祝賀パーティーの記録集であるがごとき豪華 さと満腹感---- おりおりの現代思想「総特集・上野千鶴子」(2012.1.18)まず、執筆者の幅が広い。 本職である社会学やジェンダー論はもとより、哲学、文学、歴史学、臨床心理学、精神医学などの専門家に、女性、高齢者、障害者、在日コリアンの支援の現 場にいる人たちや、浮世絵研究家、詩人、編集者、政治家に至るまで、よくもまあ、これだけ多くの人とケンカ(もとい)、議論を重ねてきたものだと感服す る。 冒頭の小熊英二によるインタビューは、「上野千鶴子を腑分けする」のタイトル通りに、学生時代から現代に至るまでの上野千鶴子の軌跡をたどり、上野千鶴 子の深層/真相に分け入ろうとした力作だ。(今後、上野千鶴子で卒論を書く人には、必読となるだろう。)また、最後の東大・上野ゼミの卒業生4人による座 談会は、出席者の社会的地位を度外視した赤裸々な告白にさえなっている。 もし、上野千鶴子の東大退官とWAN理事長就任を記念し、あらゆる上野千鶴子の関係者を招待して、3日3晩は徹夜で続くような大パーティーが行われたと すれば、このような来賓のスピーチがなされたであろうし、特別企画としてのロング・インタビュー動画もながれるだろう。また、詩の朗読や弟子による「ここ だけの話」などの余興もあっただろう。そんな盛りだくさんのパーティーを完全に記録したならば、きっとこんな本になるにちがいない。そういう本だ。 心得た来賓たちは、自分が知っている限りの上野千鶴子を語り、しかも、それぞれが上野千鶴子の全く異なる視点から、上野千鶴子の異なる活躍ぶりと、思い もよらない一面をを描きだしてくれる。 聴衆はスピーチを聞いているだけで、上野千鶴子の大きさや懐の深さ、鋭さと厳しさ、あるいは、やさしさや可愛らしさまでもを思い知ることになる。そし て、そこで語られた全てのエピソードが、上野千鶴子というたった一人の人間から生まれたという事実に、本当にとことん圧倒され、時には底知れぬ恐ろしさの ような ものさえ感じさせてしまう。 そして、このような「パーティー」の常として、ごく少数だが、せっかくのスピーチだというのに(少し飲み過ぎておられるのだろうか)、上野千鶴子に対し て無用の対抗意識を燃や し、瑣末な批判を並べて勝手に悦に入っているような者もいる。そんな大人になりきれない人など放っておけばよいとしたものだが、そんな人物に限って男性で あることに、同じ男性の一人として いささか居心地が悪い。 そんなことさえ除けば、あー楽しかった、あー美味しかった(何が?)と思いつつ、心地良さとともに家路につくことができる。 そういう本だ。 |