2000.11.26up

明日のマカロニ君 2

− 紫月&要シリーズ 番外編 −

上郷  伊織

☆ ☆ ☆

 それから、何日か平和な日々が続いていた。
 その日も店内に明かりが灯り、彼らは朝の訪れを知る。
 相も変わらず、マカロニ達は一つの小袋の中に詰まったまま、陳列台の上から世界を眺めていた。
 小さな袋の中には数百本のマカロニが入っている。
 その中は数十個のグループに別れ、一つの社会が形成されていた。人間社会で言うところの学校のような集団である。
 一つのグループでは心配性のマカロニ数本が、もしかすると今日誰かに買われて死んでしまうのかもしれない、と未知の恐怖に怯えている。あの太った奥さんが自分たちの運命を語ってから、ずっとその数本は泣き言ばかりを繰り返していたのだ。
「今日も大丈夫だよね、昨日も大丈夫だったもんね・・・」
 他のマカロニよりも一回り小さなマカロニが身の内の不安を口にした。このマカロニは仲間達にチビと呼ばれている。
 それに対して、幾分他よりもスレンダーで長いマカロニはシニカルな微笑みと共に妙に悟った口調でこういった。
「心配しても始まらん。俺達はそのために生まれたのだ」
 このマカロニはイカサマと呼ばれ、斜に構えている割には皆に親しまれている。
「ふぉふぉふぉ、憤りを覚えたところで、我らの運命は変わらん。この際、生をまっとうする事を考えるが良策じゃ」
 工場内でも機械の死角に隠れ、いつまでも小袋に入る事を回避していた一番の年長者が口を挟んだ。彼は皆に長老と呼ばれていた。
「そうおっしゃいますが、長老様、運命に身を任せると言うことは即ち、死を選ぶしかないという事でしょうか?」
「儂らは人間に食される為に生まれた。この袋の中でさえ、儂らのように思考を持たない者がいる。何かの悪戯で儂らに思考がもたらされたというならば、儂らには何かが得られるやもしれん。運命に逆らう事はできん。与えられた運命の中で儂らは天寿をまっとうし、その何かを得るのじゃ」
「そんなの、怖いぃ〜」
 平均的な体型の物分かりの良い彼、小頭の疑問へ長老が諭すように応える。そこへ、チビの喚き声が割り込んでいく。
「嫌だ、俺は絶対に死なない!」
 一際元気の有り余った色艶の良いマカロニが叫んだ。彼に名前は無い。あまりの聞き分けの悪さに小頭は若造と呼び、同じ理由で長老は青二才と呼び、イカサマはオマエと、チビは兄貴と呼ぶ。命名が統一されていないのは、彼だけだった。仕方がないので、彼の事は今後、マカロニ君と呼ばせて貰おう。
「だが、考えてもみよ、我々には選択権はない。通路に落とされ、誰かに踏みつけにされて、粉々のままゴミ箱行きか、誰かに買われて胃袋に入るか、このままココで売れ残りと嘲笑われ、黴を生やして生ゴミになるか・・・・・」
「生ゴミはやだよぉ〜」
 チビはより一層興奮して、訴えた。
 彼らに人間と同じ機能があるとしたら、まさに泣きべそをかく、という表現が一番正しかっただろう。
 悲嘆に暮れるチビの姿に、他のモノは考え込んだ。
 これが、人間ならばまさしくチビはノイローゼを起こしかねない雰囲気だった。
「人に買われれば、見た事もない外の世界が見れるんだろ?」
 不意にマカロニ君は別の事、そう、奥様方の会話に出てきた外の事を思い描いた。
「そうじゃ」
 長老は頷いた。死ぬ事ばかりを考えても仕方がない。
 ここは、マカロニ君の話題転換に乗ってしまおうと。
「どうせ死ぬなら、色んな物を見てもっともっと楽しもう。ここしか知らないなんて、ナンザンンショだ!」
 前向きな彼の考え方は、時に仲間達に感動を呼んだ。
「それを言うならナンセンスだろう?オマエはやっぱりアホだ」 イカサマが突っ込みを入れる。
 そう、マカロニ君はちょっとばかり言葉が不自由だった。
「そうですね」
 いつも、スミの方で大人しくしている割に、色んな知識をもっている学者が口を開いた。
「若造の前向きさに救われる」
「ゴミにならない為には、まず外へ出るんだ!」
 小頭の同意も得られ、マカロニ君は意気揚々と鬨の声を上げた。

 鬨の声を上げたからと言っても、彼らが積極的になったとして、出来る事と言えば袋の重心を動かす事くらいなのだが・・・・。

 とにもかくにも、彼らは外に出るという目標を持った。

                        つづく

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コメント

・・・・・短い。でも、取り敢えず出来た分だけでも。