龍と金魚鉢と夏の暑さとの関係 〜氷の冷たさによせて〜


「…………何をしてるんですか?」
 カトプレパスは長い長い沈黙の後に、恐る恐る友人に声をかけた。
 知人が特大の水槽に浮かんでいる姿は、何ともコメントに困るものだ。
 ご丁寧にも水面には氷が浮かび、底には小石が敷かれて水草が揺れている。
 どこから見ても、完全無欠の夏用金魚鉢だ。

 海に棲まう幻獣の長たる海龍。偉大なるレヴィアタンともあろう者がなんて場所に。
 彼の趣味が『ぼんやり水にたゆたうこと』なのは知っているが、あまりに情けなく見える。妙に似合っているのが、ひたすら物悲しい。
「夏といえば、やはり氷を浮かせるものだろう」
「………………問題はそこなんですか」
 果てしない認識のズレを感じて、青年は目眩を覚える。
 どうやら大きな水槽が、非常にお気に召しているようだ。
 時間感覚が非常にゆっくりとした友人は、恐らく今年の夏が終わり、秋が来て涼しくなるまで、ぼんやり金魚となっているつもりなのだろうと。

 ――苦労性気味の幻獣は、溜め息を吐いて諦めをつけた。