鮮明に映像化されるオマケ脚本で描かれる10年後のハピネス三茶
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木皿泉「すいか2」を読む(2013.9.8)
このたびの文庫化は、2003年のドラマ放映後からちょうど10年に当たる。
「たまたま」だったのか、「狙った」のかについてはよくわからないが、
あの奇跡のように幸せな物語とともに過ごした夏から10年の時が流れたのかと、少なからず感慨にふけりながら読み進めたのは確かだ。
そして、教授がハピネス三茶を旅立った第10回の後に、さりげなく「オマケ」と題された脚本が添えられていた。
それは、ハピネス三茶に届いた一本の電報から始まる。
「日本時間の8月5日、そちらに帰ります。」
教授からだ。
ゆかちゃんは、今でもハピネス三茶の管理人として暮らしている。
間々田さんは、相変わらずハピネス三茶に出入りしているらしい。絆さんも基子も、もうハピネス三茶にはいない。
連絡を受けた絆さんは、ずいぶん暮らしぶりが変わったようだけど、今でも、自分自身のいろんなこだわりを最優先にしながら生きている。
一番変わっていそうな基子さんが実はちっとも変っていないというのも、それはそれで、すこぶる基子さんらしいというべきか。
何があったのか、基子の母の方がよっぽど変わってしまったようだ。
それにしても、馬場ちゃん。
あなたは、まだ、そんなところにいたんだね。そのうち、退屈だった信金OL時代と負けないくらいの時間がたっていくよ。
生沢さんって誰だっけ。
あーっ、あの時の刑事さんか。あなたの近況にも驚かされたけど、ガサツな行動と乙女な心は変わっていないね。(1)
教授は、変わったのかな。
いや、変わってない。はるかイタリアの地から、わざわざハピネス三茶に戻って来ようというのだから。
どうしているのか心配だった「泥船」のママも、最後に登場した。
あなたは寡黙なようで、一番大切な言葉だけをきちんと話す人だったね。
読み進めるうちに懐かしくなる新しい物語。 30ページ弱・40場面は、他の脚本と比べると30分ほどの分量だろうか。
それぞれの登場人物の言葉はそれを演じた役者の声と演技で再生され、
脚本を読むだけで存在しないはずのドラマが鮮明に浮かび上がってくる。
もう、このオマケだけで一冊の値打ちがある。
それと、「あとがき」で改めて教えられたのだが、
木皿泉は「すいか」を書くにあたって、「毎回、誰かに食べるものを恵んでもらおう」と決めていたらしい。
たしかに、毎回、みんなで楽しそうに食事をする場面が多いとは思ったが、
「刺身のトロに始まって、ケーキ、豆腐、桃、メロン、米、松阪牛、饅頭、松茸」と、 こんなにらもらっていたとは。
(「オマケ」だと、間々田さんの蕎麦か。)
気になるので、もう一度、1巻から読み返してみよう。
(1)
余談なのだが、オマケ脚本の中で、刑事さん(片桐はいり)の結婚式会場で密かに馬場ちゃん(小泉今日子)が働いているという場面があったのだが、
当時の朝ドラが「あまちゃん」で、そのクライマックスシーンが小泉今日子と片桐はいりと薬師丸ひろ子(この人も、木皿泉ファミリーだ)の合同結婚式
だったので、
そのシンクロぶりに密かに感動していた。