望むのはただひとつの。


 愚にもつかぬ言葉を吐き続ける口を、最も相応しい方法でふさぐ。
 無駄なほど回転する頭脳は、誤作動を起こしているようだ。離せ離せと聞き飽きるほど同じ台詞ばかり繰り返している。
 叩いたり引っかいたり、暴れ続ける男は抵抗しているつもりなのだろうが、組み敷く自分を押し退けることはできない。非力さは哀れなほど、足掻く姿はより情欲を煽り立てる。
 見上げてくる瞳は怒りと、いささかの恐怖を秘めながら生理的な涙で潤んでいた。更なる反感を誘うのを承知で、嘲りをこめて口元を歪めてみせる。とたんに負けん気の強さを取り戻し、怯えを一掃した男が背中に爪を立てる。食事中の猛獣を更に挑発するとは、本当に愚かな男だ。
 だが多少の粗雑な扱いに竦むなど奴らしくない。いや、らしいのかもしれないが他ならぬ自分が相手である以上、怯まず萎えるほどの罵詈雑言をまくしたてるべきだ。余計にこちらを熱くするとは気付かずに、自ら地雷を踏む行為こそ彼に相応しい。


 とっくに剥き出しにした喉から胸元へと、ゆっくり舌をはわせていく。
 恥辱に顔を染めた男は、こちらを睨みながらも身体を震わせる。次第に荒くなる呼吸から、彼が隠したがる変化が窺える。緊張している所為もあろうが、元から感度が良すぎるのだ。上半身を嬲るだけで、彼は隠しようもないほど反応していた。びくりと跳ねあがる部位を丁寧に刺激する。切れ切れの鳴き声が洩れるまで、大して時間はかからない。
「……い、い加減にしろ、ギギナッ!」
「うるさい。だまれ」
 急所を狙って蹴りつけて来た足首をつかみ、大きく開かせる。間に腰を押し進めれば、眼に見えて顔がひきつった。
 抵抗を無視して身体を開かせるのは、容易いことだ。腕力の差にモノを言わせれば、どれほど抗おうと逃げられない。逃がしたりしない。


 こうやって幾度となく夜を重ねているのに、彼はいつになってもこちらを受け入れない。
 身体はとうに慣らされているのに、精神はいつまでたっても拒絶するばかりだ。欲望に流されて自分から手を伸ばした後でも、それを認めまいとする。己の浅ましさを耳元に囁けば、体中を赤く染めて恥らうというのに。正気に返れば何も覚えていない振りをする。
 強情な態度は初々しく、何度でも新鮮な楽しみを与えてくれる。しかし同時に募るのは苛立ちだ。時に己の悪趣味さをこそ嘲笑ってしまう。面倒で手間ばかりかかるイキモノ。もっと簡単に手に入るものがあるのに、どうしてもこれでなければならぬ理由はないはずなのに。
 なのに、鳴きながらのけぞる男の乱れ狂う姿を見るだけで、全てが満たされる心地がする。これだけがあればいい、これだけは手離せない。訳などないが、これでなくてはならない。
 それと同時に空しさをも感じてしまう。まだ足りない。もっと、全てを手に入れたい。


 衝動に駆られるままに、がぶりと喉元に噛み付く。
 このまま喰い殺して、誰にも触れられぬ腹の中へと仕舞い込んでしまおうか。
 望むのはただひとつ。ただこれだけだ。
《終》

あるヒトからガユスをますます虐めたくなると、
本人はきっと不本意だろう感想を頂けたシロモノ。
彼女が裏でおっけーだといってくれたので、裏手に配置です。
……我ながらぬるかったかと思いつつ(笑)