―――ドアが鳴る。

その音に読んでいた本から目を外してドアを見る。正確にはドアを開けて入ってきた人を。

切れ長のキツイ印象を与えてしまう目と私の目があうと、綺麗な顔をほころばせる。それに私も笑みで返す。―――いつものように。

少し下に視線を向けると彼女は落ち着いた色合いの制服のままだった。

きっと家に帰って来て着替える時間を惜しんで、すぐにこの部屋に来てくれたのだろう。

こんな所がたまらなく嬉しい。―――これもいつもの事。

 

ドアを閉めて私のいるベッドに近付いてくる。

私に近付いて自分の髪と私の髪を手でかきあげて、額と額をあわせてくる。彼女の顔が数cmの間隔しか空けずにある。

「・・・・ん。ちゃんと下がってるわね。」

額と手を離して安堵の表情を浮かべる。

なにも表情を浮かべてなくても綺麗だけど、微笑んだだけでこんなに魅力的になる。

少し胸の鼓動が速くなった気がする。

それはそうと、私は朝には熱を出して寝込んでいた。私の看病をしたがっていたけど、そうそう私の為に休ませるわけにはいかない。

彼女には彼女の学校生活があるから、今日は学校に行ってもらった。

「でも・・・いくら熱が下がったって言っても、熱をだした日ぐらいはゆっくり休養しないと。」

ベッドに腰掛けながら少し眉間しわを寄せて『少し怒ってます』っていう顔をして見せる。

「大丈夫、いつもの事だし。それに折角熱も下がったのに何も出来ないなんて退屈だもん。」

昔から私は体が弱かった。だから度々学校を休んでるし、

昼間は両親ともに働いてるから私の世話をしてくれるのは、目の前にいるお姉ちゃんだけ。

たった二人しかいないからって寂しいとは思った事はそんなにない。だってお姉ちゃんが傍に居てくれるから。

 

「それじゃ着替えてくるわね。」

さすがにいつまでも制服のままでいるわけにはいかないから、少し着替えてくる事にした。

瑠美(目の前にいる妹の事ね)は少し寂しそうな顔をしてるけど、少しの時間なんだから我慢して欲しい。

あっ。立とうとしたら手を掴まれて振り返ってみたら・・・・・・泣きそうになってる・・・・。

「私を・・・置いて・・・・いくの・・・・?」

なんか・・・・こういう風に言われちゃうと罪悪感が・・・。悪い事はしてないのに・・・。って、置いていくって人聞きの悪い言い方ね。

それにしても、瑠美ったら計算してこんな事やってるのかしら?そうだとしたら・・・・将来が怖いわ・・・。

・・・・って、こんな風に考え事をしてたら掴まれてた手を思いっきり引っ張られた。そのまま体はベッドの上に横たわってしまう。

突然の事に目を白黒させてる間に、瑠美が私の上に四つん這いに乗る。

「瑠、瑠美・・・?」

私の言葉にただ俗に言う、小悪魔的な笑いを返してくるばかり。

 

「瑠、瑠美・・・?」

ふふっ、さすがに驚いてる♪

何が起こったのかわからないご様子で、しきりに瞬きを繰り返してる。

そんなお姉ちゃんの可愛い様子を見てたらついつい表情が緩んじゃう。

あっ、どうやらちょっと警戒してるみたい。そうやって警戒されちゃうと・・・余計に何か期待に応えなきゃって思っちゃうのよね♪

さぁて、どうやって料理しよっかなぁ〜♪・・・って、やっぱり表情にでてるのね。

・・・・だってね、少し表情が引きつってるんだもん・・・。

けど、いくら私に原因があってもこういった顔をされるとちょっとショックかも・・・。


「ふぁっ!?」

ちょっと考えていたら背中と頭に手を回されてきゅって抱きしめられた。

頭はお姉ちゃんの胸の所にある。ちょっと息がしづらいけど、我慢できないほどじゃあない。

突然でビックリしたけど、こうやって抱きしめられると・・・・なんだか落ち着く・・・。

私だけが抱きしめられているのもどうかなっておもって、お姉ちゃんの背中に手を回す。

でも・・・落ち着きすぎて・・・・ちょっと眠くなって・・・きちゃった・・・・。

 

私は瑠美のこういった表情に弱い。弱いというよりは甘いと言ったほうが適切かもしれない。

その事は自覚している。だけど、私には瑠美を突っぱねたりは出来ない。

それに瑠美の悲しんでたり、寂しがってる顔は私はあまり見たくない。

いくら体が弱いからと言って、心まで弱い子じゃないかったから悲しい顔なんて滅多に見せなかった。

・・・・・・・・・最近はそんな表情がちょっと多くなってきてるけど・・・・。

だから瑠美の悲しい顔とかを見たりすると、条件反射で抱きしめたりしてしまう。

それにしても・・・いつもながら瑠美って柔らかくて、抱いてて気持ち良いわね・・・。

「・・・・すー・・・すー・・・・。」

「あら?・・・眠っちゃってる・・・。」

なんだか幸せそうな顔をしてるわ・・・なんだか眺めてるだけでも楽しい。

いつまでも瑠美が上に乗ってると疲れてくるので、横に移動させた。

それで服でも着替えて来ようかと思ったんだけど、手が背中に回されてて、それが外せそうにない。

「スカートに皺が出来ちゃうんだけど・・・仕方がないか。」

このままだとやっぱり少し疲れちゃうから、私も瑠美の背中に手を回す事にした。・・・まぁ、抱き合うという事ね。

抱き合ったついでに髪でも撫でていよう。

手櫛を入れればさらさらと指先から零れ落ちる瑠美の長い髪。

瑠美がこの髪を短く切ろうとするたびに、「もったいない」って言って腰に届くまで伸ばさせた。

雨の日やお風呂の時なんかは髪が水を吸って重くなって大変そうにしているけど、私にしてみればさらさらな髪は羨ましい。

けど瑠美は私の巻き毛のほうが良いって言う。ふわふわした感じが好きって。

私はさらさらなほうが好きなんだけど・・・だって、こうやって手で梳いた時の指先から抜ける時なんかの手触りといったら、

気持ちがよくってついつい気がついたら撫でてしまってる時もある。

そんなときは、ぴたってくっついてきて、なかなか離れようとしない。

私がリビングのソファーに座って、テレビを見てたりすると、私の太ももに頭を乗せてきたりもする。

要するに、寂しがり屋なのね。

―――トントン。

部屋がノックされ、少し間があってドアが開いた。

「瑠美ちゃん、起きてる?・・・って、あらあら〜♪」

顔を覗かせたのはいつ帰って来たのか、私達のお母さんだった。

服装を見る限り、どうやら帰って来たばかりみたい。で、なんでそんなに嬉しそうなのかしら?

「姉妹でいけない事の真っ最中? ということはお母さんお邪魔だったわねぇ〜♪」

頬に手を当てて、今夜はお赤飯かしらなどと笑っている。―――絶対楽しんでる。

「この状況の何処をどう見てそんな事思いつくの?」

今にもドアを閉めそうなお母さんにジト目で言葉を投げつける。すると人差し指をあごに当てて思案顔になり、

「そうねぇ〜、いい年した娘が恋人の一人も作らないでこうやって抱き合ってる所から、かな?」

と、笑顔で言い放った。

「ただこんな形になってるだけで、どうしてそこまで話が飛躍するの?
 ・・・それに女子高でどうやって恋人を作れというの?」

私もここで負けるわけにはいかないので(なにに?)笑顔で返す。・・・・けど、まさかこんな風に返されるとは・・・。

「あら、お母さんは『男の恋人』とは言ってないわよ?」

―――一切の思考能力停止。

けど私のそんな状況をよそに勝手に話を進めていく。

「お母さんはただ娘が幸せならそれで良いの。たとえ同性を好きになったとしてもっ!
 だからあなたの好きなように生きればいいのよ?
 あっ!もしお父さんの事を気にしているなら、大丈夫よ?お父さんは私がねじ伏せておくから。」

笑顔で恐ろしいことをさらりと言ってのける。

「だからっ!なんでそんな話しになるのよっ!それに実の姉妹だって事を忘れてないっ!?」

これ以上喋らせると怖いので、とにかく何かを口にした。

当然、体は瑠美にしっかりと抱かれているのでそのままの状態で、顔だけを向けて。

・・・・なんか誤解招きそうな言葉を口走ったかもしれないけど。

「あら―――」

案の定、お母さんは呆けた顔をしている。一体何を言ってるの?って感じに。

「―――子供を産むわけじゃないから、そんな事気にしなくても大丈夫よ?」

・・・・・・・この人には敵わない・・・・・。

「・・・んぅ〜・・・・むぅ・・・」

私のすぐ横で瑠美が身動ぎをする。

「あらあら、起きちゃったかしら?」

あれだけ騒いでいたら大体の人は起きちゃうでしょう。

「ん〜・・・・おはよう、お姉ちゃんっ。」

目を少し擦って私の顔を見たかと思うと、私を抱きしめる手に力を込め、私の胸に顔を埋める。

そのついでに、体の位置を横から私の上へと移動させる。

そしてまた私の顔を見てにこやかに笑うと何を思ったかこう言い放った。

「お姉ちゃんの『はじめて』ちょうだいね♪」

―――静寂。

「あらまぁ、瑠美ちゃんってば大胆ねぇ〜。お母さん、その様子をビデオに撮っちゃっても良いかしら?」

よくないですっ!と答える前に瑠美に口を唇で塞がれかけた。かけたというのは今、手でガードしてるから。

ん〜ん〜唸ってるけどとりあえず無視。

「なんでそんなコトをビデオに撮ろうとするのよっ!おかしいと思わないのっ!?」

「えぇ、思わないわ。」

・・・・きっぱりと笑顔で即答。

「それにこんなコトを写したホームビデオなんて・・・」

「そんなの写す人間がいるかっ!」

言葉が乱れに乱れて・・・なんか無性にかなしいのは気のせいかしら・・・。

「だから私が撮ろうと思ってっ!」

妙に嬉しそうにビデオカメラを構える。文明の利器っていうのも問題があるかもしれない、なんてちょこっと思ってみたり。

「思わなくていいですっ!」

すると、よよよと着物を着ていないくせに着物の袖を目元に持っていって拭う真似をして泣き崩れた。

「わたくしはただ我が子の可愛らしい姿を残そうと思っただけですのに・・・
 なのに我が子はそれを拒んで・・・あぁ、わたくしはどうすれば・・・」

まるで舞台の上に立ってスポットライトを浴びて演技をしているかのように一字一句に感情を込めて肩を震わしている。

「大人しく着替えて、食事の準備をして下さい!」

怒鳴りながら、そういえばお母さんは昔、演劇部だったな、なんて頭の片隅で思い出していた。

「なんか、私の事忘れてない・・・?」

私の上で瑠美がポツリと呟いた。悪いけど・・・ちょっとの間だけ忘れてた。

「・・・ふぅ、瑠美ちゃん?」

演技状態から戻って来たお母さんが溜息をついてから瑠美を見た。

「せっかく私が注意を逸らしてあげたのに、チャンスを不意にするなんてダメよ?」

さすがの瑠美でもこれは返す言葉がないと思う。

「・・・・ごめんなさいっ、お母様っ!次は・・・次こそは必ずっ!!」

気がついたら私の上から退いて、土下座をしている。

その瑠美のそばに行って、顎を人差し指と親指で持って上に向かせて、顔を上げさせ、瑠美の両手を自分の両手でギュッと握り締めた。

「そう・・・頑張ってね。」

場面だけで見ると母と娘の愛情がこもった場面に見えるのかもしれないけど、言葉に隠された真意は・・・・考えるだけで恐い・・・・。

「だから・・・・お姉ちゃんの御飯には媚薬を入れてね♪」

「ち、ちょっと!?なんてこと頼んでるのよっ!?」

これってそんな小説なの!?(・・・・・私は知りません。)

知ってる知らないじゃなくて!(だって・・・これってあなた達の日常・・・。)

「もっちろん!ふんだんに入れておくから安心してね♪」

「本気っ!? 本気で入れるのっ!?
 だったら私、絶対に食べないからねっ!」

そんなのがはいったのなんか、いくらお腹が空いても絶対に食べたくない・・・。

「ふふふ、冗談よ。」

「そうそう、やだなぁ〜お姉ちゃん。」

二人して笑顔でそう言う。さっきまであんな会話をしていたから信用できないものだけど・・・。

「それじゃ、お母さんはご飯の支度でも始めようかしら。」

ぱたぱたと部屋を出ていく。なんとなく、部屋を出ていく背中が楽しそうに見えた。

「お母さんって、精神年齢が私達に近いような気がする。」

瑠美が呟いた言葉に私は縦に頷く。

外見も若く見えて、私達と並んでも3姉妹として充分通用するぐらい。

「今が遊びたい盛りなのかもね・・・。」

「・・・・そうかも。
 でもまぁ、とりあえずはさっきの続きでも・・・」

「続き?」

「そっ。こんなふうに・・・」

ゆっくりと瑠美の顔が近付いてくる。頭の後ろにも手が回されて固定される。

・・・・けど、そのまま大人しく受け入れる私じゃない。

身長は私のほうが高いので、瑠美の頭を私の胸の方へと持っていく。力も私のほうがあるんだから。

「む、むぐぅ・・・。」

腕も辛いだろうから、私の頭から外してあげた。私に対して主導権を取ろうっていうなら10年早いわね。

「よしよし、怖かったの? でも大丈夫よ、お姉ちゃんがちゃんといるからね〜。」

幼子に諭すような口調で話しかける。当然頭を撫でてあげるのは忘れない。

なにやら離れようと頑張ってるけど、ある種さっきの仕返しなのだからそう簡単に離してあげるわけがない。そしてふと思う。

―――私、何時になったら着替えれるのかしら・・・?―――


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