちの使命とは何か?

 それは、人間たちに“幸せ”をばら撒く事じゃ

 人間は“幸せ”を奪いあう生物

 今の人間界を観てみるのじゃ

 減り続ける幸を分けあうことなく奪いあい

 より多くの不幸を生み出し続ける

 なぜじゃ?

 なぜ、奪いあう?

 簡単な事じゃ

 “幸せの”絶対量が不足しておるからじゃ」

ホールに落ちる溜息

そして

叱責するよう

怒りを乗せた声が駆け巡る

「すべて、我々天使の責任じゃ

 我々の数が減り続けるがため

 人間の世界に幸せが届かない

 罪を犯す前にもう一度考えてほしい

 我々の存在意義を

 この世で唯一人間たちを支配できる

 自分たちの責任を」

自らが発した言葉の余韻に浸るよう

数分の間を置き

さきほどまでのスピーチと違い

感情のこもっていない声で

「諸君らの働きに期待する」

それが講演会閉幕を告げる合図となった

それとともに天使たちが羽を動かし始め

そして

サパサパサパサバサパサパサバ

一斉に飛びたった

視界を覆いつくすその絵画的な光景に

私は、ただただ魅せられ

この美しい絵画のワンピースに成れたことを

心から喜んだ

 

天使たちが飛び去ったあと

,5人の天使がホールに取り残されていた

たぶん、私と同じ天使成りたて組みであろう

みんな服装がまちまちだった

まぁ、パジャマ姿なのは、私一人であったが・・・・

「よぉ、その姿やっぱり目立つね」

聞き覚えのある声が上からした

パサパサパサパサという羽音をたて

ピノが上から降りてきた

「服の支給まだなのか」

自分の白いローブをつまみながら

「一様これが天使の服

 みんなこれ着ていたでしょ?」

そういえばあまり意識してみていなかったが

皆同じ服を着ていた気がする

「その服装になにか意味があるんですか?」

「いや、意味はないと思うよ

 たぶん、部屋にいったら置いてあるはず

 部屋は5階だ」

「えっと・・・・

 階段ってどこにあるんですか?」

「いやいや

 階段やエレベータの類はないよ

 羽があるんだし

 さっき見たでしょ?

 一斉にみんなが飛びたっていく様子」

「ええ

 でも、まだ上手く飛べるかどうか・・・・」

「イメージ次第

 自分が飛べると思えば飛べる

 まぁ、ようは慣れだ

 明日は、“心落とし”だから

 早く寝るように

 そうそう、パンフレットもタブーのところだけは

 眼を通しておくように」

「え?でも、まだ夕食食べていませんよ?」

「空腹感ないでしょ?」

「そういえばないですね」

「まぁ、そういうことだ

 天使は食べない

 存在自体が人間とは異なる形式だからね

 詳しい事は知らないけどさ」

「そうですか・・・・・

 じゃ、えっとお休みなさい」

「ほい、オヤスミ

 部屋は、頭の上のワッカに問いかければ教えてくれる

 これも慣れだな」

その後、少し迷いながらも自分の部屋に辿り着けた

広くもなく狭くもない一人部屋

ベッドが1つに机が1つ

机の上には白いローブが置かれていた

とりあえず、それに着替えて

ベッドに寝っ転びながら

パンフレットを開いた

長キリトの挨拶に始まり

こっちの世界の簡単な歴史

天使の仕事内容と続き

そして最後のページにピノが読むようにと言っていた

タブーについて書かれていた

1、感情を出さない

2、知ろうとしない

2つだけなんだ・・・・

そんな印象を抱いた後

ベッドに意識が吸い込まれていった