無機質な団地に抵抗し、自主的な雑木林を作るという暮らし方

                             ――― 映画「人生フルーツ」を見る(2017.4.19)


強く勧められて見た映画。とはいうものの、さほど乗り気では なかった。
というのも、主人公は日本住宅公団で、多くのニュータウン開発を手掛けてきた建築家。
齢90歳の主人公と、その妻との二人暮らしを描いたドキュメンタリーと言われても、 なかなか食指が動かない。

ところが、この主人公・修一さんがとんでもない人だっ た。
地形と自然が活かされるよう自ら設計したはずのニュータウンが、
戸数重視に設計変更され盛土・切土で平坦で無機質な集合住宅団地に変貌すると、
その一角を購入し自宅にすると、庭に木を植え、自主的に雑木林にしてしまう。

自分が設計した理想的な街に、現実のニュータウンをほ んの少しだけ近づけるという、
ささやかな抵抗を長年にわたり実践し続けた人なのである。

しかも、家は建築の師・レーモンドにならって、平屋・ 30畳一間・高天井。
庭では何十種もの野菜が育てられ、何十本もの木が果実を実らせる。
その恵みは意外に豊かで、ジャムにしたり、茹でて冷凍にしないと食べきれない。
家を出た子どもたちにも、ミネラルウォーターの箱に詰めて送っている。

たまに、妻の英子さんが買い出しに行くのは、先代から のつきあいという馴染みの店。
美味な肉や魚を食べた修一さんからは、店に何枚もの礼状が届いている。
礼状には二人の似顔イラストが添えられており、胸の部分に書かれている80代の数字は二人の年齢だ。

技術系の人には、さらりと魅力的な字や絵を描く人がい る。修一さんもそんな一人で、線自体に味わいがある。
庭のあちこちの木に吊り下げられたり、畑に立てられている木の板には、
植物の名や「頭にご注意」などの言葉が手書きされている。

落ち葉はコンポストにいれて堆肥にしたり、肉を燻製に したり、
ゆったりと暮らすというだけで、毎日するべきことは、たくさんある。
年金生活といいつつも、それなりに自由にお金を使える立場だからこそ出来ることなのだろうけど、
理想を現実にしてしまっている二人の生活には、ホンモノの凄みがある。

もとは、東海テレビのドキュメンタリー番組であったら しい。(1)
評判を呼んで単館系の映画館で上映しているのだが、
期待していなかった分、 良いものを見せていただきましたと感謝したくなった。



  (1)  東海テレビで放送された番組は、「平成28年度文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門大賞」、「第42回放送文化基金賞
   テレビエンターテインメント番組最優秀賞」



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