上方演芸の過去から現在までを重層的に描く労作

                                   ――― ワッハ上方編「上方演芸大全」を読む(2013.12.14)

大阪府立上方演芸資料館(ワッハ上方)編による二段組500ページの大著である。

第1章「漫才」98ページ、第2章「落語」128ページに始まり、第3章「喜劇」42ページ、第4章「浪曲」42ページ、第5章「講談」18ページと続 き、
第6章では太神楽、曲芸、女道楽、奇術、ものまねなど「諸芸」にも28ページをさき、
第7章「上方演芸とメディア」、第8章「作家・裏方」、第9章「劇場・寄席・小屋」と演者以外の章もあり、多様な側面から上方演芸を描き出している。

各章は、それぞれの演芸が成立した江戸期から現代にいたるまでの歴史、古今の演芸人の名鑑、東西比較、コラムなどで構成される。
江戸時代絵図や、演芸人、寄席の番組、チラシの写真などの図版も豊富だ。

戦災で劇場を失った漫才師が宝塚新芸座で喜劇を演じたり、
占領下に多くの演目が禁じられた浪曲師が漫才や音楽ショーに転じたり、
漫才作家の秋田實が「笑の会」を立ち上げ一時沈滞した漫才を活性化したりという歴史を、
漫才側、喜劇側、浪曲側、作家側という、異なる立場から描かれるあたりも面白い。

主な執筆者は、漫才を織田正吉、落語を前田憲司、喜劇を廓正子、 浪曲を芦川淳平、講談を旭堂南陵、諸芸を山口洋司、
メディアを井上宏、 作家を古川嘉一郎、劇場を米田亘と、当代きっての上方演芸研究者や語り部たちである。

それぞれ11ページに及ぶ上方演芸年表と索引も含めて、
上方演芸について知りたいことがあれば、この本一冊だけで大づかみには分かるという、まさに大全と呼ぶにふさわしい労作である。

そして、この本が出版された2008年が、
大阪府が世界に誇って良いはずの「大阪府立上方演芸資料館(ワッハ上方)」にとって まだ幸せな時代で、
こんな立派な仕事が出来ていたのであることを、しみじみと感じさせられたのだった。 (1)
 


   (1) 大阪府立上方演芸資料館(ワッハ上方)は、2013年当時の大阪府知事橋下徹の方針に基づき展示室・演芸ホールが閉鎖され、演芸ライブラリーのみ が残されている。

     創元社サイト内「上方演芸大全」ページ 
     「大阪府立上方演芸資料館」サイト                        
     Wikipedia「大阪府立上方演芸資料館」ページ

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