誰もが気付いているのか、いないのか。考えてみれば『鍵』を握っているのはいつも自分。もしも、私が貴女の手を離してしまわなければ、全ては始まらなかっただろうか。

 まだ秋に差し掛かったばかりだというのに、身体を襲う熱はシレジアの真冬のように極寒なのは、自分の腹から手が生えているからで。
その手に見覚えが、、、、、あった。

「苦しい思いをさせたな」
違う。過去形ではない。現に今も自分は彼女を救えずにいるではないか。何処かからそう内なる声が聞こえたのには耳を塞ぎ、自分を貫いている光の手を両手でそっと包み込む。瞬間、手が赤く輝いて炎を生み出したのは、まさか自分が凍えるのを気遣ってくれたわけでもあるまいが。肉の焼ける臭いが、ともすれば眠ってしまいそうになる自分を程良く刺激していて、ありがたい。



「どこから話たものか・・・・。17、いや18年前か、とにかく私は国を追われ伯母とともに落ち延びた道程で、セリスの父親に助けられた。そこで、彼の軍に匿われていたのだ」
そう、そして自分はその中で一人の女性に心引かれた。手の届かない、もうどうしようもないひと。だが、それを頭で理解はしていても、受け入れられるかどうかと言われれば、それはまた別の話で。した事と言えば、彼も彼女も厄介者扱いして私を適当にあしらわないのをいいことに、邪魔をする事だけだった。それはあの当時としては仕方の無いことだと、今でもそう思うし実際、
「僕は、もう子供じゃない、だから僕を見て!」
と叫んでみても一体どれ程の効果があったろう。
だから城で、外を見ては「シグルド様」と呟く彼女に何も出来ず、ただただ彼女にとっては私は何処までも子供と思い知らされて、掴みかけていた彼女の手を思わず手放した。

もしも、私が貴女の手を離してしまわなければ、全ては始まらなかったろうか。



「正直、お前と出会って私は揺れ続けていた。お前に惹かれていく私、彼女に重ねているのではないか、そう考えて考えつずけて、私がやったことと言えば、あの時と同じ・・・その手をまた───」
私がもっと貴女の手をしっかり掴んでいれば、全ては上手くいったろうか。彼女の眼差しを正面から受け止めて、穴が空くほど自分の心を見つめていれば、こんな事にはならなかったろうか。彼女を愛していると、そう告げてしまえば全ては上手くいったのだろうか。感覚すらない腕は、もう炭化していて全ては終わりなのだろうから、せめて貴女を取り戻す為に、全てを悔いなくやり遂げよう。

「ユリア───、君を君だけを愛している────、出会った時からずっと────」

ああ、また。私は貴女の手を掴んでそして放してしまう。だけど、貴女の為の未来だけは取り返すことが出来たとそう信じられるから、だからもう全ては心配いらないだろうか、たとえ自分の手からは守る力が消え失せても。           

「シャナン様?な・・・んで?シャナン?しゃなん?いやぁ、いやぁぁぁぁ────────」





私が紡ぐ、凍れる時、解き放つ魔法は、何故かいつも誰かの嘆き──────だけど、今度だけは、全てを終わりにできるから、だからもう、大丈夫──。










あとがき  さよおなら、自分。                             
       彼岸花   ヒガンバナ科多年草                    
              原産地 日本・中国                     
              花期 初秋                          
              別名 まんじゅしゃげ                    



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