破 壊 衝 動


「お……まえは、俺を……ろす気か…………っ!?」
 事務所のソファで無理矢理コトを始めてから数時間。
 荒々しく身体を揺さぶられながら、青年が必死に叫ぶ。
 その間も奥までこすりあげる度にあられもない喘ぎが零れて、言葉は途切れがちになる。あまりに可愛らしいので腰を引き寄せてより深くを犯すと、甲高い悲鳴と共に絶頂に達した。が、こちらは未だなので動きを止めたりはしない。
 不明瞭な言葉への返事を脳内で考え、あまり気に入る答が思いつかなかったので黙殺すると決める。不快な質問は、聞こえぬ振りをするに限る。余計な言質を与えると、腕の中の男は戯言を捏ね繰りまわすだろうから。
 殺す気など微塵もないが、全てを壊してでも自分だけのものにしたくはなる。理性だとかプライドだとか、彼に無駄口を叩かせて行為から逃れようとさせるもの。それこそが『彼』を形どるのだとしても、すべてを。彼の全ては自分だけのためにあればいい。だが、口に出せば盛大に嫌がられるとも予想がつくので黙っておく。
 自分が望むようには、彼は応えてくれない。欲しがってはいない。
 それでも、手離してやる気にはなれない。
 彼が更に言い募ろうとする気配を察し、身を起こして座位へと移行。自重のせいでより深くを貫かれ、仰け反りながら一際高い嬌声が上がる。精神的にも肉体的にも限界が近いのだろう。泣きながら首を振って拒絶を示す青年は、もはや錯乱状態に近い。目尻から零れた雫を舐めとってやれば、その刺激にさえ身体をびくびくと震わせて反応を示した。
 そのまま頬から首元へと舌を這わせ、赤い刻印を幾つも刻む。その度に内側深くに飲み込ませたものが締め付けられるのが心地良く、幾度も愛咬を繰り返す。追い詰めるほどに理性が剥ぎ取られ、論理の武装が失われて素のままの姿が現れる。
 すっかり慣らした身体は従順に、躾けた相手の思惑に応えてくる。この身の飼い主が誰であるのかを、身体はちゃんと覚えているのだ。恐らく彼の心とは裏腹に。
 与えているのは痛みではなく快楽だけのはずだが、悲鳴はかすれ腰は動かすままにガクガクと揺れている。強すぎる刺激は苦しさを伴っているようだ。それでも奥で触れる部分がたまらなく気持ちイイらしく、かすれた喘ぎも震えも治まる気配はない。
 自分より体力の劣る彼にとっては、今夜の長い戯れは苦痛だろう。平均からみれば青年は貧弱でも無いが、競う相手が悪すぎる。男はまさしく化け物並の体力を持っている。本当に満足するまで付き合わされては、命も尽きかねない。しかし人形のように力なくされるがままの姿が不満で、彼自身をこすりあげてみれば、再び泣き言をこぼし出す。
「ほんと……に、殺す、気だ……ろ……」
「――壊してしまいたいと思うことはあるな」
 大丈夫だ殺したりはしないと口元で微笑みながら、眼差しに暗い影を過ぎらせる。
 嫌がられると思いながらも、つい呟かずにいられない。
 ひとつに混ざりあう刹那に全てを壊してしまえば、この上ない悦びを味わえるだろう。
 大事にしたい守りたいと思っている。傷をつけたい訳ではない。そう思いながらも全てが手に入るのなら、壊して狂わせ殺してしまいたいと考えてしまう瞬間がある。相反する感情を制御できない一瞬が確かに存在する。
 洩らしてしまった言葉に、青年は嫌悪を示すだろう。そんな反応は見たくないが、いっそ自虐的な想いで瞳を覗き込む。しかし相手は怯えではなく呆れた気配を滲ませ、手を伸ばして抱きしめ返してくれた。渇望する想いを満たす仕草に、無性に喉が熱くなる。人間が泣きたくなるのは、こんな時ではないのだろうか。

 身体だけではなく、心までも差し出される。
 その瞬間に、自分こそが壊れてしまいたくなる。
《終》


さるべーじなもの。
相変わらず、なんだかぬるく。
しかしギギナ視点ばかりだ・・・(汗)