裏SSS


 無理に口へ注ぎ込んだ白濁が、ガユスの喉の奥に消えていく。
 ごくごくと鳴る音が響くのを確かめた後で、ギギナはようやく鷲掴んでいた頭を放してやった。
 久しぶりに呼吸が楽になったガユスは、怒るより先に涙目で息を整えている。その姿までも男を誘っているように見えて、ギギナの機嫌は更に上向く。
 排泄器官から出したモノは、これから彼の体内の隅々までを犯していく。下の穴を使うのとは違った、汚してやったという実感がギギナの征服欲を満足させる。
「随分と美味しそうに飲み込むものだな?」
「なっ……」
 かけた言葉に反応して、睨みつけてくる表情にもそそられて、もっと無茶をしたくなる。
 とりあえずガユスが萎える言葉を吐き出す前に、唇は塞いでしまう。内に押し入ってみると、苦味ある残滓が感じられたのが楽しかった。彼に何をさせたのか、よりリアルに感じられる。
 身体も心も何もかも、全てに触れて自分で汚してしまいたい。上からも下からも。全てを自分で染め上げてやろう。
 続きを行うべく動き出すと、相棒は必死に身をよじる。無駄な抵抗まで可愛らしく、苛立ちよりも嗜虐心を煽りたてる。藻掻いた所為で、既に幾度も蹂躙した場所から白いものが洩れ出ているのを見て、にやりと性質の悪い笑みが浮かんだ。
「下の口は行儀が悪い……全部、上手に飲んでもらわねばな」
「うるさい、離せっ……あ、あああ!」
 抗議の叫びは、途中でぐちゅりと濡れた音と共に悲鳴に変わる。ガユスがもっと辛くなるように気を遣って、急所ばかりをこすりあげてやったのだ。軟弱な男はすぐにふらふらと視線が揺らがぜ、正気を失いかける。
 彼の身体は、とっくにギギナに夢中だ。我ながら驚くほどの執着心の求めるままに、丁寧にじっくりと教え込んだ痛みと快楽は、精神を無視して肉体を蝕んでいる。少し腰を揺らしただけで、耐え切れずに鳴き声が上がりだす。じわりと肉を蝕む淫毒からはもはや永遠に逃れられないだろう。
 けれど、まだ足りない。もっともっと自分の全てを注ぎ込んでしまいたい。
 このイキモノは自分のものだと、確信できるほどに。
 このイキモノが、自分が誰のものなのか自覚するほどに。

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01
(07/01/02)



 モデルが本業の従兄がAVに出演したと知った時は、何の冗談かと思った。
 その出演理由が気に入った相手がいたからだと聞いて、酔狂に呆れ果てた。
 およそ女に不自由しないであろうユラヴィカは、ギギナにも何を考えているのかわからない時がある。
 気位が高い割に完全に趣味で仕事を選び、平気で自分を安売りする。今回もそういった気紛れの一環かと、大して気にも留めていなかったのだ。
 だから久し振りに訪れた従兄の部屋で、本棚の奥にひっそりと仕舞われていた数本のビデオを発見したのも、それを手に取ったのも偶然だった。
 いささか下世話な興味本位でパッケージを確認して――ギギナは凍りついた。


 赤毛に青い瞳の青年が、大きな写真の中から真っ直ぐにこちらを見つめている。
 挑発的な笑顔は生意気そうで、組み敷いて屈服させてやりたくなる。プライドの高そうなこの男をねじ伏せて泣き叫ばせるのは、さぞかし気分がいいだろう。
 周囲に散りばめられた小さなカットの中には、うっとりと酔いしれた顔や泣きそうに歪んだ顔が映されており、嗜虐心と同時に庇護欲をそそった。
 この青年が、おずおずと手を伸べてきたら。自分の腕の中で甘い吐息を洩らしたなら。
 そんな想像だけで、理性が焼き切れてしまいそうだ。


 なのに。
 現実には、彼はユラヴィカの腕の中で熱い喘ぎを上げている。
 写真の中で彼を苛む指先は、どんなに似ていても自分ではない。
 その形が相似しているからこそ、無性にやるせなさと怒りが募った。

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02
AV俳優パラレル。Hさんズと盛り上がっていたネタ。
(07/01/02)



 かなり長い間焦らされ散々に煽り立てられた挙句、寝転がる相手の上に跨らされてゆっくりと挿入される。
 この上ない快楽と屈辱に真っ白になる頭に、吹き込まれたのは更なる噴飯ものの言葉だった。
「――欲しいなら、自分で動いてみろ」
 誰がそんな真似をするかと相手をねめつける。しかし逆効果だったのか、余裕の笑みを浮かべた男は、こちらの手を拘束しながら更に自身を煽りたててきた。つい腰が揺れてしまえば、内側にも衝撃が走る。一瞬で昇天しそうな感覚に酔わされ、あられもない声が迸る。
「そんなに、気持ちイイのか?」
「だ……れが……っ」
「まだ足りんのなら、もっと楽しみを長引かせてやろう」
 貴様が満足だと言えるまで、付き合ってやるぞと。
 いっそ優しそうな微笑を浮かべながら、非道な言葉を吐く男。怒りで人が殺せるなら、奴はとっくに昇天している。
 根元を押さえられながら、自身を僅かに腰を突き上げられて体内を苛まれる。途端に強烈な快楽が発生しているのは、あまりにわかりやすい反応で相手にバレまくっているだろう。我慢が長く続かないのも多分、見透かされている。
 本当はわかっている。すっかりわからされてしまっている。
 どれだけ耐えようと、いずれこちらが限界を迎えるまで、相手は余裕を崩しはしない。
 やがてどうしようもなくなって、追い詰められすぎて発狂する寸前で悪魔のように囁いてくるのだ。どうすれば楽になれるか教えてやろうと、親切めかして。
 そして自分は彼の気が済むまで、嬌態を演じさせられる。自ら必死に腰を振って、彼がますます非道な真似をしたくなるよう煽り立てることになる。
 早めに折れてしまった方が、楽に済むとわかっているが、こちらにも意地がある。
 この男を喜ばせるなんて、絶対に御免だ。
「いい子にしろ。今の私は珍しくも、貴様を喜ばせてやってもいいと思っているのだからな」
「……誰がてめえなんかにっ!」
「ああ、まだ満足できないのか?」
 欲しがりだなと耳元で囁かれて、顔も身体も熱くなる。
 そして今夜も、やっぱり男に悦ばされてしまうのだ。

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03
(07/01/06)



「……好きだ」
「何度も同じ台詞を聞いたし、嫌っていうほど身体に思い知らされてるよ」
 ギギナからの告白は、まさにガユスの内に入ってきている最中に行われた。
 憮然として返したのは、戯言のような告白の後は殊更に酷く扱われる気がするからだ。別に台詞自体に文句も感動も無いが、無茶するのは勘弁して欲しい。幾ら言われても同じ言葉を返さない自分に、焦れていたり腹を立てるのはわかるが、それも仕方ないと思うのだ。嘘は、吐きたくないから。
 応答の間も緩やかに身体を動かされて、息が荒くなっていく。
 別に身体で繋ぎとめてるつもりは無いが、自分がずるい真似をしているとは思う。愛してなどいない相手に、それでも傍にいて欲しいとは思うから、差し出せる身体だけでも好きにさせている。だから、嫌になったなら傍にいたくないならそう言ってくれればいいのに。そう告げるのも脅迫に近い免罪符を求める行為なのだとわかっているけれど――言わないのと言えないのと、どちらがマシなのか。
「いい加減、飽きたりは……」
「しない」
 告白に、行為に、意味のないじゃれ合いに。溜め息混じりの言葉は、思いもよらぬ早さで遮られる。
 その真剣さに、ついほだされて顔が熱くなった。
 隠したつもりの心の動きに身体はちゃんと反応し、内側にあるものを締め付けてしまう。
 微かに眼を細めた男は、それ以上は何も言わずに相棒の身体を執拗に揺さぶり始める。これ幸いとガユスが激しさを増す動きに身を委ねたのは、恥ずかしくも鬱陶しいはずの言葉に動揺する己を指摘されるのが嫌だから。木石ではあるまいし、熱烈な告白を幾度も繰り返されれば心揺らがぬ訳もない。仮にも一応、それなりに好意はある相手なのだ。口先ではどれだけ罵り合っていようと、それがLoveではなくLikeであったとしても。
 無言で互いを貪る行為に変化が現れたのは、ギギナが洩らした微笑が発端だった。ぐちゃぐちゃと悩ましい思考に沈んでいたガユスは、珍しい表情の変化を怪訝に思って小首を傾げる。そもそも理性を保てる状態が続くのも滅多にないことだ。ケダモノの相手をしていると、大抵はすぐに理性が飛ばされてしまう。その方が恥ずかしくないから良いのだが、今日に限って男は加減しているようだった。何をたくらんでいるのか怪しんで、眉間の皺がぎゅっと深まる。
「どうかしたのか?」
「いつもより、随分と締まりがいいな?」
 甘やかに微笑みながら、とんでもないコトをさらりと告げられる。
 いっそ呆然として覆い被さる相手を見上げてしまったガユスは、一瞬の後に真っ赤になって暴れ出した。離せともがくのも束の間、より深くを突かれてあられもない嬌声を上げさせられる。
 どうしてこんな、性質の悪いイキモノに好かれてしまったのだろうか。
 好きじゃない相手になんて、どれだけ執着されようとも迷惑でしかない。
 だけど、どうしても突き放せないのも事実なのだ。

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04
我ながら裏と表の基準が曖昧です・・・
(07/01/07)