2001.08.15up

時間のタリナイ恋なんて・・・24

上郷  伊織

◇◇◇◇◇

「あーあ、寝ちまったのかよ・・・・・・」
 珍しく、自分から岸上の部屋で眠りたいと素直に言った夜。
 先にシャワーを浴びた岸上は、聖がバスルームに居る間に眠ってしまった。
 ベッドヘッドの所に跪き、寝顔を眺めると、いつも後ろに撫でつけられている前髪がハラハラと乱れている。ほっそりとした指で岸上の髪を弄っても起きる気配はない。
 余程、疲れていたのだろう。出向に来てから殆どの夜、岸上は他の技術者よりも遅く退室していた。ともすれば、徹夜してしまう夜も度々あった。
 昨夜、良く眠ったせいか、聖の身体は随分と回復している。それに比べて、岸上は昨夜もあまり眠っていない風だった。
 今日、早めに抜け出したのは正解だったのかもしれない。
 先程の打ち上げでの出来事を思い出すと、自然と頬が綻んだ。
 あんな岸上を見たのは初めてで、一柳の狼狽えた様も異様にに可笑しかった。
 一柳の顔を思い出したせいで、聖の脳裏には、ふと、思い出された事があった。

──────毛の生えそろったばっかのガキ

 ガキで悪かったなぁ、と思う反面、大人ってどんなだろう? という疑問がもたげる。
 いつも岸上と致す事は致しているが、じっくり眺めた事などない。同級生のものを見た事はあったが、それは小学校の修学旅行で、聖は他人と比べても見劣りはしなかった。早熟な部類に属していたので、今まで大して気にした事は無かった。歳の離れた兄弟はいるが、兄達が大人になってから見た事はない。
 マジマジと岸上の顔を窺えば、やはり、ぐっすりと眠っている。
 この機会を逃す手は無いのではないか?
 聖の頭にはロクでもない考えが浮かんでいた。
 岸上の様子を窺いつつ、そっと、上掛けを捲って、浴衣の帯を解く。起き出す気配はない。
 浴衣を左右に広げると、筋肉質の逞しい肢体が姿を表す。思わず、生唾を飲み込んだ。
 そして、ボクサータイプの下着に手を掛け、ずり下ろした。

─────うわっ

 胸をドキドキさせながら覗いた岸上の局部はやはり立派だった。だが、聖はそれより下の部位から目が離せなかった。

─────普通の状態でコレかよ・・・・・・・・

 変化を遂げた自分の持ち物と、そう変わらない部分に悔しさがこみ上げる。
「反則って言わねぇ・・・・・・・・」
 と、いう事はコレはもっと大きくなるという事で・・・・・・・。
 聖はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

─────起き出す頃には後の祭りってか

 恐る恐る、ベッドに登り、聖は手を伸ばした。
 よくよく考えてみれば、他人の逸物を触るなど、初めての事である。
 躊躇しながら、ソロリと掴み、形を辿るように触れていくと、それは幾分力を持って勃ち上がる。調子に乗って少しずつ擦っていく内に段々変な気分になった。まるで、自分が弄られているような、そんな気がして、自分の股間で存在を誇示するモノに気付かない訳にはいかなかった。

─────やべっ

 いつもイカされてばかりは悔しい。
 だから、今日は逆にイカせてやる。
 そう思って始めた行為はやぶ蛇だった。
 さっさと終わらせて、トイレに駆け込んでしまいたいと思っても、岸上のソレは先走りすら流してはくれない。
 手にした分身を見つめ、聖は途方に暮れていた。
 このままじっとしていたら、岸上が起きるかもしれない。
 いつもはどうだっただろう?
 岸上との行為を一つ一つ思い出し、不意に聖の頬は赤らんだ。
 マジっと、また手元を見つめる。
 
────コレッきゃないか・・・・・・・。

 目尻まで赤くしながら、聖は手元に顔を寄せる。
「・・・・・・・・はぁ」
 だが、なかなか実行に移せない。
 もう一度、岸上の様子を窺ったが、起き出しそうもない。
 今しかないのだ。
「・・・・・・ままよ」
 自分に言い聞かせるように呟きを漏らし、聖は再び手元に顔を寄せた。
 近くで見ると、それは自分のモノとはまるで別物で、単独で生きているかのようにも思える。
 舌を出し、艶を放つくびれの部分にそっと触れた。見た目の通りツルツルとした感触がそれほど不快ではない。他人のモノに触れるのも初めてなら、舐めるのも初めてである。岸上と付き合うまでは、よもや、自分がこんな行為をしようとは想像だにしなかった。
 舐める範囲を広げて、裏側を包み込むように舌を這わせると、それはドクリと脈打ち更に強度を増す。そして、先端に透明の滴を流し始めた。
 もう少し・・・・・・・・。
 完全に口に含んでしまおうと決意を固め、ゴクリと唾を飲み込んだ、その時。
「何がしたいんだ?」
 岸上が低く呟いた。
 聖が顔を上げると、さっきと同じ体制のまま、岸上の目は見開いていた。
「・・・・・・・・・・・」
 だが、この体制では、上手い言い訳が出来ない。何より、正直に事実を伝えるなんてもっての他である。
「そんなに飢えていたのか?」
「・・・・い、いつから起きてたんだよっ!」
「帯が解かれた辺りかな・・・・・・」
「・・・・・・・・なっ」
 なんで、声を掛けないんだ、と叫びたいのに声にならない。
「面白そうだったから、様子を見てみた」
 腹筋のみで起き上がる岸上を凝視したまま、聖は固まっていた。
 つまり、一部始終を知っていて・・・・・・。躊躇していたのも知られた!
 そんな聖の短パンに岸上の手が掛かり、ロクな抵抗もしないままに下肢がさらされる。
「窮屈そうだな」
 岸上の指摘に聖は顔から首まで真っ赤に染めて、股間を慌てて隠す。
「ジロジロ見んじゃねぇ」
 今までにない、初な反応に岸上は眉根を寄せた。
 未成熟な身体を自覚したばっかりに、聖は羞恥を隠しきれない。お粗末なモノを岸上に見られるのが溜まらなく恥ずかしい。
 口は悪いがTシャツだけを着たままで赤面して股間を隠す仕草のあまりの可愛らしさに岸上は見とれた。
「・・・・・今更だとは思うが」
 見慣れていると言わんばかりの岸上の台詞に、聖は益々小さく身を縮めた。
 嫌なモノは嫌なのだから、仕方がない。
 すると、両側から腰をがっしり掴まれて持ち上げられ、オタオタしている間に岸上を跨ぐような格好で座らされ、気付いた時には岸上の足の間にいた。手の甲に硬いモノが当たる。
「しがみつけば見えないぞ」
 言われるままに岸上にしがみつくと、身体が密着してお互いが擦れ合う。
「ひっ・・・・・・・・・」
 二本同時に岸上の手が包み、強弱を付けて擦り始める。いきなりの事に聖は小さく悲鳴をあげる。
 なぜ、岸上がこんな事をするのか分からなかった。
 微妙な部分が擦れ合い、聖の身体は瞬く間に高められた。
「今日はコレで我慢しておけ。無茶をすると、傷に障る」
 別にHがしたくて悪戯をしたのではないのだが、岸上は違う解釈をしていたらしい。
 いつもと違う行為はソフトな分だけ、気恥ずかしい。
 岸上の気遣いが余計に聖を感じさせる。
 もう、我慢出来そうもない。
「・・・・・・あぁ・・。・・・・あんたといると、おかしくなる」
 限界はすぐそこまで来ていた。
 恥ずかしいのに感じるのは何故だろう?
 岸上の顔を見つめると、自然に唇が重なって来て、聖は軽く目を閉じた。
 絡めた舌の感触が優しくて、嫌になるくらい幸せな気分になってしまう。
 腰を揺らされ、激しく擦られた瞬間、聖は欲望を放っていた。
 上掛けに身をくるみながら、聖は自己嫌悪に陥っていた。
 結局、聖がイッただけで、岸上は終焉を迎えていなかった。
「・・・・・・俺は早漏じゃねぇからな!」
 悔し紛れに聖が叫ぶと、岸上は吹き出した。
 声を発てて笑う岸上を初めて見たのだが、聖の悔しさは一層酷くなる。
「誰もそんな事は言ってないだろう。どうしたんだ?」
 笑いながら言われても説得力はない。
「ガキって、慎ましい身体って言われた」
「誰に」
「言いたくない」
 ぶすくれたまま、聖は岸上に背を向けた。
「で、隠したのか・・・・?」
「悪いかよ」
「・・・いや」
 可笑しそうに笑いを含んだ岸上の声に益々聖は意固地になる。
「お前は発展途上の年頃だから、気にする必要はない。14で俺と同じだったら、気持ち悪いだろう?」
「そりゃ、そうだけど・・・・・・・」
 諭すような岸上の言葉に妙に納得しながら、聖は頷いた。
「今日みたいなのも、悪くないけどな」
 後ろから聖を抱きすくめながら、岸上は呟いた。

──────いつかイカせてやるからな
 
 新たなる目標を聖は掲げた。 

◇◇◇◇◇

 ロビーには朝の清々しい空気が満ちあふれていた。
 チェックアウトを済ませ、円形の背凭れがないタイプのソファーに腰掛け聖は岸上を待っていた。 すると、後ろから肩を叩かれ、岸上の姿を期待して振り返ると、そこには一柳がいた。
「よお、今日で帰るのか?」
「ああ」
 業務が終わり今日の一日は自由に過ごして良いとの許可が出ていたので、昼過ぎまで観光する予定を聖達は立てている。
「そっか、色々、済まなかったな」
「終わった事だろ」
 もう、一柳の事はさほど気にしてはいなかった。
「口説こうと思ってたんだが・・・・・・・・」
 頭をぽりぽり掻きながら、言い辛そうに一柳は呟く。聖はソレを聞いて、少し後ろめたい気分になって俯いてしまう。アレは全部本気だったらしい・・・・・・・。
「じゃ、今日までだな」
「ああ」
 人騒がせな奴ではあったが、やはり、別れは寂しい。
「ん・・・。駅に行かないのか?」
 大きなバックを持ち上げて、一柳は出発しようとしていたが、聖が立ち上がりそうもない様子を不思議に思ったようだった。
「うん。行くけど・・・・・」
「岸上さんか?」
「うん」
「そうか・・・・・じゃ、ココまでだな。また、仕事することがあったらよろしく頼むぜ」
 そう言って一柳は握手を求めた。聖も快くそれに応えた。
「こちらこそ」
 鞄を抱え直し、一柳は意外にあっさりと玄関に向かって歩き出した。
 聖がその背中を見送るつもりで眺めていると、一柳が振り返る。
「なぁ、フリーになったら、連絡しろよ!」
 折角のさわやかな雰囲気がぶち壊しになるような事を平気で叫ぶ。
「なるわけないだろ!」
 岸上と別れる事など、考えてはいない。
 一柳は声を上げて笑いながら去っていった。
 ドコまでも人を食った態度が一柳らしくて、笑みが零れた。


 ホテルを出て、駅前からバスに乗り、近場の葡萄園を最初に訪れた。
「こんな仕事は請けるもんじゃないと分かったか」
 おみやげ用のワインを選んでいると、不意に岸上が問いかける。
「・・・・そうだな。でもさ、ココに来て良かったと思ってるぜ」
 ハードな現場でなければ、分からなかった事がたくさんあった。
 人間らしい関係を築いている人達に会うことも出来たし、岸上の意外な一面ものぞき見る事が出来た。それら全てを含める意味で良かったと聖は応えた。
「変わり者だな」
 苦笑を浮かべながら、岸上が呟く。
「あんただって変わり者だよ」

 青々とした空に真っ白な入道雲が広がっていた。

                         おしまい

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やっと終わりましたぁ♪♪