5.葬儀の環境的アプローチ・・・・共同墓(合祀墓)、樹木葬墓

昭和23年、『墓埋法』が制定され、墓以外のところに死体を埋葬又は埋蔵してはならない ことが定められたが、これは、みだりに死体を葬ることによる生活環境に対する配慮及び、 腐乱死体による衛生的考慮、の両側面での意義を併せ持つ。
その結果、火葬が浸透し、現在の日本では、98%以上が火葬による葬儀である。

火葬の浸透につれ葬祭業は発展し、1990年代に入って大きなビジネスマーケットへと成長した。 当初、葬祭業は「電話を待つ職種」であると言われたが、現在では、「働きかけによる職種」と して、こちらからマーケットリサーチを行なって積極的に受注活動を行なう職種に、変貌して きており、消費者の厳しい目に耐えられる、サービスを競争する時代に突入している。

「家」意識から開放された今日に於いて、高齢化社会の進む中、自分の葬儀を自分で演出して、 葬儀社のおしきせではなく、自分流の葬儀を行ないたいという希望が増えてきて、その費用も 預金や保険などで確保して、死亡による葬送の実行を自分の残した意志どおりに行なうために、 生前に葬儀社や葬送業組合(協会)と契約しておくという「生前予約」や「生前契約」の考え 方が普及してきた。
このことは、自分の葬儀を自分流に企画演出した「自分葬」を行いたいという意志の表現である。

「生前契約」に詳しい、大橋慶子・佐賀大学助教授の著書によると、米国では、この「生前契約」 の考え方は、今日、当たり前となっており、エンバーミング技術(消臭剤や消毒液等、薬品・化学 物質を用いて遺体を処置する技術)の確立により、'90年代に急速に普及した。
その裏には、米国では、フューネラルディレクター協会が権威をもってエンバーミング養成者 教育に力を入れており、資格試験制度のもと、葬送業開業者には有資格者が居ることを条件とし て、「生前契約」の普及と併せて、教育指導に力を入れているとのことである。

日本は、欧米と葬儀形態や習慣、遺体観及び宗教的儀礼が異なるため、また日本にはそれなりに、 湯灌・冷却保存・納棺技術があるため、欧米並みのエンバーミングがそのまま普及するのは難し いと考えられており、エンバーミング科学研究所の伊藤 茂氏は、“既存医学資格の業務範囲の 拡大にて対応できる限り、現状では、エンバーミングの国家資格は必要ない”と述べている。 氏はまた、専門的見地から、遺体からの感染が最も高いのは空気感染による結核であり、肝炎・ エイズ等は血液に接触した時に限られるため、結核に比べて防御しやすく、エンバーミング・ 湯灌・納棺・着付けの際の消毒には、両性界面活性剤による消毒が良いと勧めている。

最近は、全国各地で「生と死を考える会」が開かれ、「生」の終焉としての「死」について考え る人が増え、“遺骨を自然に還したい”と「自然葬」を希望して、遺骨を骨紛に粉砕して、海や 山に散布する「散骨」を行なう人も出てきている。(海の人7割、山の人3割)。
更に、「散骨」がお骨を生前ゆかりの海や山に散布して終わりとするのに対して、山林墓地に お骨を骨壷から出して埋め(骨壷は廃棄処分)、その上に植林することにより、森林伐採による 地球環境悪化防止に役立てようと企画する寺院も出現している。

たしかに、墓地に植林して環境保全を試みる発想は、環境意識が一歩進んだことを意味するもの であり、良い企画であるが、今までお骨が入っていた「骨壷」は無頓着に粉砕・廃棄している のは、残念ながら、片手落ちというものであろう。
そこで筆者らは、お骨を骨壷から空ける必要もなく、骨壷のまま地中に埋めて、骨壷が自然分 解して樹木の肥料となる『バイオ骨壷』を、樹木葬に勧めているところである。
情報化社会の21世紀にあって、寺院だけの既成枠内思考ではなく、広く他産業界からも情報を取り入れ、門戸の開けた寺院運営を期待したいものである。

このように、全国各地に、「生と死を考える会」、「いのちの会」、「自然葬(散骨)を考える会」、 「生前葬を契約する組織(組合)」等、いろいろな名称の葬送についての市民団体が活動を開始して おり、葬儀業界もこれらの市民ニーズに対応した、商業主義に偏らない、市民に開かれた対応が求め られている。

一方、火葬率が98%以上に達する斎場(火葬場)の大気汚染も環境問題化している。
厚生省所轄の(社)日本環境斎苑協会が98年春から、火葬場における汚染調査を実施しており、 火葬の普及とともに全国各地に建設された8,500ヶ所の火葬場のうち、合格とされる1,920ヶ所が 現在稼動している。
大気汚染の元凶と言われるダイオキシンは、塩素系製品(塩化ビニール、プラスチック等)の焼却時に 発生するもので、ゴミ焼却場が主な発生源であるが、火葬場でも発生しており、棺・衣装・副葬品には 塩素系製品を使用しないことが義務付けられている。
なお、人体は60〜80%水分(若い人ほど水分が多い)で、塩素もかなり含んでいるが、イオン状 で存在するため無害である。
火葬温度を上げることにより、ダイオキシンの発生を少なくすることはできるが、高温にするとお骨 が粉になり、骨粉焼却灰が飛散して、灰の終末処理が困難を極めるため、通常800〜1000℃で焼却 が行なわれている。

厚生省の予測では、2000年に年間100万人を突破する全国の死亡人口が、ピーク時の2036年 には176万人に達するとしており、現有火葬炉のままでは、死亡人口が増える分、単純に、発生ダイオ キシン量も増えることを意味し、地球環境は更に悪化するものと考えられる。

このように、葬儀環境には、葬儀業界の体質改善と地方自治体の火葬行政の両面で、大きな課題が 残されており、葬儀業界、地方行政一体となった葬送の改革が必要な段階に入った。



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