夜より生まれて闇へ沈む |
抱いた相手におもねるような真似をしたことはなかった。 欲しいからと手を伸ばして、手の内に落ちてこないイキモノはいなかった。 だから眼の端をかすめた赤毛に衝動のまま手を出しても、何の罪悪感も覚えなかった――最初は。 嫌がって暴れる相手の力はあまりに弱く、寧ろ煽られて無茶な行為を強いてもみた。 回数を重ねるごとに、諦めたように相手の抵抗は無くなったが、感じる飢えはいつしか増し始めていた。 相手の機嫌をとろうなどと考えた経験がないから、どうしていいのかわからない。 長く傍にいただけあって、彼の好き嫌いの幾らかは把握しているつもりだ。しかしそれは経験論であって、自分が何をすればガユスが喜ぶかは思いつかなかった。つまり思い出す限り、ギギナが相棒を喜ばせた記憶は皆無である。 技巧の限りを尽くし、丁寧に身体をなぞって悦びの声を上げさせることは出来る。 だが、それしか出来ないとも言い換えられる。 毎夜のごとく求める自分を鬱陶しがっているのを理解しても他の術を知らず、今夜も相棒をこの手に捕まえる。 せめて、その身体は逃がさぬように。 愛が無い、どころか嫌悪さえ感じていても、男の身体は生理的な反応を返す。 手馴れた動きで銀のケダモノはこちらを煽ろうとしているが、そこまで面倒な真似をしなくても、乱暴に突っ込んでこようが結果は同じだ。 らしくもない気遣いなどせず、勝手にすればいいのに。低脳ドラッケンにしては酔狂な真似をする。 反射的に息を荒げ、喘ぎを漏らして、精を吐き出す。 内側に熱い奔流が叩きつけられて、満足しただろうと身体を離そうとするが、鬱陶しいことにケダモノはまだ解放しようとしない。面倒になって勝手にしろと力を抜けば、それも不満げに顔を歪める。 苦々しい表情さえも美しい男を、これまた一般的感性の表れとして綺麗だと感じながらも、その感動は好意には結びつかなかった。 僅かに汗ばんだ身体がそっと寄せられて、丁寧に髪を梳かれる。もうこれ以上何かする気がないなら、さっさと離して欲しい。夜明けまで残り少ない時間を休息したい。これ以上、傍にいたくないんだ。 どうしようもない腕力差があるから、今更逃げ出そうとするのが無駄な努力だとわかっている。だから何も言わないが、心底相棒が鬱陶しくてたまらなかった。 強く抱きしめられて、痛いから離せと訴えると、焦った表情で力が緩められる。 その顔が面白くて少し笑ったが、緩んだ腕が離れてはいかないのに気付いて不愉快になった。 いっそ跪かれて愛を請われたなら優越感に浸れるかもしれない。そうすれば、鬱陶しい男を少しは可愛いと思えるのかもしれなかったが。 この男が何を望んでいるのか、どんなに考えても答はでなかった。 |
《終》 |