全日本分裂後、最もマスコミへの露出度が増えたのは、渕正信でしょう。
分裂前の頃は、ファミリー軍団vs悪役商会の試合ばかりに組まれていて、試合よりもラッシャーのマイクにどういう反応をするかの方が見物という状態。 それでも年に何回か大きな試合に出た時(特に若手を相手にした時)には本領を発揮し、健在振りをアピールしていました。
ところが、日本人選手が二人となってしまってからは、試合のみならず交渉役にも大活躍しています。
ここで渕について簡単に紹介しておきます。
ルー・テーズに憧れてプロレスラーを志し、全日本に入門。アメリカ遠征では大仁田とのコンビで、テネシー地区のメインイベンターとして活躍。このころカール・ゴッチ道場に入門(?)という噂も。カルガリーハリケーンズが全日本に参戦したときには、ヒロ斎藤と抗争を繰り広げた。その後、全日本のジュニア選手権を14回連続防衛という前代未聞の記録を樹立。クロファット、菊池、小川らに高い壁として立ちはだかった。
得意技は、テーズに憧れていたというだけあって低空高速急角度のバックドロップ(ただしブリッジはあまり効かせずに膝をうまく曲げて投げる)、顔面踏みつけやロープを使った拷問技、低空のドロップキックなど。
いわゆる玄人好み系のレスラーですから、シングルマッチや発言がファンの注目を浴びることは滅多になかったわけですが、そのイメージを一気に打ち破ったのが新日本両国大会登場と全日本武道館での蝶野との一騎打ちなわけです。
日本でのマイクアピールというのは、無理に叫んで聞き取りにくい、というのが多いのですが、渕は両国で毅然とした態度での演説を披露し、我々を驚かせました。
特に最後の「蝶野、忘れ物だ」は、「またぐなよ」 「今風の〜〜」と並んで今年の名セリフの一つでしょう。完全なアドリブでしょうから、かなり喋りのセンスを持っていると断言できます。
さて、この演説に乱入してきて挑戦を買って出たのが蝶野です。「ここはG1だぞ。トットと出て行け」というのは実に正論です。
何年か前、札幌で電波ジャック(by辻アナ)した時も、あの喋り口調で「なんで安生組、冬木組が(リーグ戦に)エントリーしてんだ!?」と新日本の選手のことを考えた正論を言いいました。電波ジャックと正論というギャップがなんとも意外な感じでした。それ以外でも解説席に座ると、初めは「新日本、腐ってるよ」とか「武藤はこれが最後のIWGP戦だ」などと言いつつ、試合が始まるといたって普通の解説をしていました。
この虚々実々さが蝶野の魅力の一つと言えるでしょう。
そして、ちゃっかり話題の中心にいる点も、実に蝶野らしいと言えます。
さて、その結果組まれた渕vs蝶野ですが、新日本vs全日本というシチュエーションも相まって、会場は大盛り上がりでした。
渕は、蝶野が大きいためバックドロップの角度をつけにくかった、打撃技への免疫がないのでヤクザキックが効いた、などが不利な条件でしたが、持ち味を十分に発揮していました。
顔面踏みつけも出ましたし、急所蹴り後の受身も凄かったですし、負けた後も「なんで上着を着たままなんだ」「急所蹴りがなけりゃ勝ててた」など対抗戦らしいコメントを残しました。
また、蝶野のヒール振りも見事でした。いわゆる全日本ファンを本気で怒らそうとしてましたから。今のプロレスは「どっちが勝ってもいいけど、とにかくいい試合を」という見方の人が多いように感じます。それはそれでいいのですが、やはり勝敗を一番の興味事にした方が、自然と応援にも熱がこもるのではないかと思います。蝶野はその辺を計算尽くなのかもしれません。
二人の対決が、このまま新日本vs全日本の対抗戦のベストバウトとなる可能性すらありそうです。
さて、渕は今後も蝶野との対戦を継続させるようですが、他に渕がらみで見てみたい試合は対木戸修、対ヒロ斎藤ですかね。せっかく新日本と対抗戦をやっているわけですし、藤原喜明との一騎打ちもすでに行われたわけですから、是非実現して欲しいです(個人的には引退したテッド・デビアスとの試合を見てみたかった)。
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