横開きのドアを開き
室内へ入る
受付カウンターらしきものの奥に1人と
順番待ちをしている人が5人
私はその最後尾へ並ぶ
「あなたも、登録ですか?」
“前”最後尾者だった中年の男性が話しかけてきた
「まさか、天使がこの世界に存在していたとはね
驚きじゃないですか?
それに、まさかまさか自分が天使だったなんてね?
私は、未だに信じられませんよ」
「はぁ・・・・」
ちょっと勢いに押されつつ
とりあえず、頷く
「だって、天使ですよ?
あの・・・えっと
誰でしたっけ?
え〜〜っと画家なのですが・・・・・
名前は失念してしまった・・・・・
いや〜この歳になると固有名詞がでてこない
お恥ずかしい
まぁ、とにかく名前はいいです
人間だった頃
私は、絵画を集めていましてね
コレクションの中で
もっともお気に入りだったのが
名前は忘れましたが有名な画家が書いた
天使の絵なんですよ
天使はいいですよね?
観ているだけで癒される
その絵は天使が微笑んでいる絵なんですけどね
まさに、Angel Smile!
観ているだけで癒さてました
そんな存在に自分が成れるなんて・・・・・」
熱く天使について語ってくる
おじさんの話を適当に聞き流しつつ
周囲を見渡す
広く飾り気のない無機質な室内
ここも壁紙は白で統一されていた
これだけ広いともっと職員がいそうなものだが
先ほどピノが言っていたように
講話の場所取りにでも行っているのだろうか?
「ところで私たち天使って何をするんでしょうね?
そもそも天使ってどういう存在なのでしょか?
やっぱり、人に“幸せ”を運ぶ存在なのでしょうかね?」
そういえばまだ、考えていなかった
天使とはどういう存在なのか
この世界に生を受けたものはいかなるものにも
それなりの理由というものが存在していると思う
多くものは食物連鎖という
自然の獄に縛り付けられることが存在理由となっている
弱肉強食を唯一のルールとしたこの獄から
逃れきった人間
人間にはどんな存在価値があるのだろうか?
私は、ずっと疑問だった
しかし、天使という存在を知り
この疑問に対して1つの答えが浮かんだ
人間の存在理由
それは、天使の牢獄
自然の牢獄から逃れた人間は
他の存在に対しての獄として
存在理由が与えられている
では、天使はどんな存在理由が与えられているのだろうか
「なんでしょうね・・・・私にはわかりません」
「そうですよね まだ、私たちは天使になったばかりですし
お、やっと私の出番のようです」
いつのまにか順番待ちの列は短くなり
私に話しかけてきていた中年男性の順番になっていた
列の先端に停止線があり
線からカウンターまでは3mほどの距離があった
「じゃ、ちょっと行ってきますね」
中年男性はカウンターへと歩んでいく
私の後ろには誰も並んでおらず
しばし、1人のときを過ごす
職員と中年男性はなにやら話し合ったり
書類を書いたりしているようだが
この距離からでは、聞き取ることも見る事もできなかった
数分後
中年男性がこちらへもどってくる
「終わりました、次ぎどうぞ
あ、そうそう名前もらいました
天使名だそうです
“ミレ”といいます
これからよろしくお願いします
先に集会場に行っていますね
それでは後ほど」
「あ、はい後ほど」
扉の開く音閉じる音を聞き終え
私はカウンターへと進んだ
「お帰りなさい
ようこそ故郷へ」
ゆったりとした白色のローブ(背中のところに羽を出すための穴が開いている)に身を包んだ女性が事務的な口調で話し始める
「これから、この世界の住民登録をしていただきます
まず、あなたの天使名ですが“キィ”です」
「“キィ”ですか・・・・」
「不満ですか?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど
ただ・・・・ほんの先ほどまで
“都築 征一郎”という名前があったので」
「改名に抵抗があると?」
「ええ・・・・25年間その名前でやってきていたので」
「でも、これは元々あなたの名前です
あなたは、人間である前に天使なのですから」
「私は昔から“キィ”という名前なんですか?」
「ハイ
天使としてこの世に生を受けた時点から
あなたは“キィ”という名前です
こっちに帰りたての頃はそういうものです
すぐに慣れますよ」
「はぁ・・・そういうものですか?」
「そういうものです」
人間が未知のものへの不安をかき消すために
考え出した行為である命名
人間が生を受け一番初めに与えられる物でもある
初めてのプレゼント
それを強制的に取り上げられるようで
抵抗感はあった
だけど
“キィ”という名前
なにか、懐かしい感じがした
「あの、キィさん?」
「あ、はい
すいません少し考え事を」
「そうですか
では、もう一度言います
こちらの書類にサインしてください」
いつのまにかカウンターに手のひらサイズの紙が置かれていた
「これにサインすればいいんですか?」
「はい、天使名でお願いします」
さきほど教えてもらった“キィ”という名を
その紙に書き下ろす
「これで、登録は終わりです
ご苦労様でした
次は、定期講演会に出席してもらいます
この部屋をでて廊下を真っ直ぐ行けば
ホールの入り口があります
まぁ、いまからだと後ろの方になってしまいますけどね」
「ピノさんも言っていたけど
そんなに人気があるんですか?」
「ええ、実際見てみたらわかりますよ
私たちの長である“キリト”の講話は
とても楽しいものですよ」
「そうですか
なんか、想像できないんですよね
人間だったとき講話を面白いと感じた事なかったので・・・・」
「それは、人間だからですよ
人間と天使との間には大きな違いがあるんですよ
それも、講演をきけばわかります
入り口でパンフレットももらえるはずなので」
「わかりました
聞きにいってきますね」
「急いだ方が良いですよ
もうすぐ始まってしまいますから」
辺りをキョロキョロと見渡してみる
だけど・・・・
「時計をお探しですか?
この世界には時計はありません
必要ないですからね」
「では、なぜもうすぐ講演会が始まるって
わかるんですか?」
「それは、これです」
受付の女性はピン!と立てた右人差し指で
自分のワッカを指差す
「このワッカを使えばわかるんですよ
まだ、これをもらったばかりで使いこなせてないようですが
これさえあれば大抵のことはできます」
「道を覚えてくれる機能や
言語を翻訳してくれる機能など
たくさんの機能を備えているようですけど
いったいそのワッカってなんなんですか?」
「まぁ、天使の象徴みたいなものです
いつの頃からつけるようになったのか
誰が発明したのかも一切不明です」
「“いつの頃から”というからには
つけていなかった時期もあるんですか?
それに、“発明”であるってことは
このワッカは機械なんですか?」
「ええ、天使も人間と同じように自分達の歴史を
文字で伝えたり絵画で伝えたりするので
そういった資料から
ずっと昔、天使にワッカがなかったことがわかっています
ワッカが機械なのかという質問なのですが
これは、答えられません
なぜなら、まだ解明されていないのです
それに今後も解明されることはないでしょう
そんなことより早くホールへ」
まだ、訊きたい事があったのだが
これ以上訊きだせる雰囲気ではなかった
「わかりました
色々とありがとうございました」
軽い会釈を交わし
住民課を後にする
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