晴天のち乱気流


 清々しく晴れた日。
 爽やかな風が吹き込む事務所の中で、のんびりと事務処理をしていた俺は――何故か必要に駆られて、力一杯暴れていた。
 しかし、哀しいが予想通りに、抵抗むなしく馬鹿力なケダモノに押さえ込まれてしまう。
 何のつもりだと睨みつけるが、やはりというか奴の腕は、真昼間だというのに不穏な気配を伴ってうごめき続ける。ナニをされかかっているのか、わからない振りをしたいがそんな訳にもいかない。
「……おまえは、盛りのついた狼かっ!?」
 絶叫した直後に、あんまり洒落にならない台詞だと気がついた。言いえて妙だとは、あまり思いたくもないけど。
 思えば最初の強姦(……だろうな、アレは)から、良くてもソファとか、床とか風呂場とか、あんまり真っ当とはいえない経験値を溜めてきた、が。
 よもや、ここで襲われる日が来ようとは。
 毎日仕事に励むために通う場所――事務所の、己が日々事務仕事に追われる机に座らされて。以前、屋上でヤられたのよりはマシだが、ある意味ではもっと嫌だ。
「何を考えて……んっ……」
 深くくちづけられて、言葉が奪われる。やがては思考さえ。
 舌を絡めとり口蓋を撫ぜて唇に甘く噛み付かれて。適度に呼吸しながらの優しいくちづけに酔わされている間にも、ギギナの手は俺のズボンを脱がせにかかっている。目的を考えると当然だが、場所を考えるととんでもないので、力の抜けかけた腕で必死に抵抗。真昼間からシャツから下着まで全部はぎとられるのも御免だが、下肢だけ剥かれてる格好も遠慮したい。というより行為そのものを辞退したいのだ。
「いつもより反応が早い――仕事場で犯されると思うと、興奮するのか?」
「ばっ……なっ……」
「淫乱な奴だ」
 耳元で囁かれるのは、ひょっとすると睦言のつもりなのか否か、ただでさえ熱い身体の温度が更に上昇する言葉。彼のやり方に馴染んでしまった肉体は、おそらくは思惑通りに応え始めている。
 ぴちゃりと音が聞こえるように耳を食まれて、びくんと背筋が跳ね上がる。力無く胸元を押していた腕はまとめられ、いつのまにか後ろ手に拘束された。
「ちょっとまてっ、こんなところじゃ嫌だって!!」
 せめて仮眠室の寝台まで移動しろと、墓穴を覚悟で訴えたものの、相手の心の琴線には全く触れた様子が無い。むしろ煽り立ててしまった気配すら、する。
「うるさくしない方がいいぞ? 誰かに聞かれたら恥ずかしいだろう」
「恥じゃすまな……や……あうっ!」
 下着の中まで忍び込んできた右手が、やわやわと悪戯を始める。首元に顔を埋められ、左手を背にまわして不自由な身体が支えられる。こちらはせめて自由になる頭を仰け反らせて――喘ぎ声を上げるばかりだ。
「やだ……あ……」
「汚れたら困るだろうが?」
 嘲るような皮肉な微笑。口先だけの抵抗を気にするはずもなく、足首まで下ろされたズボンと下着で、足の動きも制限される。白いシャツ一枚にされている己を見たくなくて、ぎゅっと眼を閉じた。
 膝裏をつかまれて腰が浮かされ、濡れた右手が奥へと伸ばされる。潜りこんで来た指先が動く度に、びくびくと身体が震える。痛いのではなく、気持ちよくて。息が荒くなり、こわばる身体が蕩かされる。悦楽に飲み込まれてしまう。
 背筋を走る刺激に仰け反って倒れそうになる身体を、不自由な腕で必死に支えた。多分、机から転がり落ちる前にギギナが抱えてくれるとは思うのだが。こちらが意地を張っている間は、奴は手出しして来ない。甘やかされたい訳じゃないから構わないけれど。強情を張るほどに、余計に男を楽しませているとわかってはいるが。
 そもそも大抵の状況では暴れない方がおかしいと思うのに、抗うほどに酷い目にあわされるのは、間違いの無い事実だ。冷静に見えて激しやすい男は、俺の嬌態を煽る為に(もしかすると俺に煽られて?)段々と最初の丁寧さを忘れて俺を惨い方法で貪り始める。殺されはしないけれど、いっそ全てをさっさと終わらせてくれと叫び出すくらいに。
 とりあえず。
 明日からもこの机で仕事するのだと思うと、ちょっと泣きたくなった。
 しかし、そんな無駄な思考もすぐにケダモノに混濁させられる。
《終》

晴天乱気流……晴天で雲ひとつ無い時に起こる予測困難な乱気流



さるべーじな3つ目。
わぁようやくガユス視点だ〜。
これ以後、仕事の最中に、
ナニかを思い出しては赤面してたりすると楽しいでしょうが。
(ギギナが。もしくは私が)
晴天乱気流の略称はCATとのことで、猫っぽくて楽しい。