その花の美しさを一言でいうのはなんとも難しいと思う。
あの大陸にいるときはそれはそうそうお目にかかれるものではなかったから、なおさらそう思うのだろう。はしっと肩にひっついた花びらを手にとって風の旅人は呟いた。
そうか─────、お前も逝ったか、───ス。



低く響く鐘の中、静まり返る街と人々。寝台に縋り付いて泣きじゃくっているであろう銀髪の妹。別に、見てきたわけではないが目を瞑れば想像はついた。活気のある希望に溢れた街だと、どうにもならない差もあるが、偏見や迫害といったこともなく概ね平和で、快適な世界が広がっていると。そう風が教えてくれた。



ならば、彼もまた幸せだったのだろうか。この花の────、桜のような男だったなと覚えている、その彼。桜を見るとどうしても桜の妖艶さとか、「桜の木の下には死体が埋まっている」とかいった話が自分の道もまた血塗られていることを否応なく思い出させるから嫌いだと。自分が人の血の上にあるを忘れてはいけないが、それを見せ続けられるのはやはり苦痛で、忘れてしまいたいことも時にはあると、母親似のあどけなさの残る顔を曇らせてそう語っていたことも覚えている。思い出せば、彼が自覚をしてからというもの優しくしてやった記憶がないような気もする。まあ、もう、・・・・・・どうにも手遅れだが。
風になって貴男を抱きしめたいと言えば、少年は笑っただろうか。



自分に出来るのはもう祈ることばかりだから、彼の眠りの為に祈ろう。再生の歓びの中で、少年が兄と少女に出逢えるように。旅人はしばらくの間、考え込むように固まっていたが、やがて風にのせて想いを紡いだ。



春はきぬ  春はきぬ

風よ雲よ遙かな国へそそぎいで

凍れる英霊をあたためよ

春の香おくる春風よ

輪廻なるとき抱きいて

眠れる大地を吹きさませ





それはまた出逢う彼らの為の心優しき桜色の風。         











あとがき    この散華はこれでおしまいです。なんでこの3人かと
         言われればやっぱり好きだからでしょう。最後のうたは
         島崎藤村「春の歌」を一部、都合よくリファインした
         ものです。(著作権消滅(死後50年)作家の欄を見て
         いたら偶然、都合のいい唄があったので・・・がふっ)                  
         
         
         作中で輪廻とか言っていますが俺自身は、神も仏も
         輪廻も死後の世界も信じていませんし、
         考えてもいません。そんなこと考える暇があるなら
         もっと毎日の目の前の生活のことを考えたい
         と思うので。ただ二次創作上の彼らには・・・ね。  


         桜   薔薇科落葉高樹                       
             原産地 北半球温帯〜暖帯                 
             花期 春                            
             花言葉 精神美 優れた美人