From the VAULTの見方



2003年9月26日に、ショーン・マイケルズの名勝負7試合を完全収録した2枚組DVDが発売になりました。タイトルは「From The Vault」。タイトルにあるVaultとは“地下貯蔵所・貴重品保管室”という意味だそうで、7試合中6試合が1997年以前であることを考えると、なかなか良いネーミングではないかと思います。

収録されている試合は順に、
1、ロッカーズ vs バディ・ローズ&ダグ・サマーズ (1986/11/1)
2、vsレザー・ラモン (1994/3/20)
3、vsブレット・ハート (1996/3/31)
4、vsディーゼル (1996/4/28)
5、vsマンカインド (1996/11/22)
6、vsアンダーテイカー (1997/10/5)
7、vsHHH (2002/8/28)
となっています。

どのような基準でこの7試合が収録されたかは不明ですが、この選択は非常にいいものであると言えます。
例えばディーゼルとのシングルマッチというのは、レッスルマニア11のセミファイナルという大きな舞台でも実現しているのですが、あえてインユアハウスでの一戦を収録しています。同じことは、ロイヤルランブル98のメインで実現したアンダーテイかーとの試合についても言えます。試合内容を重視したと思われるこの選択は、名勝負を振り返るというコンセプトのDVDにおいては正しいものでしょう。
また、1996年の試合が3つも収録されていることから、やはり1996年というのはショーン・マイケルズのキャリアにおける絶頂期であると言えます。

さらに特典として、各試合の前にショーンがコメントをし、種々の特典映像(主にPPVのプロモや前振り)もついています。さらにさらに4の試合についてはケビン・ナッシュとショーンのダブル解説まであるという充実振りです。
もちろん収録されている試合のレベルの高さは折り紙付きですし、盛り沢山の特典もありますので、このDVDは全プロレスファンに自信を持って購入を勧められる一枚(2枚組だけど)であると断言します。




では順に試合を見ていきましょう。

1、ロッカーズ vs バディ・ローズ&ダグ・サマーズ
これはAWA世界タッグ選手権です。
まさかDVDでAWAの試合を見ることになるとは思いませんでしたが、なかなか貴重な映像ではないかと思われます。
さて試合ですが、「典型的」という言葉が随所に当てはまる内容となっています。
若くてアイドル系のロッカーズがベビーフェイスで、ベテランのローズ&サマーズがヒールです。先発のショーンが相手に捕まり、派手に流血して徹底的に攻められます。ヒール側は巧みにレフェリーの死角を突いた攻撃を見せ、観客のフラストレーションが高まります。試合中盤でようやくジャネッティが初めてタッチを受けて大暴れしますが、この時の声援の大きさはハンパではありません。このような展開はタッグマッチの最もオーソドックなものと言えます。
また、この試合では技らしい技がありません(特にローズ&サマーズは)。試合のほとんどをパンチで作っています。アメリカンプロレス、中でも南部のプロレスでは試合展開や間を重視し、技の種類というのはそれほど重視しません。そういう点でも典型的な南部プロレスであると言えます。
非常にクラシカルなレスリングで、他の6試合と比べると少々古くささが強いかもしれません。まあ、古き良き時代ということで楽しめばいいのではないでしょうか。


2、vsレザー・ラモン
レッスルマニア10におけるIC王座戦で、ラダーマッチを一気に認知させた試合として有名です。
この試合で最も注目すべきはハシゴを使ったショーンのムーブです。ハシゴを利用したスライディング、ラモンに容赦なくハシゴを投げつける残酷さ、ハシゴからのダイビングボディプレス、ハシゴと一緒に倒れ込む、などの攻撃面だけでなく、ハシゴにシーソーホイップを喰らった後の動作、ハシゴから落とされてロープに落下する際にわざわざ喉元をロープに打ちつけてさらに体をバウンドさせるという芸の細かさ、等々見るべき点はたくさんあります。
ハシゴ以外でも、試合開始直後の攻防などはキチンとしたプロレスをしていますので、仮にハシゴがない通常の試合だったとしても、この二人ならかなりの名勝負を残していたのではないでしょうか。


3、vsブレット・ハート
レッスルマニア12における世界ヘビー級戦で、史上初のアイアンマンマッチです。
この試合についてはこちらにも書いてありますが、間違いなく当時のWWFの頂点に立っていた二人の攻防が60分も見れるというのは、非常に贅沢なことだと言えます。
ただ難点としては、お互いにノーフォールのまま60分経過するという展開だったため、通常の20分くらいの試合をそのまま60分に引き延ばしたような展開となってしまい、試合に中だるみが生じてしまっています。
その点、ジャッジメント・デイ2000で行われたロックvsHHHのアイアンマンマッチでは何度もポイントを取り合いましたので、試合のメリハリという点ではこちらの試合の方が上と言えるのではないでしょうか。


4、vsディーゼル (1996/4/28)
インユアハウス8における世界ヘビー級戦で、反則なしの試合形式です。
この試合は、ショーンとナッシュによる解説が聞けるわけですが、それによると「それまでイスを使うことは禁止されていた。それが解禁になったのがこの試合なんだ」とのことです。が、イスだけでなくベルト、机、消化器、義足(最前列に座っていたマッドドック・バジョンの義足をもぎ取った)など様々な凶器が乱れ飛びます。マンカインドが登場するまでは、WWFで最もハードコアだったはショーンだったわけですが、端正なマスクとハードコアというギャップが面白いですよね。
試合としては、ディーゼルらしいゆっくりとしたペースで、ショーンがディーゼルのテンポに合わせたような感じです。この辺りは、ディーゼルというのはアンダーテイカーやシッドに比べると不器用なのかなぁ、という印象を受けました。


5、vsマンカインド (1996/11/22)
インユアハウス10における世界ヘビー級戦です。4の試合と併せて、WWFがハードコア路線を取り入れたことを感じさせる試合です。
ショーン・マイケルズは基本的に受けによって試合を作る選手ですが、それ以上に危険なバンプを売りとするマンカインドが相手であったため、珍しく攻めによって試合を作っています。両者のハイテンポな動きは試合終了まで続き、ハードコアな攻防を随所で見せ、さらに技のミス等もなかったため、非常にハイレベルな内容です。試合の決着は曖昧になってしまいますが、その後にサプライズがある辺りが、期待を裏切らないWWFと言えるでしょう。
また、ドラゴンスクリューやスライディングからのレッグトリップやダイビングボディアタックなど、珍しく攻めに回ったショーンが普段は見せない技を使っているのも、ファンなら見逃せない点です。


6、vsアンダーテイカー (1997/10/5)
バッドブラッド97におけるヘル・イン・ア・セル・マッチです。
個人的な話ですが、これは私がアメプロを見直すきっかけとなった試合なのです。この試合の以前からもアメプロは見ていましたが、正直言ってそれほど熱心に見ていたわけではありませんでした。しかし、この試合の壮絶さ、ハイレベルさにはかなりの衝撃を受けました。
しかもショーン・マイケルズとアンダーテイカーというさほど多く来日していない二人のレスラーの試合だったため、それまで「アメリカのプロレスは質が落ちた」というG馬場発言を鵜呑みにしていた私にとっては、様々なものがひっくり返るような衝動を受けました。
この試合を見て、“いい試合”というのは年代や国を越えて普遍的なものである、と確信するに至った次第であります。


7、vsHHH (2002/8/28)
サマースラム2002での復帰戦です。1998年以来の復帰戦がいきなりHHH戦だというのは、かなり過酷であったろうと思われます。
かなりパンプアップされたHHHに対し、ショーンは復帰直後で体の線が細く、さらに腰に爆弾を抱えているということもあり、判官びいき的な見方から完全なベビーフェイスとなっていました。
試合はショーンの腰に攻撃を集中するHHHが優位に進めますが、耐えきったショーンが捨て身の反撃をし、最終的には復帰戦を勝利で飾ります。ブランクを考えると、素晴らしい試合であったと言えるでしょう。
ちなみに、この試合の後もショーンはHHHと抗争を続けますが、(この試合も含めてですが)似合わないラリアットを使ったり、無理やり額から流血したりと、全盛期と比べると少々見劣りした感は否めないと思います。



冒頭で言ったように、このDVDに収録されている7試合はかなりいい選択であるとは思うのですが、ショーンの名勝負というのはまだまだあります。例えば、1番手入場で優勝したロイヤルランブル95や、vsジェフ・ジャレット(インユアハウス2)、vsレザー・ラモン(サマースラム95)、vsベイダー(サマースラム96)、vsシッド(サバイバーシリーズ96)、vsジェリコ(レッスルマニア19)等は、本DVDに収録されていてもおかしくない試合です。あまり期待はできませんが、是非「From the VAULT II」を出して欲しいものです。



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