2000.07.11up
窓の開くとき (前編)
上郷 伊織
刀@刀@
一枚の紙片の中、半裸の僕がいた。
あの時の写真。
ほんの何週間か前、学校の先輩である
歓楽街を彷徨い歩き、水商売のお姉さん達に揉みくちゃにされ、着ている服がぼろぼろだった。
あの時、聖さんの知り合いの店でシャワーと服を借りてなかったら、僕はどうしていたんだろう?
聖さんこと、
もうそろそろ、大学受験の事などを考えなければいけないのに彼は未だに歓楽街でバイトをしている。
僕とはたいして仲が良い訳ではない。
僕は聖さんのことを殆ど知らないし、滅多に口を利くわけでもない。
ただ、僕の通っている修栄学院高等学校の中で彼はあまり評判が良くない。
名門私立の進学校では無理ない事かもしれない。
この間、聖さんと話して分かった事だが、聖さんは、時々僕の写真を盗み撮りしているらしい。
いま、僕の目の前にあるのも、その内の一枚で・・・・もっともこの時は、盗み撮りではなく、目の前で堂々と撮られてしまったのだが・・・・・・。
シャワーを借りた時、僕はジーンズの上になにも羽織らず、首にバスタオルを掛けただけの格好で聖さんの待つその店の従業員控え室のドアを開けた。
その瞬間、撮られたものだ。
僕の通っているところは男子校である。
修栄だけかもしれないが、そこではこういった写真が良く売れるらしい。
もちろん被写体によって、売れ行きが違うらしいが、どうも・・僕の写真は売れるらしい。
女の子がいない環境での代用というところだろうが、こんなやせっぽちのナマ白い男のセミヌードなどに金を払う者の気持ちは僕には解らない。
数日前に、この写真が評判がいいと聖さんから偶然聞いてはいたが、まさか僕自身が目にすることになろうとは、想像もしていなかった。
・・・・その写真の僕は事情を知らない人間が見れば、何も着ていないように見えるのかもしれない。・・・
刀@刀@
「あーあ、冴えないなー」
昼休み、教室の窓からグラウンドを眺め、盛大な溜息が一つ漏れた。
サッカーをしている一団の中に
話し掛けられれば無視するくせに、側にいなければいないで気になる。
「このところ絶不調だね、
クラスメイトの田中が話し掛けてくるのに僕は無言で相槌を打った。
あんなシュートいつもの要なら事も無げにカットしている筈なんだ。
「確か紫月がこの間休んだ頃からなんだよなー」
田中の詮索するような言葉に僕はギクリとしていた。
そのまま、聞こえない振りをする。
そして、窓の下に視線を泳がせた僕は「あ!」と声を上げた。
「あれ、あの、今、ボールを蹴った奴。知ってる?」
そして田中の肩をつついて聞いた。
・・・・・ この間の土曜 ・・。
買い物途中の要に話し掛けてきた奴だ。
「あぁ、D組の
「そう、D組の井上だね・・・・」
よくよく考えてみれば、あの土曜の要は僕の写真の事ばかりを気にしていた。
あの出来事は写真がすべての原因だったように思えてならない。
でも、・・・あの日まで要は写真の事など、一言も言わなかった。
あれを要に渡した人物がいる筈なんだ。
放課後、「話がある」と言う要を振りきって、僕は1ーDの教室を尋ねた。
我が修栄学院では、成績順クラス編成が中等部の頃から行われている。だから、A組の者がD組を訪れる事は滅多にない。何故かと言えば、最初のクラス編成から殆どクラスの顔ぶれは変わらないからだ。
僕の訪問によってD組の連中はざわめきたっていた。
いつも貼り出されるテスト結果のせいかどうかは知らないが、僕は妙に名を知られている。
「いっ、井上ー・・・・
呼び出しを頼んだ小柄な人は、さも大袈裟に井上君に取り次いでくれた。
同じ一年同士なんだから、さん付けはやめて欲しい。
ざわざわとした教室ではどうも話しづらく感じ、井上君を伴って、西校舎の屋上を選んだ。
彼はなんだか落ち着かない様子で僕の顔をチラチラ見ては頬を赤く染めている。
変な人だ。
屋上に到着すると、何か話し掛けてくるでもなく、ボーッと僕の顔を見ている。
「井上君、突然呼び出してしまって・・、悪かったね」
「えっ、いやっ、あの、僕でよろしければ・・・・」
彼は頭を掻きながら、ますます赤くなる。
何かどうも、会話がかみ合っていないような気がするが・・・まあ、いい。
「この前の土曜日、要に話し掛けてたね」
僕の問いに彼は頷く。
やはり、僕の記憶違いではなかったらしい。
「その時、何の話をしたのか、良かったら教えてもらえないかな・・・・」
僕は極力丁寧な口調で尋ねた。
「えっ、でもそんなたいした話は・・・・」
口を濁す彼に、僕は正直苛立っていた。
「どういう内容だったのか、詳しく聞かせて欲しいだけなんだ」
言い渋る彼。
僕は至近距離まで近付いて、「ダメかな?」と、いつも要にお願いする時の上目遣いの瞳で彼の瞳を見つめる。
「でも、ほんとに大したことは・・・ヒッ、ヒールキックのうまい出し方だとか・・・・・最近の噂話とか、そういうのですよ」
「写真の事とか・・・・、話したんじゃないの?」
「そんな、徳永さんの写真なんて・・・・・」
「やっぱり、君なんだね」
「えっ・・・・・」
「要に僕の写真を渡したのは君だね。・・・でも、・・・どうして・・・・・」
「俺、いや、僕はあいつが羨ましかったんだ。いつも徳永さんの側にいて。笑ってもらえて、俺なんて、話し掛けられたのも今日が始めてで、こんな間近に近付いたこともなくて、遠くから眺めているだけなのに・・・・・・」
「・・・・・・・・」
つまり、この人は僕と仲良くしたかったと、それなら、気軽に話し掛ければいいのに・・・・解らない心理だな・・・・うん。
「徳永さんの写真は色々出回っていたけど、今回みたいに眼鏡を掛けていないのは珍しくて、手に入れるのも大変だった。ちょうどあの土曜日、偶然に店から出てくるあなたと
「それで、要に写真を見せたの?」
「早藤の事、おれはいい奴だと思ってた。気に入ってたけど、・・・あの瞬間、あなたにあんな顔をさせる事の出来るあいつが憎かった。幸せそうにしてるあいつが・・・憎かった・・・・。だから、ちょっとした嫌がらせのつもりで・・・・・すごい写真があるって、早藤に見せてやったんだ。あの写真をみても幸せそうな顔が出来るのか、見てやりたかった。あいつがあなたの事をなによりも大事に思っているのを知っていたから・・・・・。それで、その写真についての噂も聞かせたら・・・、あいつ真っ青になってたよ・・・・。信じられないって顔してさ・・・」
彼は泣き笑いのような表情を作って見せた。
「噂って・・どんな・?・・・・」
「・・そ・んな・・・本人の前で・・・・」
絶対その噂が原因だ。
「僕が怒るとでも・・・?・・・」
「・・・でも・・・・・」
「構わないから・・言って・・」
躊躇う彼に僕は強引に促す。
怒りを抑え、平静を装って・・・・・・。
「写ってた格好が格好なだけに、あれは、色々言われているんです。あの中の徳永さんは今までの写真と違ってなんだか、こう、軟らかい表情をしてるし、肌なんかも淡いピンク色で、特にひどく噂されているのが、右の鎖骨あたりにキスマークのような痕があって、それで、きっと情事の後で写された物だろうって・・・・・・」
まさか・・・・単なる憶測でそこまで・・・・。
なんて、想像力の豊かな人たち・・・・・・・。
「それ・・・を・要に言ったって・・・?・」
たぶん僕の顔色が変わっていたんだろう。
彼はしばらく黙って俯いていたが、やがて、小さな声で呟いた「・・・はい・・・・」と。
何てことを・・・なんてことを言ってくれたんだ。
それでなくとも最近の要はその手の事になると、すごく神経質になっていたのに・・・。
僕もすっかり忘れてたけど、無意識に避けてた話題なのに・・・。
なぜ、こんな何の関係もない赤の他人に、要との間をかき乱されなければならないのか・・・・そう思うと抑えきれない怒りがこみ上げてくる。
気が付くと井上の頬に平手打ちをお見舞いしていた。
でも、自分が彼に悪いことをしたとは思わない。
「君がしたことは最低だね」
一言、捨て台詞だけ残して僕は屋上を後にした。
事情は解ったけど、迷っていた。
要をこんな事で許せるのか・・・・、と。
校舎を抜けて、中庭を歩いていると、見知った人物がこちらに向かって手を振っているのが見えた。
今回の騒ぎの元凶。
諸悪の根元、聖先輩。
「今から帰り?」
人の気も知らないで、にこやかに微笑む聖さんを僕は睨んだ。
「えらくご機嫌斜めだなぁ。こっちはもう笑いがとまんない位なのに。あのさ、こないだの写真なんだけど、予想通り馬鹿売れ。紫月のお陰だよ。最初は三百枚焼き増ししたんだけど、すぐ売れちゃって、また、協力してよね」
やっぱり、聖さんだったんだ。
僕は拳をフルフル振るわせて聖さんに噛みついた。
「誰が何時、協力なんかしたんですか? あなたがした事のお陰で僕は物凄く迷惑を被っているんですよ。要はすっかり怒ってるし、あなたのせいで僕は酷い目にあったんですからね」
「早藤が怒ったって? なに? もしかして・・襲われでもしたの?」
僕が本気で怒っているというのに聖さんはしれっとした態度でこんな事を言う。
僕は二の句も告げないで真っ赤になってしまった。
「図星? 良かったじゃない。これで早藤も思いが叶ったし、紫月も大人になったことだし」
ぽんぽん僕の肩を叩きながら彼はますます陽気に笑う。
あなたって人は・・・あなたって人は・・・・。
いや、この人はそういう人なんだ、僕とは価値観や道徳観念が全く違う。
「もう、いいです」
この人と口論したって何も解決しやしない。
あの時、無理矢理ネガを取り上げようと思えば取り上げられたかもしれなかったのに、それをしなかった僕が甘かったんだ。
諦め加減に聖さんの横をすり抜けて家路についた。
刀@刀@
今朝、珍しく、要が早い時間に僕を迎えに来ていた。
ここ、一週間ほど僕は要を無視している。
「しーちゃん」
縋るような瞳で僕に呼びかけるのを何度振り切ったことだろう・・・。
・・・・・そんな人畜無害な顔をしたって無駄だよ、僕はもう騙されてなんかやらない・・・・。
そう自分に言い聞かせていた。
あの顔に騙されたばかりに、あの日あんな目にあったんだから・・・・。
確かに僕も勉強不足でSEXがどういう物なのか知りもしないで、言った言葉がまずかったとは思う。
でも、僕の意志などお構いなしの無理矢理だったのだから怒る権利は十分にある。
だって、あの時僕は死ぬかと思ったんだ。
その後も二日間熱を出して寝込んだし、お腹を壊して、でも傷ついてる処が気になってトイレに行くこともままならないし、所々についた痣は消えてくれないし、特に、手首についた痣が三日も消えなかった。
とにかくひどい有様だったんだ。
毎日見舞いに来る要に会わないと言うと、母は玄関払いをしてくれたが、家の母は僕達が喧嘩をした位にしか思ってなくて「紫月が取っ組み合いをするなんて・・・」と男の子を産んだ実感を得て喜んでるし・・・・。
まさか、あなたが信頼している幼なじみに強姦されました、なんて口が裂けても言えない僕は非常に後々も迷惑したんだ。
なんで要が悪いのに、僕が言い訳を考えなきゃいけない。
・・・・・・・ 何故、要に怯えなければならない
・・・・
あの時のことを思い出して、僕の背中を冷たい物が走り抜けた。
六月だというのに、じりじりと蒸し暑い空気が部屋の中を満たしていた。
僕には幼なじみがいる。
彼の名前は早藤要。僕と同い年である。
幼なじみといっても僕は六歳までの要と今の要しか知らない。
六歳までの間、兄弟同様に育った僕と要は、再会してからもずっと、共に時を過ごしている。
毎週土曜日には、一人暮らしの要の家に泊まる。
今日はちょうど土曜日だった。
いつものように、学校帰りに夕飯の買い物をし、要の家に来た。
いつもと違うのは、買い物前にメニューが決まっていた事と、ショッピングセンターに行く道々、要が離れていた時のことを僕に話してくれた事だった。
中学時代の要はレストランの厨房でバイトをしていたそうだ。
もちろん年をごまかして・・・。
僕は未だにバイトの一つもした事がない。
だからよけいに興味津々だった。
その反面、こうして要ばかりが先に大人になってしまった理由がこの辺にもあるのだろうと、寂しさも感じていた。
今の要は、人混みにいても一目でわかるくらい背が高い。その頃にはすでに一八〇センチを越していたという。大人びた容姿を利用して、未成年では入れないような所にもよく出入りしていたと。
その時、仲良くしていたコックさんにいろいろと本格的な料理を教わった、と僕に話してくれた。
「じゃあ、グラタンとかも作れる?」
「グラタン?」
僕はグラタンが大好物なので、要の瞳を見上げて立ち止まった。
「うん」
「そういえば、しーちゃんは昔から好きだったよな」
グラタンね・・・と考え込んでいた要は僕が「うん! 好き」とにっこり笑って言った途端、胸を張って「まかしとけって」と言ってくれた。
再会して二ヶ月とちょっと。
これまで全然その間の事を聞いていなかった。
僕も要と離れていた間の事を話す気がなかったし、要に対しても気にはなっていても無理に聞こうとは思わなかった。
話したくないこともあっただろうし・・・・・。
・・・ でも、・・知りたかったから ・・・・。
・・・ 口に出さないだけですごく知りたかった ・・・。
・・・ 僕の知らない要のこと ・・・・。
嬉しくて、嬉しくて・・・・つい、まとわりついて、一言も逃さないように要の言葉を拾っていた。
二人で要の家に戻り、僕は感心しながら要の手先を見ていた。
買い物が終わってから、あんなにいろんな事を話してくれたのが嘘のように要は無口だった。
最近になって知ったことなのだが、要は何かに集中する時、急に無口になる。
買い物前に、「今日は腕に縒りをかけて、最高のグラタンを作ってやるよ」なんて言っていたからそのせいかもしれない・・・。
大きくしなやかな手が鍋を握り、その中ではただの小麦粉とバター、それに牛乳がみるみる内にホワイトソースに変わっていく。
その腕前は溜息が出そうな程、見事な物だった。
真剣に鍋を睨んで額に汗して、僕のために調理する要。
その姿に気迫すら感じて声を掛ける事も出来なかった。
怖いくらいだった。
仕方がないので、僕はあらかじめ彼が炒めたエビを摘み食いなどして時間を潰していた。
もう、僕の本日一番の楽しみも準備がすっかり整って、冷蔵庫で夕飯の時間を待っている。
あとはオーブンで焼くだけで、いつでも食べられるのだ。
考えるだけで涎が出そうで、早く時間が経たないかな・・・・とか、もう一時間程なんだから早めにご飯にしてくれないかな・・・・なんて僕が思っていると、要がリビングから出ていってしまった。
階段を上る足音が聞こえて、ご飯までの間、新作のゲームをやろうと要が言っていたのを思い出し、慌てて要の後を追いかけた。
やっと相手にしてもらえる。
部屋のドアを開けた時、あつい空気に僕はむっとした。
いつもなら、僕のために真っ先にクーラーを付けてくれるはずの要が、机の方に向いて立っている。
机に置かれた要の拳は震えていた。
「クーラーも付けないでどうしたの?」
なんとなく、これはゲームを楽しむ雰囲気ではないのでは・・・・・・、と思った。
当たり前のことだけど、背を向けている要の表情は僕にはわからない。
当惑しながら近づく僕に、やっと要が気づいて振返った。
ホッとして、要の顔を見上げると、いつもの笑顔はそこにはなく、代わりに要のきつい眼差しとぶつかった。
もう一度話し掛けようとした僕の胸に要は一枚の紙片を押しつける。
落ちそうになったそれを僕は受け止め、拾い上げた。
それは僕が以前、先輩の聖さんに撮られた写真だった。
どうして要がそんなもの・・・・・・。
「こんなものどこで撮られた?」
いきなり要が押し殺したような低い声で聞いた。
「この前、冴子さんのとこで・・・・」
「冴子さん」と言う名前を聞いた途端、要の表情はより厳しいものになった。
冴子さんは聖さんの知り合いでラウンジのママをしている。要ともどうも知り合いらしい。
僕を射抜くように見つめる二つの瞳が怖かった
いつもの要じゃない。
確かどこかで見た表情だ。
・・・・・・ 怒ってる。
でも、僕は要を怒らせるような事をした覚えはない。
息が詰まりそうな重苦しい空気が部屋に充満していた。部屋の気温が僕をより苦しめているのだと意識的に思った。
だから、机の上に置いてあるリモコンのスイッチを入れた。
少しでもこの息苦しい空気から逃れたかった。
すると、いきなり要が机に拳を叩き付けた。
その音に驚いたこともあったけれど、さっきからの要の態度への苛立ちを僕は一気に口にした。
「気に入らないことがあるなら、はっきり言えばいいだろ! 黙って怒ったって僕には判らないよ!」
「じゃあ、聞くけど、なんでこんな写真が学校で売られてるんだ。しーちゃんは知ってたのか?」
要は僕の両腕を掴んだかと思うと、力づくで僕の身体を引き寄せた。
ちょうど要に向き合う格好になる。
どうしてそんなつまらないことで怒鳴られなければいけないのか僕には判らない。
要の理不尽な態度にだんだん腹が立ってきて、自然、要を睨み付けていた。
僕だって、最初に写真が学校で売られている事を知った時はそれなりにショックだったけど、いくら僕が嫌がったとしても、隠し撮りに関しては撮った物をいちいち探してネガを取り上げるなんて不可能だし、殆ど僕の目に触れることはない。
暇人が、こんな物を買って喜ぶ暇人のために動き回っているだけなのだし、学校での売買行為は禁止されているのだから、その内学校側に見つかって処分されるだろうと・・・・。
わざわざそんなつまらないことのために僕が騒ぐこともない、と常々思っている。
噂話に耳を塞げばいいだけの話だ。
だから要も気にしなくていいのに・・・・・・。
「こんなの・・うちの学校の生徒なら誰だって知ってるよ。僕だって中等部の頃から知ってるし・・・・」
言い諭そうとする僕に向ける要の瞳がわずかに翳る。
「平気なのか? まさか、平気で撮らせたのか?」
懇願するように、要は僕の肩を揺する。
大げさだよ、要は僕の事になると、神経質なくらい心配するんだから。
「そんなのどうでもいい事じゃないか。それよりゲームするならしようよ」
「どうでもいい・・・・・・?・・・・」
こんなつまらない事で要との楽しい時間を潰してしまいたくはない。
僕はさっさとこの話を切り上げたかった。
「それに、その写真を撮ったのは聖さんなんだから・・・・・・、ちょっとした悪戯だよ」
そう言いながら要の肩をポンと叩いて、ゲーム機をセットしようとしていた。
すると、要は物凄い勢いで僕を睨む。
「聖さんの前でこんな格好をしてたっていうのか・・・・」「ど・・どうしたの? そんなのたいした事じゃないよ」
鋭い視線が僕を射抜く。
ピンと空気が張りつめるのを、肌で感じた。
ゆっくりと近付く要を無意識に怖いと思った。
別になにか悪いことをしたわけでもないのに、要の瞳は僕に罪悪感を抱かせる。
僕の何気ない言葉が要にそういう目をさせるのだとしたら・・・・・、と先ほどからの会話を頭の中で繰り返し思い起こそうとしていた。
けれど、要を包んでいる怒りが何なのかは、全然判らない。
要が何をそんなに必死になるのか・・・・・。
男同士で上半身を見られたからってどうだって言うんだろう。
僕が要を見つめてキョトンとしていると、要の腕に力がこもった。
痛みに眉を寄せ、要を睨んだけど、僕の腕を掴んだ力は緩まない。
・・・・・ 怖い ・・・・・・・・。
漠然とそう思った。
「しーちゃんが、紫月がそんな子だと思わなかった。たいしたことじゃない・・・・なんて、なんにも知らないような純情そうな顔をして、潔癖な事言って、でも、本当は、俺と離れてる間に変わってたんだ・・・・・・」
そう言った要の口元は皮肉に歪んでいた。
要が何を言ってるのか解らない。
今にも泣きそうな顔をして僕を睨む。
そんな要の態度に戸惑って僕は何も言えなかった。「この間、俺のしたいようにしていいって言ったよな」
僕が返事もしないうちに、要の手は僕の腰に伸びてきて、ジーンズからベルトを引き抜く。
シュルッ、という衣擦れの音が僕の恐怖心をより掻き立てていく。
要の手を振り解き、じりじりと後ずさりながら僕は怯えた。
だって、僕は女の子とだってそんな事した事ないし、実際どんなことをするのかも最後まで知らないのに・・・・。
僕だって密かに憧れてたんだ。
いつか、好きな女の子が僕の目の前に現れて、素敵な恋をして、順序を踏まえて徐々にそういう経験をしていくことに・・・・・・。
そりゃあ、僕は意気地がなくて自分から女の子に声を掛ける事が出来るかどうかは自信が無かったけど・・・・でも、それでも夢見てきたんだ。
この間は、要に避けられて、家にも入れてもらえなくなって、ショックだったことと、歓楽街を彷徨い歩いて、やっとの事で要に会えたことが嬉しくて、つい、その場の雰囲気と・・勢いっ・・・て言うか、・・・・そういうので、あんな事・・口走ってて・・・・・・。
もう・・どうしていいのか判らない。
僕が何も言えないでいると、要は力任せに僕を引き寄せ、口付けてきた。
この間とは、全く違い乱暴に押しつけるようなキスだった。
「やっ・・・・かなめっ・・・・・・」
要を突き放そうと必死にもがいたけれど、力の差は歴然としていて、どうにもならない。
そのま僕の身体はベッドに縫い止められた。
要に体重を掛けて押さえ込まれてしまえば、もう身動きをとることすら難しかった。
前にも一度こういう事があったのだから、諦めるしかないのかもしれない。
だけど、悔しかった。
要が本気になれば、僕の意志など関係ないということが・・・・・。
僕は唇を噛みしめてぎゅっ、と目を瞑った。
乱暴にシャツのボタンが外されていく。
一度自分で口にした事には責任がある。
覚悟を決める時が来たんだ。
でも、あんまりだよ・・・・・・初めてが男だなんて・・・・。 いっそこれがあの時だったら、その場の勢いで済んだかもしれないけど・・・・。
こんな、僕が忘れた頃に言い出さなくったって。
これは悪い夢だと、誰かに言って欲しい。
いつか、それぞれに家庭を持って、お互い忙しくても年に何回か会って近況なんかを話しながら二人で笑って年をとっていけると思ってた。
要に優しい奥さんが出来て、幸せそうに微笑む要の顔が見たかった。
なのに・・・・・・なんで、あんな事を言っちゃったのかな・・・・・・。
・・ 僕を要のしたいようにしてよ ・・・・・・
一月前、要に告げてしまった言葉。
「・・・・どうして・・・・・・・・・」
どうして今なの、と聞こうとした唇に要のそれが重なった。
衣服をほとんどはぎ取られ、最後の一枚に要の手が触れて・・・・・。
白昼の明るい部屋の中、晒された肌を要の瞳が射抜く。
身を縮め少しでも身体を隠したかった。
なのに、腰から押さえつけられた身体は思うように動かない。
こんな風に、人に見られたのは初めてだった。
要の喉元が上下してギラギラと欲望に満ちた眼がそこにある。
刺すような視線。
僕は瞳を目一杯見開いて、イヤイヤをするように首を振る事しか出来ない。
「俺だと・・・、そんなに嫌なのか」
あげた筈の叫び声は、乾いた喉が張り付いたように、音にはならなかった。
・・・・・ 要じゃない。見知らぬ他人が要の振りをしているだけだ。・・・・
何度も呪文のように心の中で叫んでいた。
小刻みに震える身体をいつもなら、要が暖かく包んでくれる。
「この間の言葉・・・・。実行させてもらうよ」
けれど、今僕を怯えさせているのは、その要・・・・・。
わざと追いつめるような事を言う要から、顔を背けた。
それしか、今の僕に出来る抵抗はないように思えた。
素肌が触れ合う気配に息をのむ。
要の肌はこんなにも暖かいのに・・・・。
どうして抱きしめ合うだけじゃいけないの・・・?・・・。
腿に堅い物があたる。
それが何なのかを察し、要の本気を確信した。
そして、要は言葉通りに実行した。
刀@刀@
自分の家が近付くにつれて大きな溜息がこぼれる。
このままにしておいていいものだろうか?
要が会いに来たらどうしよう。
自分の家の前に辿り着き、隣家を見上げた。
そこは、要の家だ。
今日は要のバイトの日だからもうきっと出かけているだろうな・・・・。
そう考えると、少し安心できた。
要とはまだ落ち着いて話を出来そうもない。
まともに向き合うと、どんな話をして良いのかさえ、思いつかない。
疲れちゃったな。
そう思いながら、家の玄関を開けた。
リビングの方から母の楽しそうな笑い声が聞こえてきていた。
近所のお友達でも来ているのだろうと、僕はリビングを覗いた。
いつも黙って2階の自分の部屋に行くと、挨拶ぐらいしろ、と母がうるさいのだ。
「・・ただい・ま・・・・・・」
そこに信じられない者がいた。
「お帰り、紫月、遅かったのね。さっきから要ちゃんがずーっと待っててくれてたのよ」
あれ程、要が来ても追い返してくれと頼んでいたのに・・・・・・・・。
「な・な・なんで・・・・ひどいよ・・・愛子さん!」
要がじっと僕を見ていた。
僕は突然のことにどうして良いのか判らず、ただただ狼狽えていた。
「だってね、いくら喧嘩したからって、昔っからあんなに仲良しさんなのに、一週間も口聞かないなんて・・・・私だって要ちゃんの事は大好きなのに、紫月がそんなだと要ちゃんが家に来れないじゃない。そんなのさびしいんだもの」
名前で呼ばないと怒るお嬢様のなれの果て、僕の母は可愛い子ぶった口調でこういう。
僕たちの事情も知らないで、脳天気なことばっかり。
「じゃあ愛子さんが要の家に遊びに行けばいいでしょう」
「あら、そうね。そういう手もあったわね。やだ、紫月ったら早く教えてくれればいいのに」
照れながら僕の背中をバシバシ叩く母に盛大な溜息が漏れる。
自分の都合だけで要を家に入れてしまって、僕はどうすればいいんだ。
「さてと、紫月も帰ってきたことだし、私は買い物にでも行って来るから、その間に仲直りするのよ。・・・・紫月聞いてるの? いつまでも家の中に籠もって、じめじめ暗いのは嫌いなんだから、何とかしてよね」
「そんな勝手な・・・。愛子さん。愛子さんてば・・・・・」
お願いだから、二人っきりにしないで・・・・。
心の中でそう叫ぶのに、無情にも勢い良くドアは閉まり、そこに母の姿はなかった。
母がいなくなると、家の中は静まり返ってしまう。
僕は要の方を見ようともしなかった。
気まずい雰囲気が部屋の中に流れ出す。
以前ならば、僕の部屋に要を通して、飲み物なんかを出したりしたけれど・・・・。
とてもそんな気にはなれなかった。
のどの渇きを癒やすために、僕は自分の珈琲だけを入れる準備を始めた。
後ろの要の気配を窺いながら、食器棚の珈琲豆を捜している。どこに入ってたっけ・・・?・・。
滅多に台所に立たないから記憶も定かではない。
「・・・豆なら・・右の2番目の段・・・・」
頭の上から聞こえた声。
ビックリして手に持っていたはずカップは床で粉々になった。を
「聞いてないだろ!」
親切で言ってくれているのかもしれない。
でも、自分の分しか煎れるつもりがなかったのに、要に手伝われては、僕が物凄く意地悪してるみたいじゃないか。
カップの破片を拾いながら、その場の勢いで要を怒鳴っていた。
まるで、お気に入りのカップが割れたのが要のせいみたいに・・・・・。
こちらに近づいてくるスリッパの音。
震え出す身体。
平静を装って、片づけを済ませてしまいたかった。 もう、珈琲なんてどうだっていいから二階の部屋に逃げ込んでしまいたい。
僕は要を振り返らない。
だけど、音はますます近づいてくる。
「それ以上、近寄るな!」
緊張に耐えきれなくなって僕は叫んだ。
こわい・・・怖いんだ・・・。
もう、要と密室に二人きりだと思うだけで怖い・・・。
要のことが気になるくせに、・・怖い・・・・。
頭では判ってる、今日要がここに来た理由。
話をしに来ただけだって・・・・・・。
バイトまで休んだんだろう。
「俺の事、そんなに嫌いになったのか?」
弱々しい口調で要が言った。
僕は答える事が出来ない。
ちがう、嫌いになった訳じゃない。
怒っていただけだ・・・・。
立ち上がって、さっさと逃げてしまえって心が囁くのに、僕の足はガクガクに震えて、立ち上がれない。
無理に立とうとして僕はよろけた。
要が駆け寄ってくる。
「・・・・いやぁぁぁ・・・・・」
間近にある要の姿を瞳に捉え、無意識に僕は叫んでいた。
僕に手を貸したいのに、こんな風になった原因が自分にあるのが判っているのだろう。
差し伸べ掛けた手が、スローモーションのように止まる。
僕のために開かれた手のひらは、要のはがゆさを僕に伝えるように閉じられた。
こんな風になるなんて思わなかった。
自分がこんなに弱いなんて・・・・・。
僕は再び要から眼を背ける。
自分自身を抱きしめてこの震えを止めたかった。
こんな惨めな姿・・・・・、要にだけは見せたくなかった。
どうしてなんだよ・・・・。
学校じゃ強がれるのに・・・・。
話を聞かなきゃいけないんだ。
井上や聖さんと話して、事情は判っているんだから・・・・・。
いずれは要を許すつもりでいたのに・・・・。
これ以上要を責めるつもりはないのに・・・・・。
これでは、尚のこと要を責めているようなものだ。
「・・俺・・・の・・せいなんだな・・・」
しばらく黙って立ちつくしていた要が口を開いた。
しゃがみ込んでいた僕。
ちがう、そうじゃない。
気持ちを伝えたくて僕は首を横に振った。
これは要のせいじゃない・・・・。
僕自身の問題なんだ。
要の足音が聞こえる。
行ってしまう。
要が行ってしまう。
だめだ、そんなのだめだ。
まだ、なんにも要の言い訳を聞いていない。
なにも話していない。
・・・・・いやだ・・・・・・。
行かないで、お願いだから行かないで・・・・。
もう少ししたら落ち着くから・・・・・・。
待って・・・・・・・。
そう思って、膝に埋めていた顔を上げた。
けれど、リビングのどこにも要の姿はない。
代わりに、玄関のドアが閉まる音がした。
もう一度立とうとして、やはり僕はよろけた。
床に突いた手に、チリッとした痛みが走る。
さっき拾い損ねたカップの破片。
「・・・・まっ・・・まって・・・、かなめ・・・・。まって・・・」
話をしなくちゃ。
こんな別れ方をしちゃいけない・・・・・。
・・・・・けれど・・・・・。
僕の精一杯の言葉は要には届かなかった。
刀@刀@
夜の帳が静かに町を包んでいた。
待ち合わせの駅前に約束よりも十五分前に到着していた。
あれから三日経っていた。
その間、要の姿を見ていない。
家に帰った形跡もなく、学校も休んでいる。
あんな別れ方をしてしまった事が、悔やまれた。
要は今頃どこでいるのだろう・・・・・。
自分を責めているんじゃないだろうか・・・・・・・・。
そう思うと、家でじっと待つ気にはなれなかった。
「悪い、待った?」
明るく手を振る聖さんが現れた。
「いえ、今来たところです」
気持ちを抑えて、僕は極力落ち着いた口調を作る。
「早藤がいなくなったって?」
「ええ・・・・・それで、聖さんなら何か知らないかと思って」
要の知り合いで、頼って行きそうな人と言ったら、聖さんしか思いつかなかった。
要はまだこの町に来て日が浅い。
持ち前の社交的な性格で、知り合いの数は驚くほど多いけれど、気を許す人間と言えば限りがある。
聖さんにはバイトを紹介してもらった、と言っていたし、とにかく何でもいいから要を捜す手がかりを見つけたかった。
「あいつさ、ここんとこずっとバイト先も休んでたらしいぜ」
「そんな・・・、要はそんないい加減な人間じゃない」
「いや、さぼりって言うんじゃなくて、店の方がしばらく来なくていいって言ったらしい。なんでも、仏頂面のホストなんて困るって」
「うそ・・嘘です。要は昔からどこに行ったって、愛想の良さだけは誉められてたのに・・・・」
聖さんの言葉が信じられない。
「だって、本当に十日位前からそんな調子だったて聞いたんだから、俺を責めるのはお門違いってもんだ」
そう言うと、聖さんは女性用のライターで煙草に火を付けた。
・・・・・ 十日位前って ・・・・・・。
僕は俯いて何も言えなかった。
唇をギュッと噛む。
「思い詰めるなよ、要の顧客とか、バイト仲間当たってやるからさ」
聖さんは僕を元気づけようと、僕の肩をポンと叩いた。
何時間歩き回っただろう。
以前来た時には、あんなにも煌めいて見えた歓楽街は今は暗くよどんだ世界に見える。
要を捜して、彼のバイト先や顧客とのつきあいで立ち寄る店を何軒も廻ったが、それらしい情報は一つとしてなかった。
何処に行っちゃたんだよ・・・・・・。
僕は途方に暮れていた。
「今日はどうもありがとうございました」
この辺の地理を殆ど知らない僕に、何時間もつきあってくれた聖さんにも申し訳なくて、後はまた明日、一人で捜そうと思う。
「どういたしまして。なんなら明日もつきあおうか?紫月にはいつも写真でお世話になってる事だし」
大仰にお辞儀をしてみせる聖さんが、ペロッと舌を出して笑う。
一緒に要を捜している間も、自分だって疲れているくせに僕を笑わせようと冗談ばかり言って・・・・。
一言余分だけど、いい人だなっ、てしみじみ思う。
やっぱり、いかがわしい所だけど、この町が好きだな・・・・・。
ここはなんだか人々が本音で生きてて、いい人は本当にいい人で、飾らないって言うのはこういう事だと僕に教えてくれる。
いつだって僕を暖かい気持ちにしてくれる。
この前だって、あの人に会わなければ僕は要を探し出せなかった。
あの人・・・・・・。
「めぐみさん!」
「どうしたんだよ。突然」
聖さんの袖口を掴んで、僕は叫んだ。
「忘れてた。要の知り合いですごく親切な人がいるんです。めぐみさんて言うんだけど・・・・」
僕は早口でまくし立てた。
聖さんに判って欲しくて。
「じゃあ、明日廻ろう」
「これから僕一人で行って来ます。絶対、めぐみさんの所だ」
「何で、言い切れる。紫月、期待して後で辛いのはお前だぞ。な、今日はもう疲れてるんだから・・・・家まで送ってやるよ」
急に元気になった僕を怪訝そうに聖さんが見る。
「その人、要の亡くなったお母さんに似てるんです。すごく暖かくて優しい人で・・・・、要の事が大好きって、この間一回会っただけなのに、自分の身内みたいに僕を扱ってくれて・・・・・・」
言い募る僕を真顔で見つめ、聖さんは僕の背を押した。
もうすぐ要に会える。
そう思うと、僕の胸に熱い物がこみ上げてくる。
最後にあんな別れ方をしてしまって・・・・。
絶対に要は自分を責めているに違いない。
そうじゃない。
要が悪いんじゃないって・・・・真っ先に言うんだ。
要を嫌いになったわけじゃないって・・・・。
そう思うと、僕の歩調はどんどん早くなっていった。
歩き出して三十分も経つ頃、めぐみさんが勤めている店に着いた。
以前、この前を通り掛かった時、僕を無理矢理店の中に引っ張り込んだお兄さんが僕に気づいた。
「あれっ、この間のべっぴんさん。とうとううちで遊ぶ気になったのかい?」
陽気に話し掛けてくるお兄さんに、めぐみさんの呼び出しを頼んだ。
すると、「仕事中だから、ちょとだけだよ」と言ってお兄さんは店の奥に消えた。
それから、少し店の前で待っていると、めぐみさんが現れた。
僕はめぐみさんに駆け寄って軽く会釈する。
「こんばんは。この間は有り難うございました。あの・・・・」
「要の事でしょ」
僕が用件を言い終えない内に、めぐみさんはいきなりこう言った。
僕を睨み付けるめぐみさん。
この前会った時とはあまりに印象が違う。
「やっぱり。要の居場所を知ってるんですね」
「あんた、要に何言ったのよ」
そう切り返されて、言葉に詰まると・・・ますますめぐみさんの眼がきつく吊り上がった。
どうして、めぐみさんがこんな態度をとるのか判らない。
この前会った時は、お母さんみたいに優しい眼をして微笑んでくれたのに・・・・。
だから、要の事をこの人が知っていたらすぐにでも会わせてくれると思っていた。
正直、僕はめぐみさんの豹変に戸惑っている。
僕の肩をつついて、聖さんも「これの何処が優しいんだ」と耳打ちしてきた。
そして、耳を疑うような言葉を僕は聞いた。
・・・・・・・・・ あんたの返答次第じゃ、
教えてあげない ・・・・・・・・・・・・・
つづく
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