なんだか・・・冬に近付いているにしては少し暖かかった昨日とほぼ同じ気温（って天気予報がいっていた）なのに・・・なんだか寒い・・・。
風も強くないし・・・だけれどちょっと風が起きただけでも身体が過剰に反応する。
それに頭もボヤーってしてる感じがする。最初はただ寝起きだからかな、なんて思ってたけど、時間が経っても依然ボヤッとしてる。
むしろ学校に近付くにつれて・・・というより、時間が経つにつれてもっと酷くなってる・・・。
少し足元がフラフラしながらもこれは気のせいだ、って自分の体を誤魔化しながら校門をくぐった。
「おっはよー美奈津〜、ゴキゲンいかが〜？」
いかにも機嫌が良さそうな亜紀さんの声と共に背中を叩かれた。普段なら何とも無いような軽いスキンシップ。
「ち、ちょっと美奈津どうしたのよ、大丈夫っ？」
なのになんで亜紀さんはこんなに焦ったように話していて私の肩を掴んでいるのかしら？
「な〜んでちょっと叩いただけで倒れそうになるぐらいふらついてるのよっ？ ・・・ん？ そーいやどことなく顔が赤いような・・・」
亜紀さんが私の額に手を置く。その手がひんやりとしていて少し気持ちがいい。
「うわ・・・。あーた、熱あるじゃないの。しかも結構高いとみた」
「やっぱり、ですか・・・」
額に置いていた手をもう一度肩に置きなおし、私を半回転させて正面に見据えて溜息をついた。
「やっぱりってわかってたんだったらな〜んでこんな無茶してるかなぁ？」
「ただ寝起きだからかなぁ〜・・・って思ってたんです」
「そんなのが１０分も２０分も続くか。で、親やお姉さん、妹はなにも言わなかったのかな？」
「え〜と・・・言ってなかったような・・・。あ、でも恵美はなにか言っていたような気が・・・」
恵美というのは私の妹の名前。その恵美が私が玄関で靴を履いてると、
わざわざ私の傍まで来て心配そうに「調子、悪いの？」なんて聞いてきて。
この妹は人の様子に敏感で気遣いの出来る子に育ったんだなぁ、なんてちょっと嬉しくなったり。
でも平気、なんて答えちゃった。・・・なんでそうまでして来ようとしてるのかわからないけど、休みたくなかった。
「・・・なにニヤニヤしているのかな？」
考えてる事が顔に出てたみたい・・・亜紀さんがジト目でおかしな奴、とでも言いたそうに見てる。少し反省。
「なんだかさ、立って息してるだけでもツラそうに見えるんだけど・・・大丈夫？」
今度は心配そうな目をして気遣ってくれる。結局のところ私の周りにいる人は優しいんですね。
「・・・大丈夫です」
ここは恵美に言ったみたいに少し強がることに。軽く微笑んで大丈夫だって事を強調する。
「あ〜・・・美奈津、ウソは良くないよ。逆にね、こういう時はツライならツライ、って言ってくれたほうがこっちとしては嬉しいんだ。
・・・それに自分では気付いてないかもしれないけどね、一呼吸一呼吸がとてもツラそうにしてる。
眉間にも少しシワがよってるしね。だからとても大丈夫そうには見えない」
・・・だめだったみたいですね・・・。私、そんなにツラそうにしてるのかしら・・・？
だったら、美恵も気付いていたのかな・・・？
「で、実際の所はどうなのかな？」
「・・・立ってるのも結構辛いです」
「そっか・・・とりあえず・・・家に帰りなさいって言うのがベストなんだけどなぁ〜」
少し困った顔をして頬をかく。確かに家に帰って大人しくしてるのが良いのかもしれない。・・・けど。
「・・・せっかく、ここまで来ましたし・・・」
「はぁ・・・そーゆーと思ったよ・・・。まぁ、帰りたくない理由も大体見当がつくんだけどね」
私が帰りたくない理由、亜紀さんはわかってる・・・？ 私はわからないのに・・・？
「む？ まさか美奈津はわかってないの？ 自分が帰りたくない理由」
・・・はい、まさにそのとおりです。言葉にはしないで頷いて意思表示。
「うそ・・・信じられない・・・」
ぽかんって口を開けて呆然と私を見る。・・・そんなに驚かなくても・・・。
「熱で思考能力が低下してるのかな・・・？ ・・・うん、多分そうだな」
腕組みをして何度もうんうんって頷いて自分を納得させる亜紀さん。
そして何もなかったかのような顔で私に向き直る
「んじゃま、気休め程度に保健室にでも行きますか」
また私を半回転させて校舎に向かって押して歩く。でも・・・ここは生徒が必ず通る場所だから、
さっきまでのやりとりを見られてるかもしれない・・・。
現に前を歩く二人組は私達と同じクラスの子・・・少し振りかえって見えた顔は怪訝な表情をしている。
それはそうですよね・・・道の真ん中で立ち止まってたのですから。
キーンコーンカーンコーン。
「あちゃ〜、もうチャイム鳴っちゃったよ・・・１時間目ってなんだっけ？」
「たしか・・・体育・・・」
「うわ・・・美奈津、あんたってばなんて時に熱出してるのよ〜・・・」
そう言われても意識的に出せるようなものでもないですし・・・。・・・そういえば・・・。
「・・・こんな時間から保健室って開いてましたっけ・・・？」
「・・・え？」
慌てて私の肩から亜紀さんが手を離して鞄の中から生徒手帳を取り出してめくる。
生徒手帳には規則とかが書かれていて、保健室についても書かれていたはずだから・・・。
「・・・あぁ、あったあった。保健室は８時４５分から使用可、だって。
・・・・・・・美奈津、今なら間に合うっ。早く家に帰りなって！」
亜紀さんが振り返って向き直っていた私の肩をガクンガクンって思いっきり揺さぶる。
私・・・これでも病人・・・なんですけど・・・あぅ・・・気持ち悪い・・・。
「ほら、早くっ！早く帰るって言いなさいっ。今のあんたに体育なんて死にに行くようなものっ。
だから早く帰りなさいっ！さもないと・・・うふふふふ・・・。ってもう時間がないじゃないのよ〜っ！」
時間がないって気がついてさらに激しく揺する。・・・心配そうな表情とは裏腹に絶対面白がってるようにしか思えない・・・。
あ・・・もっと気持ち悪くなってきた・・・。
亜紀さん、そんなに私を揺さぶって楽しいですか・・・？