どれほど昇ったのだろうか
時折、東に西にと進路をとっていたが
私の方向感覚はとっくに狂っていた
単調な色に支配された領域
この位置にこなければ
空の怖さを知ることはなかっただろう
変化の乏しい蒼色に
自分が解けていくようだった
「もうすぐ着くよ」
ピノの声が流れる
「どうした?気分悪い?」
「いや、そうじゃないけど
なんか、ボーっとする」
「まぁ、初めて飛んでいるんだし
それくらいは仕方ない
あとちょっとだし
我慢してくれ」
「よく迷わないね」
「ああ、このワッカのおかげ
結構、便利なんだよね
このワッカ
色々な機能があってさ
今回は、一度通った道を覚えるという
機能を利用しているわけ
お、見えてきたよ」
ピノの指すほうに
建物が浮(あ)った
まだ、距離があり
小さくしか見えないが
この距離から見えることを考えると
かなり大きな建物であることが想像できた
建物が見え始めてから数十分後
建物すべての外様(がいよう)が見えてきた
まず、目にとまるのは
大きな黒い門
高さは数十メートルはあるだろう
縦に比べ横幅が小さいため
なにか、頼りない印象の門である
しかし、この門に目がいくのは
その、形ではなく色に原因があるのだろう
ただ、黒いだけではなく
漆黒
昔、人が火というものをまだ持ち得なかった時代
このような黒をいつも体験していたのだろう
あらゆる感情を負のものとし
光という光を拒絶する
そんな色で染められた門だった
普通、門があればそれを中心に壁が築かれているものだが
ここには、それがない
ふと、この門は外からの進入を防ぐものではなく
中の者を閉じ込めておくものである気がした
門の先10メートルのところに
大きな建物があった
どこかの国の大統領専用寄宿舎を連想される
もっとも大きさは比べ物にならないほど強大である
門とは対照的に真っ白な外壁
空の蒼と相まってその存在は絵画の様であった
そこに確かに浮(あ)るのだが
立体感がなく2次元的なのである
嘘っぽさを感じるその建物に私とピノは近づいていく
「でっかい門でしょ?
この黒い門から外に出るたびに
自分達は普段、人間たちとは違う生活をしているんだなと思い知らされる
まぁ、天使なんだから人間と違って当然なんだけどさ
でも、外見上ワッカと羽の違いしかない俺たちと人間たち
だけど、この門の中に入ってしまうと
決定的な違いが生じる」
「どこが違うんですか?」
「まぁ、それはお偉いさんが説明してくれるよ
新人及び帰還天使講習会の席でちゃんと説明がある」
そんな会話を交わしながら私たちは
自動的に開いた黒い門をくぐり
白い建物の中へと入っていった
「誰もいないですね」
真っ白に統一された屋内
延々と続くような錯覚を起こさせる
廊下を歩きながら
ピノに声をかける
「うん?まぁ、もうすぐ講話があるからね
みんな席取りに忙しいのさ
お偉いさんの話は人気あるからね
数少ない娯楽だし」
「え?そんなのが娯楽なんですか?」
「まぁね
講話を聞けばわかるよ
っと、その前に
悪いが少し廊下を戻って
住民課の部署で住民登録してきてくれ
俺は帰還報告とか雑用があるから
後で、ホールで会おう じゃ」
「あ、わかりました
じゃ、後で」
私は1人廊下を戻る
もし、雲の中を歩けたとしたら
こんな感じなのだろう
距離感、方向感、歩重感
そういった感覚すべてが
この白い建物に吸い込まれていってしまう
フワフワとした足取りの中
少し先に見える
『住民課』の表札がかかる部屋へと向かう
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