2002.07.20up

もう二度と  10

上郷  伊織

◇◇◇◇◇

 こんな事があっていいのだろうか?
 こんな日が来るなんて、夢にも思わなかった。
 かつて、想像の中で胸に抱いていた雅が、現実に私の腕の中にいる。
 年の割に張りのある肌が柔らかかった。
「あんまり見てると興ざめするぞ」
 汗に濡れた彼の髪を指先で掻き揚げながら、瞳を覗き込むと、僅かに頬が赤らんでいる。
「大丈夫」
 興ざめなどするはずもない。
 ずっと、ずっと焦がれていた人。
 
 雅はかなりの床上手だった。
 私の身体に馬乗りになってあらゆる所に唇を這わせていた。
 肌が重なっているだけで、興奮して、若造のように性急に成り果てた私を時々なだめながら、雅の唇が触れてくる。
「七十二にしちゃ、元気でいいなぁ」
 私自身を手にしながら、しみじみ呟く雅が寂しかった。
「もう十年はやけりゃなぁ」
 自分の股間を悲しそうに覗き込み、また溜息をつく。
 そんな雅を見たくなくて、私は体を入れ替えて雅を押さえつけた。
「雅、……みやび……」
 首筋から舌を這わせ、胸の突起を啄ばむと、雅は苦しそうに息をつぐ。
 不能だとかいいながらも、雅の皮膚は敏感だった。
 誘われるままに雅を抱いた。
「ここは使いもんになるから……」
 言われた場所に指を差し入れ、抜き差しを繰り返した。
 空調が効いているはずの寝室は私達の吐息と汗に湿っていく。
「智久……。ごめんな。まっさらな綺麗な俺じゃなくて……」
 涙に滲んだ瞳が揺れていた。
「………雅だから、どんなになっても、私の雅だから」
 私は泣きながら、雅に口付けた。
 お互い様なのに、雅は年を取った自分を気にしている。
「私にとって、雅は誰よりも綺麗なんだ……」
 雅は私の首にかけていた腕に力を込めた。
 
 そうして、私たちは一つになった。
「……雅。……私の雅」
 雅を力いっぱい抱き締めて、私はちょっとばかり無理をしながら、腰を揺すっていた。
「…………あ!」
 いきなり突飛な声を上げられて、雅の顔を見詰めると、真っ赤に染まった肌が視界を覆う。
 雅の視線は恐る恐る下を目指し、二人の股間で止まる。
「………おっ!」
 つられて向けた先には立派に反応した雅の雄がそそり立つ。
「…お、おおおおおぉぉ」
 雅の大きな瞳からは大粒の涙が零れていた。
 美しい笑顔を目にして、私の中心もドクンと脈打つ。
「もう三年も働かんかったのに……」

「おお、立派に現役じゃ」
「……現役じゃ、現役じゃ」
 喜びのまま、雅は激しく腰を振り、私は面目もなく先に果てた。
 長い長い夜が始まりを告げた。



 二人で長生きしようと誓い合った夜の事だった。 

 もう二度と離れないで、二人でいよう。
                         

おしまい

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コメント:こんなにシリアスチックになるはずじゃなかったんだけど……。