【1】初期状態(変化がおこる前の状態)のしのぶとあたるについての考察

まずは、初期のしのぶとあたるの状態についての考察を進めていきたいと思います。

 

(1)変化が起こる前(初期状態)とは

初期とはいわば(ラムという存在によって)ふたりの間に変化が起こり始める前の時期のことでしょう。しかし、その時期のことを考えるといっても意外に難しいです。なぜなら、その時期の描写自体が少ない※1 からです。(もっとも、変化がはじまっても急激に変わるわけではないので、それ以外の場面からも考えることは可能です。)

しかし、まったく初期の状態の描写がないわけではないので、それはしっかり押さえておく必要がありそうです。ただ、そこで問題になるのが、そもそも変化がおこりはじめたのはいつなのかということです。

まず考えられるのはラムが登場した時です。しかしこの段階ではまだそうとは言えないのではないでしょうか。この時の状況は後の状況とは違うような気がいたします。なぜなら、この時のラムはあくまで地球に侵略に来た宇宙人であり、倒すべき敵であったからです。敵だとはいえ、あたるに浮気心が出ているのはあきらかで、そのために変化がおこりはじめたという考えもあるかもしれません。しかし、この時のあたるは確かにグラマーな体に気を取られてはいますが、そのこと以外では敵だという意識を強く持っていて、それほどラムという女性にこだわったいるようには見えないのです。この程度のことなら、今までにもよくあったことのように思えます。しのぶもそのことに関してはそれほど危機感を持ってないように見えます。たしかにはじめに怒ってあたるを引っかいていましたが、激しいのはその時だけで、それならラム登場前である冒頭の出来事とほぼ同じようなものです。このようなことから、ラムが登場した時は変化がおこりはじめた時ではないと考えました。  ※2

次に考えられるのはあの第1話最後の、あたるの結婚発言をラムが自分にむけられたと勘違いしてしまった事件の時でしょう。これは一見、ふたりの間に変化をもたらすような大きな事件のように思えます。しかし、次の第2話「やさしい悪魔」ではまるで前回のことなどなかったかのようです。そのため、この時もまだ変化がおこりはじめた時ではない気がします。 ※3 
そこで出てくる考えが第3話「悲しき雨音」でラムと同居することになってしまった時です。この話以降いろいろなことが起きるわけで、この考えが一番良さそうに思えます。同居するというのは当然大きな出来事なわけで、この結論はいわば当然のことではあります。なんだか回り道をしてしまったようにも思えますが、あまりはっきりとは言われていないことでしたので、そのことを押さえた意味は大きいと思います。 

あと番外的に第83話「三つ子の魂、百までも!」がありますね。10年前の小学一年生のあたるとしのぶが出てきます。昔のあたるとしのぶを考えるうえで重要そうです。ただ当然今とまったく同じだと考えるのは良くないのでしょうけれども。

これで結論としたいところですが、ひとつ気になる話があります。それは第15話「いまだ浮上せず」です。この話はラムと同居をはじめてからしばらくたった後の話 ※4 にもかかわらず、ラムは登場しないばかりか、まったく意識されていないように感じられます。まだこの段階ではラムから離れると元通りになれたということなのでしょうか※5 。そういうわけなので、この話は変化前とはまったく同じ状態ではないもののそれに近い状態だというように考えたいと思います。

もちろんはじめのほうにも書いたように、変化がはじまっても急激に変わるわけではないので、考察の材料をこれらの話だけに限定する必要はないと思います。ただこれらの話を中心に考えようということです。

 

(2)初期状態のあたるの性格

変化前を考えるうえで気になるのがその時点でのあたるの性格です。極度の女好きで浮気性、懲りずにアホな行動をどんどんとするというあの有名な性格とは違うのでしょうか。私はあれほど極端なものではなかったかもしれないけれども、基本的には同じではないかと思います。まず、ああいう性格が急に出てくるとはとても思えません。そして、以前よりそうだったと何となく感じられます。例えば、最初の時(つまりは変化開始前)からラムのグラマーな体に気を取られて鬼ごっこを引き受けたり、カンニングにつらてラムを呼ぶことに同意するなどの軽率な行動をとったりしていました。また、第83話「三つ子の魂、百までも!」でわかるように、昔からたくさんの女の子に興味を持ち、声をかけたりしていたようにも感じられます。あたるの母の態度やアルバムでもそんな雰囲気です。その性格が極端になったということだけだと思います。 ※6

 

(3)重要事項――幼馴染

このあたりで、あたるとしのぶの仲を考えるうえで重要なことを押さえておきたいと思います。それはふたりは幼馴染 ※7 だということです。このことがふたりの関係に大きな影響を及ぼしているように思われます。

第83話「三つ子の魂、百までも!」等で見られるように、ふたりは小さな頃から仲が良さそうでした。それからいろいろなことがあったりしながらも、基本的にそういう状態が続いていたのでしょう。そのためにふたりいっしょにいることは当たり前のことで、もう生活の一部になっていたのではないでしょうか。

そのことは初期はもちろんのこと、「うる星やつら」のほぼ終わりまで重要なのではないかとも思います。いや、むしろ後期のほうが重要なのではないかとさえ思えてきます。くわしくは、その時の考察の時にしたいと思いますが、ここで少し触れておきました。

 

(4)初期状態のあたるとしのぶの状況

ふたりはかなり親密な仲だったと言えそうです。それは特に(1)で挙げた「かけめぐる青春」・「やさしい悪魔」・「いまだ浮上せず」の三話を見れば一目瞭然でしょう。

ふたりがいっしょにいる時は本当に仲良さそうです。なんだかいつも楽しそうな感じですし、ふたりの息もぴったりです。また、よくふたりきりになりたがり、頻繁に会っていたように感じられます。さらに、しのぶはよくあたるの家に来ているように思えます。ごく自然な感じであたるの家を訪れ、あたるの母もごく自然にしのぶに接しているからです。

そして、しのぶのあたるに重大な危機が訪れた時の心配のしようはすごいものでした。また逆にしのぶに何かあったとき、あたるはすぐに何らかの行動をとりました。

冒頭でいきなり「あんたなんか大嫌い !!」「絶交よ !!」なわけですが、このようなことははじめてのことではない(絶交したことはない、一時的にそういう状態になってもちゃんと修復された)と思われます。この時あたるはそれほどショックを受けていませんし、この後もしばらくはこの時と同じような大きな仲違いがあっても次の話の時には仲直りしているからです。おそらくこのようなことは頻繁にあったことなのでしょう。いつもけんかばかりしているけれども、そのことによって仲が壊れるようなことはなく、結局はもとどおりとなる仲で、いわばけんかはむしろ仲の良いことの裏返しといったところなのでしょう。このことは変化開始後もしばらくは続いたように思われます。

 

(5)ふたりは何をやっていたのか?

ふたりはよく会っていたことはわかりましたが、ではその時何をやっていたのでしょうか。ふたりがいっしょにいる場面が描かれていることは少ないので案外答えは出しにくいです。数少ない場面から考えてみると、特別にデートをするという感じではないような気がします。ふたりが一緒にいる時の場所は広場だったり、家だったりします。おそらく話をしたり、ゲームをしたり、外で遊んだりすることが多かったのではないでしょうか。

 

(6)ふたりの出会いと仲良くなったきっかけは?

ふたりが出会った時期は、すでに小学1年生の時には仲が良かったことから、少なくともそれ以前ということになります。私はあれほど仲良くなるまでには時間がかかるだろうから、はじめて出会ったのはさらにもう少し前だと思います。すぐに仲良くなれたのかもしれませんが…。

ふたりの家は近くではないような ※8 ので、出会ったのは、幼稚園もしくは保育園あたりの可能性が高いような気がします。公園等も考えられるのですが、家からの距離が気になってしまいます。

そうだとすると、他にもたくさん子供たちがいるだろうに、ふたりが仲良くなった理由が気になります。すぐに思いつくのは、あたるがしのぶに言い寄ることでしょう。あるいは、単にたまたま会うことが多かったという偶然の結果ということも考えられます。例えば、「三宅」(み)と「諸星」(も)で名前順が近かったため(学校等では名前順で並んだり班分けしたりすることが多い)などの理由です。

しかし、それらはきっかけとしては良いけれども、長続きした理由としては不充分ではないでしょうか。特に前者は、あのあたるのことを考えれば、しのぶだけに対してではないはずです。もちろん本当に好きになってからは離れても会いにいくでしょうが、そうなるには時間がかかるでしょう。後者にしてもずっと同じクラスというもちょっと考えにくいです。 漫画ではありえると言ってしまえば、それまでですけれども…。

しのぶが一番良くて、会いに行くことが多かったというのは充分考えられます。しかしそれだけではあれほど仲良くなるには不足な気がします。特にしのぶが近くにいない時はその場にいる他の女の子に興味が移るはずです。他にかわいい女の子がいなかったのでしょうか。たしかにラム登場後に次々と美女が現れるようになった感じなので、可能性がないとは言い切れません。しかしまったくいなかったというのはちょっと変に思います。どんな状態でも見つけてしまうのがあたるではないでしょうか。

そこで考えついたのが、しのぶのほうがあたるに熱心になってしまったのではないかということです 。(もちろんはじめはあたるのほうからで、今問題にしているのは次の段階のことです。それと、この段階ではまだ恋愛感情を持ったというわけではないです。あくまで幼馴染になった理由についてです。)

「しのぶのほうからあのあたるに…」とは考えにくいことで、異論もあるでしょうが、案外ありえるのではと個人的には思っています。あたるはたしかにすぐに女性に興味を持つけれども、いや、むしろだからこそ、ひとりの女性に関わり続けるには女性のほうから関わっていかないと駄目な気がします。そうでないとすぐに他の女性に目移りしてしまうでしょう。(後のラムの時などその典型的なものでしょう。)また、例の第83話「三つ子の魂、百までも!」では、ドロップであたるをひきとめようとするなど、実際にしのぶのほうからあたるのほうに関わっていっている場面が見られます。

それでは、なぜしのぶはあたるに自分から関わるようになったのでしょうか。諸星あたるには良くないところがある一方で、さまざまな魅力があります。なにかあたるの良いところ、カッコいいところに触れる大きな出来事があったのではないかと想像したりします。

ただ子供のことなので、カッコいいところよりも面白い面に触れたというのが一番ありえそうな気がします。一緒にいて楽しいというか、いっしょに遊ぶのがすごく面白かったのではなかろうかと思います。あたるは遊びの天才みたいな感じだったのではないかと思います。なにしろ高校生になってもゲームを必死にやったり、テンと本気で同じように遊ぶ?ことができる人ですから。

また、あたるの行動が面白くて、気になる存在だったのかもしれません。

 

(7)恋愛感情は?

最後にまたひとつ問題がありました。それはふたりの恋愛感情についてです。今まで考えてきたもの、特に(5)を見ていくと、しのぶとあたるの仲はすごく仲の良い友達のようなもので、あまり恋愛の関係ではないように思えてきます。このことは考え出すと愛・恋とはどういうものかという問題にまで発展し、そうなると私では完全にお手上げで、あまり答えらないですが、私は一応、“恋愛”ではあると思います。(4)で触れたような、結婚を口にしたり、相手に危機が訪れた時の心配する様子、相手に会おうとする時の様子、ふたりが会っている時の様子などを見ると、友達の状態を超えていて、恋愛ではないかと思えます 。友達でも親友と言われるような深い仲だと、やはり凄く心配したり、必死になって会おうとしたりしようとするでしょうが、その時の様子は友達のそれとは少し違う気がします。これにいったては完全になんとなくという印象の問題で、根拠はないのですが…。なお、ふたりとも初期状態では恋愛感情だと意識しているようにも見えます。ちなみにその恋愛感情はやはりお互いに初恋であったと思われます。

もっとも、ちょっと特殊な恋愛ではあると思います。(6)で見たようにふたりは小さい時に知り合い、一緒に遊ぶようになりました。その頃は、まだ恋愛などではなかったはずです。それからいろいろなことがあったのでしょうが、基本的にはずっと一緒に遊んだりすることが多かったと思われます。そのように一緒にいることが多い状態で過ごすうちに、だんだんとふたりの仲が深まっていったのではないでしょうか ※9。そしてそうこうするうちに、何か特別なことがあったり、急速に変化がおこったわけではなく、そのまま自然に“初期にみられるような状態”にまでなっていったのではないかと思います ※10 。そういうふうに幼馴染からそのまま恋愛に発展した感じなために、この(7)の冒頭のようなことになったのではないでしょうか。(ただ、このあたりのことが、ふたりが結ばれなかった大きな理由のひとつではないかと思ったりします。)

 

 

※1
 過去のことがあまり描かれていないのは、あたるやしのぶだけに限らないですね。ラムに関しても特にレイとの仲などはそうですし…。
 それは普通に考えれば単にわざわざ描く必要がなかったからでしょう。ただ、「うる星やつら」ではそれほどではないかもしれないですが、留美子先生の他作品等ではもう少し描かれていても良いのではと思う時があります。そのため考えすぎだと思うのですが、意図的にあいまいな部分を残しているではないかとさえ思ってしまいます。
 意図的かどうかはともかく、そのことによりいろいろと想像をする余地が出ているのは確かだと思います。実際にアニメなどでは、そのために付け加えの部分が多くできることになっているように思えます。変な間違い・誤解釈や人による考えの違いも出てきますが、それもまた作品の幅を広げる効果をもたらしていると言えるかもしれません。

 

※2
 複雑になりそうなので本文では触れませんでしたが、むしろ危機が生じることにより、仲をより深める方向の変化をもたらした可能性があります。しのぶにあたるを心配する気持ちが現れ、そのために結婚の約束までしてしまいます。それに応えてあたるにも心情の変化があったはずです。
 そうだとすると、これが変化のはじまりだという考えもありえます。しかし、私はあまりそういうふうには考えませんでした。なぜなら、今考えている変化とは方向が逆ですし、強まったということなので、特に変わったということにはならないと思ったからです。もともと想う気持ちがなければそのようにはならないはずです。
 とはいえ、本当はもう少し考える必要があるのかもしれません。なにしろこのことはいわば恋愛のはじまりという重大なことです。本文(7)で書いたことと大きく関わっていることでしょうし、その他いろいろなことに関わっている気もします。また、ここで仲が深まった(恋愛がはじまった?)がために、落差が大きくなったととも考えられます。
 しかし、現段階の私ではあまりそのことについて考えられそうにないです。そのため、将来の課題にさせていただきます。

 

※3
 この件もややこしくなってしまいそうだったため、本文ではあえて簡単に済まさせていただきました。あたるとラムの関係にとって重大な事件なのは間違いないですが、あたるとしのぶの間ではどうなのでしょうか。それにはこの事件の解釈も関わってきそうです。ラムが自分へのプロポーズと勘違いしたということは間違いないでしょうが、しのぶはどうだったのでしょうか。しのぶもあたるがラムにもプロポーズしたと誤解したようにも見えるし、ラムの勘違いとはわかっていたけどあたるがラムを抱いたままだったことに対して怒ったようにも見えます。
 この事件はたいしたことではないとするなら、よくある“浮気”のひとつだったということになりそうです。しかしそうすると、今度は逆にあたるとしのぶの結婚の約束はどうなったかが気になります。ひとつ考えられるのが、よりによって結婚の約束をした時に他の女性に“浮気”したので、しのぶが怒って結婚の約束は破棄になったのではないかということです。そうなるとこのことはやっぱり大きな事件ということになってしまいそうです。やはり「変化がおこりはじめた時ではない」としたのは早計だったでしょうか。しかし次の話を見ると何もなかったかのような状態なのは間違いなさそうです。
 この件はやっぱり難しくて現段階の私ではお手上げです。

 

※4
 必ずしも起こった順番どおりに漫画が掲載されたと決まっているわけではないので、実はラムと同居をはじめる前という考え方もありえます。しかし、この話ではひさしぶりにふたりきりになれたというような感じなのでラム同居以後と考えるのが普通ではないでしょうか。

 

※5
 このことも本当はそう言い切るには迷いがあります。やはり表には現れなくてもラムの影響が何らかの形であるかもしれません。しかし、本文ではラムをまったく意識していない雰囲気であることを重視しました。
 ただ、ひさしぶりにふたりきりになれたことによって(ラムがいるためにひさしぶりになってしまったわけですね)、普通よりは仲良くなりすぎな状態になっているとは言えるかもしれません。その意味では、少し割り引いて考えるべきかもしれません。
 ※2と関連してもいそうです。

 

※6
 もっとも、極端になったということでも結構な変化であって、性格が変わったと言っても良いという考え方もありえるかもしれません。どれくらい極端になったかなど、もっと考える必要があるのかもしれません。

 

※7
 漫画・アニメ等では主人公の幼馴染という女性ってよくいますね(昔の作品の話で、今では古い話な気もしますが…)。しかもその場合、私の知る限りでは最終的には結ばれることが多い気がします。(ただ、現実ではこれもまた私が知る限りのことですが、あまり耳にしないのですが…。)とても私ではできそうにないですが、それらと比較するのも面白い気がします。

 

※8
 引っ越しをして、引っ越しをする前には家が近かったという可能性もあるかもしれません。アニメでは実際に引っ越しをしていました(第51話「ラムちゃんの男のコ教育講座」)し。しかしどうも親の態度から昔は近所に住んでいたというわけでもないように感じます。諸星家と三宅家では環境も違いそうですし。これもなんとなくで、根拠があるわけではないのですが。

 

※9
 これを言い換えれば、そこまで愛情が深まった一番の理由は長い間一緒に過ごしたためということですね。長く一緒に過ごしているうちに愛情が深まったのは、ここでは詳しくは触れませんが、ふたりの性格も影響している気がします。ふたりとも相手から特別なことをされると、それに強く応えて、ますますその相手のことを気にするようになる面を他のひとよりも多く持っている気がします。(詳しく見ればふたりでは微妙に違うだろうけれども基本的にはそうだと思います。)いちいち挙げるのは大変なのでしませんが、後の場面のいろいろなところでそう思えます。そのことが影響しているのではないかと思うわけです。

 

※10
 ここも本文では何か特別なことがあったわけではないと書きましたが、正確には一歩手前まではそのとおりだけれども、最後の一押しをしたのはラム登場という“特別な”事件な気もします。そうなるとこれも※2と関連していますね…。

 

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