6.葬儀で最低限必要なものは・・・・・ 棺桶と骨壷のみ

お葬式にかかる平均的費用は、平成8年の読売テレビによる調査では、東京都平均381万円、全国平 均204万円であるのに対して、首相の諮問機関である物価安定政策会議の報告では、米国37万円、 英国12万円、ドイツ19万円、そして日本と同じ儒教思想に基づく魂魄思想の国、韓国でさえも37 万円である。

アジアを除く欧米では、精神と肉体を区別して考え、死亡した肉体に対する惜別の情は、儒教国アジア に比べて希薄であることを認容しても、日本の葬儀費用は格段に高い。
これは、葬儀業者任せのお仕着せの葬儀に、余りにも無関心であり、葬儀業界を特別な業界として、 一般日常社会に対するような、経済視野で眺めずに推移した結果である。
日本は、欧米とは死生観が異なり、遺族の遺体に対する最後の愛情表現として“遺体をきれいに見せ たい”という美化意識と、対外的に体裁を保つ見栄意識の相乗した日本式葬儀とは言え、諸外国に比べ 非常に高い葬儀費用になっている。

これは、現在でも大部分の葬儀社が、祭壇料金(基本葬祭料)の明細を公表したがらず、一式いくらの 価格表示で、細かくその用具とサービスを明示していないことに拠るところが大きい。生前に2〜3の葬儀社から相見積もりを取って検討しておくことも必要であろう。
火葬場における火葬料金は、全国どこでも1万円〜1万5000円で、それほど大差がないのである。
サービスに対する対価は勿論必要なものである。
しかし、葬儀の構成を各項目別に明示し、それぞれの項目に対し、サービス内容とその対価を明示して、 その選択をお客様に任せる、価格体系の表示が必要とされている。

第一、葬儀を執り行う上で最低限必要なものは、火葬前の入れ物としての「棺桶」と、火葬後の入れ物 としての「骨壷」のみである。
この二つは最低限必要で、その他は全て装飾品としての付属品で、無くても葬式を行なうことができる。
勿論、遺体の納棺には、永年の経験と技術が必要であリ、それは技術料として衆目の認めるところであ るが、その価格を明示せず、一式いくらの祭壇料として不明瞭に計上するところが、今日でも多い。

「棺」は、昔から“桶”と言われる通り木製品が主流で、重さは約30キロである。
年間の葬儀で使用される「棺」の量は3万トンと言われ、縦に一列に並べると、長さは北海道から沖縄 にまで達する。
即ち、葬儀業界ではそれだけの木材を使用し、焼却していることになる。
厚生省が、2036年には、死亡者が現在の2倍近くになると予想していることは、使用される木材も 現在の2倍近くになることを意味し、森林伐採による酸性雨、地球温暖化等、地球環境は更に悪化する の方向に作用する。

「棺」は白木の木製が大部分で、昨今は、ダンボール製のものも出現しているが、一般白木品で5万円 以上、布製で20万円以上、極上製で100万円以上と言われ、価格は葬儀社によりまちまちで、統一 されていない。
エンバーミング科学研究所の伊藤 茂氏の話では、燃焼試験を行なってダイオキシン等有害ガスが発生 しないことを証明し、間伐材等のリサイクル材を使用している棺メーカは、現在1社ある(1社しかな い)とのことで、今後は、企業単位での考えではなく、地球規模で環境問題を捉えていくことが次世代 への責務であると述べている。
即ち、「棺」の問題には、森林伐採による地球環境問題と、燃焼時発生の有害ガスによる生活環境問題 の二つの問題が内在することを、棺の使用者である葬儀社と、棺の購買者である市民が、共に認識する 責務があると言える。

葬儀はまた、その性格上、地域社会に根差した地場産業の一面を持つ。
その地域独自の習慣・風習による要素も強く、従って、地域毎の閉鎖性に固執する傾向が強いが、世は まさに情報化社会である。‘情報は広く世界に求め、実行は地域に基づいて行なう’時代へと移行して おり、かたくなに地域性を隠れ蓑にすることは通用しなくなっている。
  また、葬儀はその性格上、マスコミでは取り上げられにくい題材ではあるが、その分、口コミでは取り 上げられやすい題材であり、いい葬儀は口コミで広がるため、口コミの重要性をもっと認識すべきであ る。

なお、全国の死亡人口は、毎年3万人の増加傾向にあり、従って、葬儀件数は増加傾向にあるが、一件 当たりの葬儀費用は減少傾向にある。即ち、葬儀件数X費用=横這い又は下降、を意味する。
(葬儀件数3万件増加して、葬儀費用一件3万円減少すれば、葬儀業界は実質的に下降)。

現在盛況の葬儀業界も、死亡人口がピークを迎える2036年を境に、確実に斜陽産業に転ずる。
平家物語に『祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり。おごれる者は久しからず、盛者必衰の理を表わ す。』とある。
いい「棺」と、いい「骨壷」と、そして、いい「祭壇」を選別して、オープン価格で、良心的誠意を以 って、地元に根差した葬儀社のみが、生き残ることになろう。



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