マニアごころを持っていたまんが専門店

                -----追悼・駸々堂書店(2000.2.1 少女マンガMLへの投稿を修正)
 関西まんがファンにとって無くてはならぬ存在だった「駸々堂」が倒産してしまいました。

 阪急ファイブの 5階にあったかつての梅田店は、ひっきりなしに原画展やサイン会をやってくれていたし、同人
誌の委託販売もいち早くやっていた貴重な書店でした。しかも、まんがだけでなく、映画関係の本やSF・推理小
説などまんがマニアがついでに興味をひきそうな分野の本がありましたし、スクリーントーンなどのまんが関係の
画材も売られているような嬉しい品揃えをしてくれた店でした。

 その頂点は、1979年の竹宮恵子の豪華本「Passe Compose 過去完了形」の刊行でしょう。当時、竹宮さんの
サイン会が毎年のように
駸々堂で行われていた縁もあるのか、竹宮さん自ら編集しており、思わぬ大物を登場
させたり、竹宮さんもプライベートな写真を提供するなど意欲的に作られた本でした。

 基本的には、扉絵などのカラーイラストを集めてあるのですが、間にちりばめられた記事の密度が濃いので
す。まず、寺山修司の「竹宮恵子・賛」、寺山修司との対談(写真は沢渡朔)。
 「変奏曲第2部−ニーノ・アレクシスその旅路−」が描きおろしで40ページ。その後には、石森章太郎が「マンガ
家入門」でやっていたような自作分析・解説を「変奏曲外伝」を題材に12ページ分もやってくれていたりします。
 その後も、プライベートなヨーロッパみやげの小物や少年合唱団のレコードに、自宅インテリアなどの写真。
さらにコメントが小松左京・手塚治虫・水木しげる・脇明子・鏡明と続きます。座談会は永井豪・中島梓と3人。
パリ旅行でのスナップに、生い立ちインタビュー。光瀬龍との往復書簡、さらにお友達・弟子関係の伊東愛子・
花郁悠紀子・ささやななえ・森崎偏陸・たらさわみち・ベルネのコメントなど。最後に竹宮さんのあとがきがあって、
A4版175ページ、3,500円でした。(1)
 
 阪急ファイブの改装で地下に移ってからは、ずいぶん狭くなってしまい、ただのまんが専門店になってしまい
ましたが、それでも、たまにのぞきに行ってうっかり大量のまんがを抱えて帰るには、十分な品揃えでありまし
た。

 また、神戸・三宮にも地震のあとに巨大店舗を出店していたのですが、先日もまんがコーナーに置かれていた
「レファレンスノート」を読んで、店員さんの深い知識と思い入れのある返答に感動していた矢先でした。「自己破
産に伴い社員は全員解雇」だそうですが、熱意と愛情をもって仕事をしている社員のいる会社がなくなってしまう
のは、残念でなりません。

 そして、単に書店がなくなるということよりも、まだ20代だった竹宮さんと握手をするために行列をした、まだ
10代だった私の思い出の舞台が
消えていってしまうことに、特別な想いをいだいてしまうのかもしれません。

 (1) 実は、その当時学生だった私には、3,500円の豪華本は手が出せなかった。今、手元にある「Passe Compose」
  は、ずいぶん後になって古本屋で購入したものだ。ちなみに、800円だった。

 * 梅田店は阪急電車系の「ブックファースト」に引き継がれ、まんが専門店として健在である(店員まで引き
  継いでいるのかはわからないが)。ただし、微妙に棚の位置が変わったりしたせいで、最初は本を探しづらかっ
  た。三宮店跡には書店は入っていないが、道をはさんた「ジュンク堂」が巨大店舗化して、マンガコーナーも
  それなりに充実している。