人さえも殺す沈黙の演技- 「スジナシ」の李麗仙(2000.8.7)
「スジナシ」というテレビ番組を知っている人はどれだけいるのでしょうか。関西エリアでは毎日系の日曜日の午前11時からの30分番組なのですが、制作している名古屋では深夜番組のようです。 (1)笑福亭鶴瓶とゲストの二人が、設定だけで台本のない10分程度のドラマを即興で演じ、番組後半でそのドラマをもう一度見ながら、ゲストと二人で反芻するという番組です。(蛇足ですが、鶴瓶は、似た手法を読売系「パペポ」の後継番組「最後の晩餐」の「白い本」という企画でも使っています。(2)) その日のゲストは李麗仙、状況劇場の往年の名女優です。設定は、病室。パジャマ姿の鶴瓶がベッドに寝ています。スタートと同時に、李麗仙が見舞いにやってきます。いくつかの会話ですぐに「夫婦」という設定が定まり、 しかし、ドラマは終わりませんでした。鶴瓶が寝入ったのを見届けた李麗仙の顔からは笑いが消え、急に事務的にサクランボの包み紙を片づけると、改めて自分に何かを言い聞かせるように鶴瓶の顔を見つめるのでした。それが何を意味するかは誰の目にも明らかでした。「はいッ、OKです。」の声がかかったのは、その演技を十分に堪能した後のことでした。 「えーっ、これ、どういうことや。お、おれ死ぬんか。検査入院やいうてたやないか。こわいわ、この人。」 この番組の魅力は、台本という「仕掛けを持たない」という仕掛けによって生み出される「聖なる一回性」をマス・メディアで楽しんでしまおうというところにあります。「らくごのご」を持ち出すまでもなく、笑福亭鶴瓶はこうした即興のやりとりをコントロールすることを最も得意としており、何が起こっても自分の力でドラマの流れをしっかりとつかんで番組として成立させてみせるという自信がこうした番組の企画を通したといえるでしょう。 「もういっぺん見せて、もういっぺん」 本気でうろたえる鶴瓶のリクエスト
で巻き戻されたモニターの中の李麗仙は、確かに、見下ろしている顔の表情だけで、軽い眠りについた鶴瓶の「退院後」を「殺して」いました。 (1) 関西エリアではいつのまにか放映されなくなり、2001年4月からはBSデジタルにネットするようになってしまった。見る側が努力 すれば全
国どこででも見ることができるということかもしれないが、かえって地上波でのネットの可能性が低くなったようで残念。 (2) この番組は、2002年3月に終了。その後、鶴瓶は、「ますだ・おかだ」「アメリカザリガニ」という松竹の若手を率いて即興トーク・ |