【3】面堂登場によってもたらされた大変化
それでは、いよいよふたりお互いのこと を一番好きに思っている状態が終焉をむかえる時についての考察をはじめることにいたします。 |
(1)序説
その時は面堂の登場によってもたらされたことは、議論するまでのことではないでしょう。ただ、そのことは一般的には「しのぶの心が面堂に移った」とされています。しかし私はその一言で言い表してしまうのは間違いではないけれども、少し簡単に済ませすぎているように思います。
なぜなら第一に、よく見てみると、あたるから面堂へとしのぶの心がすんなりと移ったわけではなさそうに思えるからです。いろいろと気持ちが揺れ動いた結果のように思えるのです。さらにはそれ以後もあたるから「完全に」離れたわけでもなさそうです。(このことに関しては詳しくは次回以降にしたいと思います。)
そして第二に、しのぶだけではなくあたる側の変化も見過ごせないように思うからです。ちょうど面堂が登場した直後に、あたるの心がラムへと大きく傾く出来事がおこるのです。それは偶然ではなく、相互に関連しあっているように思えます。
以下では、このような時期のしのぶとあたるの細かい心の動きを見ていくことにいたします。今回は基本的には話の展開どおりに順を追って見ていくことにします。 |
(2)「トラブルは舞い降りた !!」(面堂に惚れるしのぶ)
面堂がはじめて友引高校に現れたときはちょうどしのぶがいつものように怒っている最中でした。そしてそのために机を投げたところ、その机がパラシュートで降下中の面堂に当たりました。そのため他の生徒たちよりも早くしのぶと面堂が顔を会わせ、言葉をかわすことになりました。「ごめんなさい… 机を投げたのはわたしです。」とあやまるしのぶに対し面堂は「信じられないな…
きみのように美しい人が… どうか気にしないでください。 さあ笑って。 あなたの笑顔が最高の償いですよ。 笑って。」と言ってなぐさめるのです。その瞬間、しのぶは面堂に大きく惹かれるのです。
この頃のしのぶは【2】で見てきたようにちょうどつらい時期でした。あたるとうまくいかない状態が続いていました。単に物理的にうまくいかないだけではなく、あたるが自分のことを一番大切には思ってくれなくなったのではと思えてくるような状態でした。
そのような言わば寂しい状況の時に、突然現れたすごくハンサムな男から、このような言葉をかけられたのです。心が動かされないはずがありません。他の女生徒たちも面堂にあこがれるわけですが、しのぶには他の女生徒たちよりも面堂に惹かれる理由があるのです。 |
(3)「ツノる思いが地獄をまねく」1(揺れ動くしのぶの心)
(2)でのことがあった後、しのぶはあたるを避け、面堂に夢中になっている状態が続きます。一見、これでしのぶの心は完全に面堂に移ったかのように見えます。(なお、クラスメートたちもそう思ったようです。)ところがどうもそうではない(少なくとも完全には)ように思える場面が出てくるのです。
しのぶが面堂に惚れて以降、あたるはたしかにしのぶに声をかけたりはしているのですが、面堂にとられたかもしれないわりには、それほど動いてはいない気がします。※1
それでも、とうとう我慢できなくなったのか、ついにしのぶを呼びつけ、面堂のことについて問い詰めます。当初しのぶはあたるの言葉を軽く受け流していました。(ただ、あたるの呼び出しには応じたわけですし、話も聞いてはいました。さらには面堂が良いとはいえ、「あたるくんより」とあくまで比較の対象はあたるなわけです。まあ、以前は仲が良かったのだから興味 これくらいは…
しかし、あたるが真面目な顔(横むきで少々わかりにくいですが、前後の表情とは明らかに違います
※2 。)で、「おまえがみじめな思いをするとわかっていて、ほうっておけるか?」という言葉に大きく反応します。涙を流しながら「そこまであたしのことを…… ああ……あたしってバカ…… いっときでもほかの男の人に心を移すなんて」とまで言い、あたるに飛びこもうとまでします。
たったこれだけのことでそれほどまでの反応を見せたのです。完全に面堂へと傾いていたとしたらこれほどまでの反応は考えにくいのではないでしょうか。
なお、「たったこれだけのこと」と書きましたが、これは量的に見たものであって、この時のあたるの台詞自体は結構重みのあるものだと思います。自分のことを一番大切には思ってくれなくなったのではという不安・寂しさを吹き飛ばような言葉です。そして、この時真面目な顔を見せたことも重要でしょう。そのことによりこの言葉を本気で言ってくれたように感じたのではないでしょうか。また、その真面目な顔自体を格好良く感じた可能性もあると思います。そして、このような言動が重みを持つのはそれをしたのがあたるだからでしょう。
ただ、その後に面堂が現れると再び面堂に熱を上げた状態になるので、あたるに気持ちが戻りかけたことは一時のことのようにも思えます。9話「憎みきれないろくでなし」でレイ、129話「テンからの贈り物
!!」でのつばめなどの例があることもそのように思わせます。たしかにその場・その時のことに流されやすいことは否定できないでしょう。
しかし、私はこの時のことはレイやつばめの時とは違うように思うのです。この時は面堂に惚れ始めた頃で、今一番面堂への思いがふくらんでいっている時期であるはずです。そのために、このあたるに対しての反応は特別のことのように思うのです。一時のこととはいえ、まだまだあたるのことをかなり気にしているがためのことのように思うわけです。
さらにしのぶは次の登場時に、美女(実はラム)に言い寄るあたるに対して、「けさあたしにいったこと…あれはみんなウソだったのね……」、「あれからあたしなりに悩んだわ。でもたった今結論が出たの。」、「教卓の下で骨になるがよい
!!」と言い、教卓を持ち上げ、あたるに落とそうとします。
面堂へと興味が完全に移っていたのなら、あたるに対してこんなにまで怒りをぶつける必要はないはずです。以前何度か述べたようにあたるに怒りをぶつけること自体は、気持ちが薄れたことにはならず、むしろ真剣に怒ることは気にしている証拠だと思います。直接被害をうけているわけではないですから。
さらに「あれからあたしなりに悩んだ」と言っています。この怒り様を考えるとそれはそのとおりだったように思えます。悩んだという事実は、あたるに気持ちが戻りかけたことがレイやつばめの時とは違う特別なことであったことを示していると思います。そして、かなり心が揺れ動いていることも示していると思います。そう、まさしく心が揺れ動いていた時期だというのが私の考えです。 |
(4)「ツノる思いが地獄をまねく」2(ショックを受けるあたる)
【2】の(3)で書いたように 自分のことを大切に思ってくれる人に強く惹かれる性格が結局しのぶとあたるの仲が壊れた大きな原因でもあったように思えます。しかしこのことは逆にあたるがしのぶに関わり続けていれば、面堂がいたとしても、あたるとしのぶの関係が続いたのではないかと思えるのです。あのようなあたるでもしのぶを大切に思っているのは確かだとと思うからです。むしろ面堂がいることでラムの行動が制限されて逆にそうなりやすくなる可能性すらあった気がします。
「あたるがしのぶに関わり続けていれば」ということは、つまりはあたるがしのぶに関わり続けなかったということです。それではなぜあたるがしのぶに関わり続けなかったのでしょうか。それは思わぬ方向かもたらされました。
先ほどの出来事(しのぶを呼びだしたところ一時はしのぶの思いを自分に戻すことに成功しかけたものの、面堂が現れて結局失敗した件)の結果、あたるは意外にも非常にショックを受けていました。どうやら完全に負けたと思ったような感じです。おそらく表面上は強気でしたが、心の底では不安を感じていたのではないでしょうか。そのために必要以上に敗北感を持ってしまった、そう考えるのが一番納得できる気がします。先に述べたように実のところはそうでもなかったはずで、ここでもう一度挑戦していたならば、変わっていた可能性もある気がします。しかしそのショックの結果、行動が一時停滞してしました。 |
(5)「ツノる思いが地獄をまねく」3(変身したラム)
そしてその一瞬の停滞の間に別のところから思わぬ展開がおこりました。あたるがショックを受けている理由がわからないラムに対して面堂は「凡人の彼は、普通の女の子が好きなんでしょうね。」と言います※3
。そしてこの言葉が大きな展開を起こさせるのです。
ラムはいつもはあまり人の話に影響を受けない感じなのに、この時はその言葉を気にします。そして、「ダーリンのいう普通の女の子って、どんなのかな?」と悩み、「しのぶみたいなのかな、やっぱり」と考え、セーラー服を着てツノを隠します。ラムもこの頃相当悩んでいたのでしょう。結構いじらしい姿だと思います。(また別の言い方をすれば、「普通の女の子」っぽいかもしれない。)ただしこの時はまだあたるには伝わりません。
そして、あたるの前にその変身した姿で現れます。それを見たあたるの反応は、いつものきれいな女性を見た時以上でした。いつもなら喜び、すぐに口説く感じなのに、この時は最初はなんと言うか、動揺している感じです。そういう状態で 「ううっ
美女じゃーっ。こんなええ女 めったにおらん。」と言います。この時の顔を見てください。ちなみにこの言葉は女性に向けて言った誉め言葉ではありません。あたるはよほどこの女性をすばらしいと思ったのでしょう。
なお、これほどまでに思ったのはショックを受けている時だったからという面もあるように思います。女性に振られた(と思った)ためにショックを受けたのに、別の女性に惹かれるなんて、冷静に見ればおかしい、愚かな行為な気もします。ますます状況を悪くしかねません。そうとはいえ、人間はそれをやってしまうものなのでしょうね。
もちろん、実際に容姿がすばらしかったというのが本筋だと思います。もともとあたるはラムの容姿は気に入っていなかったようです。「グラマー」だとは言っていましたが、それ以外にはまったく容姿を誉める言葉は言っていませんでした。それはツノ、服装、髪の色が気にくわないというのが大きそうです。そういう意味では「普通の女の子が好き」というのはまったくそのとおりで、ラムの「普通の女の子」に化ける作戦は一時は成功したと言えるかもしれません。ただしこれはあくまで外面上の話です。 |
(6)「ツノる思いが地獄をまねく」4(失敗だったけれども…)
結局のところは今回は失敗に終わりました。直接の原因は、あたるのラムを蔑ろにするような態度に怒って変身がとけ(やめたとも考えられる)ためです。ただ直接の原因はそうなのですが、根本的な問題があったと思います。それは変身するという行為によって「普通の女の子」らしく見せようようとしたという点です。見せようとしてのものだから、必然的に外見だけを真似することになります。さらに特別におこなうものなので。本当の姿ではないですし、いつまでも続けることができるものではないです。そのため、どうやっても結局は失敗する運命だったのです。
しかし失敗だったとはいえ、意味がなかったかといえば、けっしてそうではないと思います。あたるがラムを(ラムだと気づかなかったとはいえ)これほど意識したのははじめてのことだと思います。そうすると「きっかけ」としては充分な効果をあげたと言えるのではないでしょうか。そしてそれが次につながることとなるのです。
外見というのは、すべてをあらわしてはいないのだけど、きっかけ・入り口としては重要なものなのではないでしょうか。 |
(7)「君まてども …」(あたるはついにラムのことを…)
すぐ次の話で、さらにまた別のところから新たな展開を見せます。詳細は省きますが、あたるはクラスメートにだまされような感じになります。それに対してラムははじめは無視していましたが、やがてあたるのことが心配になってきます。「ダーリンいまごろ、
馬鹿にされてるっちゃ。」「バカなダーリン。 でも…」「でも うちはやっぱりダーリンが、
好きだっちゃ。」「ダーリンかわいそう」。本当にあたるが好きだから出てくるような言葉です。実はそういう言葉が出てくるのははじめてだと思います。
そしてあたるを助けに行きます。そして助けられたあたるは、「ラムってこんなにかわいかったのか……」と思うのです。
このかわいいという言葉は外見だけのことを言っているわけではないと思います。もちろん外見でそう思った面もあるでしょう。繰り返しになりますが、外見もきっかけとしては重要です。しかしやはりラムの行為が影響していると思います。自分を助けるために来てくれた、それも電撃のような力によってはなく、変装して現れるという機転のきいた方法で助けてくれたのです。この行為は前回とは違って、こういう姿を見せようとしておこなったのではありません。つまりはこういう面を持ち合わせていたことになります。そういったことがあたるにも伝わったのではないでしょうか。また、先ほど(あたるを助けに行こうとする時)の台詞を直接聞かずとも、その時の気持ちをも感じとれたのではないでしょうか。
そうなるとすると、ただこういう面もあることを知ったとうだけにとどまらない効果をも、もたらしたように思います。今までの行動は自分を困らせるためでは決してなく、彼女なりに自分のために一生懸命やっていたのではと思ったのではないでしょうか。そんなことに気付いたのなら、ラムのことを大切に思うようになるのは自然なことと思います。
そして、「もうちょっといっしょに歩こうよ。」と言い、ラムと手をつなぐのです。
もうこの時にはしのぶのことなどまったく頭になかったでしょう。つまりはしのぶよりラムラムのほうが一番大切な存在になった存在なのです。 |
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※1
考えられる理由としては、他のことに気をとられていた、当初はそれほど深刻に考えていなかった、おとなしくしていたほうが良いと考えていた、あたりが挙げられるでしょうか。後ろふたつは過去の経験からそう考えたのではないでしょうか。しかし今回は過去の例とは異なっていました。 |
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※2
わずか一コマに、さりげなく横向きで描くとは…。横向きなのははっきり見せないためだけでなく、ふたりだけの出来事ということも示しているのかも。留美子先生、油断ならないです。私の考えすぎかもしれないけれども。 |
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※3
面堂本人はどれくらいまで思って言ったのかわかりませんが、この言葉は大変意味深いです。この件についてはもう少し時間をください。 |
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