どこかしら自画像に似ている若き日の御尊顔
―――
「坂田靖子 ふしぎの国のマンガ描き」を読む(2016.4.27)
1800円という売価を見たとき、少しためらった。
しかし、いい大人がこれくらいのことでひるむもんじゃないと思って購入すると、これは、それだけの値打ちのある本だと納得した。
豊富なカラーイラスト、けっこうボリュームのある短編作品の再録に始まり。
20ページを超える坂田靖子ロングインタビューに、萩尾望都との「スペシャル・金沢・対談」、
ささやななえこ・佐川俊彦夫妻に聞く「坂田靖子とJUNEの時代」、
坂田靖子と波津彬子の対談による「兄弟仁義とその時代」の採録、
村上知彦、土居安子、ヤマダトモコ、雑賀忠宏による論評に、年表、作品リストと実に豪華だ。
昔、「ぱふ」がこんな雰囲気だったなあ、と思い出す。
情熱があって、愛情があって、懸命に坂田靖子の魅力を表現しようとする。
「名作ガイド」やイラストやカットに付せられた説明文などの無署名の文章も
豊富な知識に裏打ちされた解説が的確で、読んでいて心地よい。
「ぱふ」と違うのは、紙質が良いのと、カラーが多いのと、まあ、要するに、定価が高い分、製作段階でお金と手間がかかっている。
肉筆同人誌だった「ラブリ」第1号の紹介ページもあり、
坂田靖子や花郁悠紀子、ゲストのささやななえこのカットなどがカラーで再現されている。
そして、なにより貴重なのは、坂田靖子が萩尾望都にあてたイラスト付きのファンレターと、
若き日の坂田靖子と萩尾望都のツーショット写真だ。 (ふたりとも、どことなく戯画化され過ぎている自画像に似ているのが不思議だ。)
ファンはたまらないだろうと思わせるページをちゃんと用意してくれる手堅さは、
やはり、「図書の家」の面々の編集力であり、愛情のなせる業なのだろう。
前言を撤回しなくてはなるまい。 これだけ盛りだくさんで1800円とは、実にお買い得だ。
トップ
書評
|