天鵞絨張りの扉は少し軋んで音もなく閉まった。グールド晩年のゴールドベルグ変奏曲が 「夜景を見てたの?」 僕は、一番左のスツールについた。 左手は、神戸の夜景が見渡せる一面の窓だ。マスターは小樽の生まれで、旅の途中に偶 もっとも今は水無月。夜景は良く雨にけぶる。 「いつものでいいですね?」 僕たちの挨拶だ。でも今日は少し違う。 「ダブルで」 と付け加へた。 硝子の抹茶茶碗に入った抹茶ミルクが出てきた。北海道赤井川から空輸で取り寄せた山 真空の静寂に近いグールドのゴールドベルグのアリア・・・。 ********************************************************************************** 別に、私は小樽生まれでも神戸在住でもないのだが、この作品をきっかけにして、本サイトを「ひつじ亭」と改称し、ハンドルも 「ひつじ」に固定することにした。もう一つハードボイルド・ヴァージョンもあった。 |