東日本大震災が生んだ満腹感のある危機管理エンターテイメント
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映画「シン・ゴジラ」を見る(2016.10.1)
1954年に制作された「ゴジラ」が、原爆による破壊を強く
意識していたとすれば、
2016年制作の「シン・ゴジラ」は、津波による破壊とフクシマ原発による汚染を強く意識している。
それゆえ、逃げ惑う人々が高台から見下ろす視線を作るために、
当初、ゴジラは川を遡上し、道路を這い回るという姿で登場している。
はしご車の長く伸ばしたホースから薬液を注水する場面は、
かつて、原発の冷却作業で見たような光景だ。
また、津波と原発事故を意識するがゆえに、政府の危機管理も主要なテーマとなっている。
「想定外」の事態、少なすぎる情報、役に立たない専門家、迷走する会議、
にもかかわらず、首都圏の大規模避難の可能性も含めて、性急に求められる政府の判断。
取材協力に、防衛大臣経験者の小池百合子とともに、
震災当時の官房長官で、「(少しは)寝ろ!」とまで言われた枝野幸男の名があり、
当時の政府の苦渋ぶりが、きちんと描かれている。
庵野秀明の力なのか、ゴジラ・ブランドのなせるわざか、とにかくキャストが大量で、
主要キャスト以外の細かい役どころに、大量のクセ者役者が出演している。
大杉漣首相から発せられた対ゴジラ防衛作戦
の指令は、
余貴美子防衛大臣から國村隼統合幕僚長を経て、
より現場に近い、鶴見辰吾統合幕僚副長、小林隆統合部隊指揮官、ピエール瀧戦闘団長へと伝達される。
また、ワンシーンだけ登場のダメダメ科学者には、
「メゾン・ド・ヒミコ」の犬童一心、「ゆきゆきて、神軍」の原一男、「いつか読書する日」の緒方明 というマニアックな映画監督が並び、
活躍する方の科学者には、「鉄男」の塚本晋也が宛てられている。
そんな満腹感のあるキャストともに、 わかりやすく戯画化された既存の政府の失敗と、
役に立たないと思われていた「はぐれ官僚」たちの並列処理による成功という物語の骨格も、
119分という限られた時間で解決に導くためのエンターテインメントの王道である。
むろん、なす術のない破壊の連続と、その収束が見えないことへの恐怖、というあたりも怪獣映画の王道なのだが、
あわせて、今、現実に自分たちが暮らしている日本の姿を透けて見せているあたりも実に計算されている。
それは、「半減期」という言葉が、この映画における「ゴジラ対策」の一つのキーワードであり、
決して解決も収束もしていない、現実の日本における「半減期」をめぐる様々な課題を示唆している点も含めて。
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