朝起きると、すぐにその異変に気がついた。

自分の背中に羽が生えている。

・・・・・・・・

えっと・・・・

状況がいまいちのみこめない

朝起きたら

羽が生えていた

昨日までは

なかった

なかったものが今日にはあって

えっと・・・・いつ生えたのだろうか?

いやいやいやいや

“いつ生えたのか?”が問題じゃなくて

“なぜ生えたのか?”を考えなくては

・・・・・・・

・・・・・・・・・

わかんない

もしかして人はある時期に達すると

みんな羽が生えるのだろうか?

でも、今までに羽を生やした人間をみたことないし

極々少数の人に限って起こる現象なのだろうか?

自然界において時々見られるアルビノのように

突然変異的な現象なのだろうか?

グルグルグルグル思考は廻る

そして、でた結論は

考えてもわからないものはわからない

所詮、人ひとりの見識なんてちっぽけなもので

世の中わからないことだらけさ

とりあえず

背中の羽を動かしてみた

ピクピクピクと微かに動くのだが

想い描いていたほどには動かない

羽といっても手のひらサイズの小さな物で

到底、羽ばたいて空を飛ぶなんてことは無理である。

まぁ、別に害があるわけではないし

羽のことは、置いといて

朝食、朝食

なんだかんだとしているうちに

朝食というより

昼食に近い時間になっていた

湯を沸かし

所定の位置に置いてある

小瓶からスプーン2杯分の葉を

ポットに入れ

沸騰した湯を注ぎ

2分半待つ

その間に、クロワッサンを2つと

昨日作りすぎてしまったサラダを

大きめのお皿に盛る

そして、最後にポットからティーカップに紅茶を注ぐ

カップは、翡翠色に満たされ

温かな香をかもし出す。

いつもの朝食(ちょっと時間は遅いけど)

いつもの部屋

ちょっと違う自分(羽が生えたから)

この変化が

どれだけの力を持って

私の日常を変化させていくのか

少し楽しみになってきた。

朝食とも昼食ともとれる食事が終り

昨日から読み始めた小説に眼を落していると

コンコン

ノックの音がした

・・・・・・・・・

コンコン

ここは、7階である

コンコン

しかし、ノックの音はベランダから聴こえる

コンコン

好奇心と恐怖心がしばし葛藤した後

好奇心に動かされベランダの方を観る

そこに彼はいた

灰色の長袖シャツに

黒のジャージ

そんな、家でくつろいでいますセットの服装より

私を驚かせたのは

背中の羽

そう

彼にも羽があるのだ

さらに、頭の上にワッカもある

「○▲△▼■■●」

なにか、言葉のようなものを発しているが

さっぱりわからない

「あ〜あ〜、すまん、ごめん、悪かった

 俺の言っている言葉わかる?」

日本語だった

「わかります」

感情の籠もらない無機質な声が続く

「悪いね ついつい忘れちゃうんだよね

 言葉かえるの」

「はぁ・・・・・・」

「えっと、わかっているとおもうけど

 俺は、天使だ 名刺いるかい?」

確かにワッカと羽は彼が天使だということを現しているが

服装が・・・・・

「いらないのか?名刺」

「いえ、いただきます」

『○×■△▽▲#$%

 ◇□◆◎●×=|

         ♪*&<>』

「・・・・読めないんですけど?」

「うん?あ、・・・悪い悪い

 えっと確か持ってきたはずだよな」

目の前にいる自称天使は、なにやら自分のポケットを探りだした。

そして

彼の頭の上に浮いているワッカと同じ物を取り出し

「ほい、これつければ言葉も文字もわかるようになる

 まぁ、一種の翻訳機だな」

と言ってそのワッカを差し出してきた。

形も大きさもドーナツのような感じで

色は黄色

恐る恐る手にとってみた

見た目より軽い

というかまったく重量感がない

「それを、頭にのっけてみ

 そしたら自然にこうなるからさ」

彼は、自分のワッカを指差しながら言う

「はぁ・・・・」

彼の言葉に従ってワッカを自分の頭の上へ

すると

ワッカは、ふわっと浮かび上がった。

「手を離しても、だいじょうぶ

 どういう理屈かわからないが

 勝手に浮かび続けるから」

ゆっくりと手を離してみる

彼の言ったとおり、ワッカは浮かび続けている

「おめっと!これで、あなたも天使の仲間入り

 ほい、今度はちゃんと読めるはずだから」

彼は、さっきと逆のポケットから新しい名刺をとりだし

私に手渡す

『堕天使救済課

       ピノ』

「ピノさん?」

「そう、ピノ

 まぁ、天使名だけどね

 人間のときの名前は忘れた。」

「人間だったんですか?」

「昔ね

 今、向こうにいる天使のほとんどが

 人間経験者だし」

「人間が天使になるんですか?」

「う〜〜〜ん

 どっちかというと逆だね

 天使が人間になるのさ」

「天使が人間に?」

「まぁ、全部が全部なるわけじゃないけどね

 天使の世界で罪を犯したもの

 堕天使だけが人間になるわけ」

「堕天使?」

「そう、人間界でも罪を犯したものは犯罪者とか罪人とか呼ばれるでしょ?

 それと同じで罪を犯した天使は堕天使と呼ばれるんだよね

 で、罪を犯したらそれを償わなければならないわけで

 そうでしょ?」

「ええ」

「だから、人間として人間界で罪を償うんだよね

 何度も何度も人間として生まれ変わって

 犯した罪を償うまでずっとね」

「じゃ、人間は

 天使が自分の罪を償うために存在しているのですか?」

「いや、そういうわけじゃなくて

 人間は人間として存在している

 ちょっとややこしい話になるけど

 人間は人間で自分の意思の基に行動している

 堕天使は、そんな人間に取り憑いているだけ」

「取り憑いているんですか?」

「そう

 寄生していると言うほうが適切かな?

 害はないよ ぜんぜん

 人間を操ったりとか一切できないからね」

「ただ、取り憑いているだけなんですか?

 どうやって取り憑くんですか?」

「う〜〜ん

 まず、どうやって取り憑くかだけど

 人間が産まれる時にはすでに取り憑いているんだよね

 人間で言う“心”ってあるじゃん?

 あれが、堕天使」

「え?」

「“心”=堕天使なの

 心ってさ

 不思議じゃない?

 見えないのに確かに存在していて

 喜怒哀楽に応じて色んな動きをみせるじゃん?

 それって自分が意識して動かせるわけじゃなくて

 自然に生じるものでしょ?」

「・・・・よくわからないんですけど?」

「え〜〜っと

 例えば嬉しい事があったとするでしょ?

 そうすると人間は

 嬉しいって感情をもつわけじゃん?」

「はい」

「つまり、それは心が“躍っている”状態なのね

 心が躍るから嬉しいという感情が湧いてくるの

 ここまでは、わかる?」

「ええ、わかります」

「で、心が躍るのは

 別にさ、人間が意識して踊らさせているわけじゃなくて

 嬉しいことがあったら勝手に踊りだすでしょ?

 何故だと思う?」

「何故って・・・・」

「考えた事もない?」

「はい」

「まぁ、普通はそうだろうね

 心の存在自体を意識している人間ってほとんどいない

 さっきのなぜ勝手に踊りだすか?の回答だけど

 心そのものが1つの存在なのさ」

「?」

「え〜〜〜っと

 つまり、心も1つの生き物ってことかな

 心自体が自分の意思をもっていて

 その意思に基づいて行動するってこと

 ここまでわかる?」

「なんとなく」

「うん

 ここまでわかれば

 さっき言った

 心=堕天使ってとこ理解できるでしょ?

 堕天使は人間の中に心という部分を形成して

 自らの罪を償っているわけ」

「じゃ、さきほど言っていたことと

 矛盾しませんか?」

「どこが?」

「心って人間の感情を司る部分だし

 それが、堕天使によって形成されているなら

 堕天使は、ただ取り憑いているわけではなく

 感情面から人間を支配しているということにならないですか?」

「い〜や

 ならないね

 さっきも言ったように

 堕天使に人間を支配する力は与えられていない

 それに、心は感情を司る部分ではないよ

 人間の感情を司っているのは“頭”だよ」

「頭ですか?」

「そう

 心は付属物みたいなもので

 人間にとってあってもなくても

 どっちでもいいものなんだよ」

「じゃ、心として人間に入り込んだ

 堕天使たちは、なにをしているんですか?」

「基本的になにもしてないね

 唯、嬉しかったら嬉しいという感情を現したり

 悲しかったら悲しいという感情を現したり

 感情表現だけは結構豊かだね

 だから、たまに人間に影響与えちゃったりするんだよね」

「どういうことですか?」

「悲しい時に笑ってしまったり

 嬉しい時に涙がでたり

 感情と行動が合わないときあるでしょ?」

「ええ」

「あれは、人間の感情を司る“頭”と

 堕天使が形成している“心”が

 それぞれ逆の結果を導き出した結果なんだよね

 つまり、嬉しいことがあったとき

 “頭”は、嬉しいと認識するから

 人間の中に“喜”の感情が現れる

 だけど“心”を形成している堕天使は

 天使としての記憶が残っていて

 様々な要因から

 “哀”の感情がでちゃうんだよね

 そして、たまたま堕天使の感情のほうが勝っちゃう時に

 そういった現象がおきてしまうわけ」

「つまり人間を支配する力はもっていないけど

 感情面でたまに人間に影響を与えてしまうと言う事ですか?」

「うん、その通り

 さて、天使についての説明は終り

 そろそろ戻らないと君を連れて」

「え、戻るってどこに?

 それに私は明日から会社なんですけど?」

「う〜〜〜ん

 いまいち自分の立場を理解していないようだね

 さっき説明したように

 堕天使は人間の中に入って

 罪を償っていて

 償い終わると

 また、天使として生きることになるんだよね

 で、要するに君は罪を償い終わった天使なわけ」

「え?私がですか?」

「うん、まだ人間としての記憶の方が強いから混乱するだろうけど

 こっちに戻れば天使としての記憶が戻ってくるさ」

「でも、急にいなくなったりしたら・・・・」

「こっちの世界にいても誰も君の存在に気付かないよ

 天使って人間には見えない存在だし

 まぁ、そんなわけだから

 早く行こう

 君が本来いるべき世界へ」

そういうと

彼は強引に私の手を引っ張り

そして

羽ばたいた

小さな羽根を羽ばたかせ

天井やら屋根やらを通過し

上へ上へと向かっていく

「どう?建物を透き通った気分は?

 僕ら天使の存在はこっちの物質の存在と異なっていて

 交わる事がないからね

 だから、この世界の物に触れる事はできないし

 向こうからこっちを触れる事もできない」

ピノの声が風に消える

かなりのスピードで上へと昇っていくこの感じは

エレベータで1階から30階までノンストップで一気に昇る感じに似ている

下から上へと流れていく景色

重力に引っ張られる感覚

広がる視界

小さくなる世界

それらはみな

科学という力を用いなければ体験できない事であった

しかし、今

私はピノと一緒に自力でそれらを体験している

人がなぜ空に憧れを抱くのかわかった気がした

皆覚えているのだろう

昔、自分が天使として空を自由に駆け回っていたことを

「想像できる事は実際に実現可能なことである」

昔、誰かが言った言葉を思い出した