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銀河鉄道の夜      銀河鉄道の夜は童話には違いありませんが、
        (宮沢賢治)      死ということを色濃く感じさせる作品です。
              新潮文庫
                そこには賢治が最愛の妹、とし子を失ったということが深く関わっているのは
                解説にも書いてあります。

                主人公のジョバンニが、親友のカムパネルラと共に行く銀河鉄道の旅は 
                とても不思議に満ちていて、万華鏡のように次から次へと
                私たちを美しい異次元の世界へと導いてくれます。

                それが作り物ではなくある正確な重みを持って私たちの心に響くのは
                賢治が、身を削るようにしてこの物語を書いたからだ、と思うのです。

                深い宗教性を帯びたこの物語は、最後に再生への希望を私たちに残して
                終わりを告げます。
                                   
                汲めども尽きぬ泉のようなこの作品をこんな形で書くのはおこがましいと知りつつも
                やはり、書かずにはいられなかったのは、
                私の中で非常に大きな部分を占めている作品 だからです。
                                                               


どんぐりと山猫     かねた一郎君が山猫から、おかしなハガキをもらうところから始まる、この物語は
   (宮沢賢治)       何度も繰り返し味わいたくなるお話です。
          新潮文庫
                 登場する山猫や別当は素朴な魅力にあふれています。
                 自然の描写が生き生きしていて、自分も参加しているかのようです。
                
                 そして裁判でワァーワァーとうるさいどんぐりたちを シーンと堅まらせてしまった     
                 一郎君の言葉は、読者をもシーンとさせてしまうほど深いのです。


                                  
 やまなし         -小さな谷川の底を写した2枚の青い幻灯です。- 
   (宮沢賢治)   
      新潮文庫     この最初の言葉で、子供ならたちまち物語の中に引き込まれてしまうでしょう。     
                 2匹の蟹の子供が、青じろい水の底でいろいろなものを見たり感じたりする
                 短いお話ですが、自然をたっぷりと味わうことができます。

                 この中に、「クラムボンは笑ったよ。」などの蟹の子の呟きが出てきます。
                 いったいクラムボンって何?
                 知りたい気もしますが、知らないままあれこれ想像することが
                 このお話を楽しむコツでは、と思ったりします。



貝の火          やさしく強いウサギの子ホモイはひばりの子を助けたことによって鳥の王から
   (宮沢賢治)       貝の火という美しい宝玉を与えられます。
      新潮文庫 
                           この貝の火は赤や黄の炎をあげてせわしく燃える美しく不思議な珠です。
                 この珠を持ってきたひばりは、この珠は手入れ次第でどんなにでも立派になっていくと 
                 告げて去って行きます。

                 この珠を持ったホモイは、りすやもぐらに敬われ恐れられて
                 だんだん得意になっていきます。
                 ずるがしこい狐の甘言にだまされていくホモイは、珠を立派にするどころか
                 最後には、ひどい思いをすることになってしまいます。

                 よい行いをしたはずのホモイが、宝玉を持つことによって出会うつらい試練。
                 そこに、賢治の宗教観を感じます。
                 そして、お父さんの

                 「泣くな、こんなことはどこにでもあることなのだ。それをよくわかったお前は幸いなのだ
                 目はきっとよくなる。お父さんがよくしてやるから、泣くな」
                 という言葉は、ホモイのこれから歩んでいく道が見えてくるようです。