イェースとかいうきゅーせーしゅなるものが誕生した年を起点とした西暦で数えてみて200年ほど経ったある五月晴れの美しい空が顔を覗かせている日でした。

 朝からチュンチュカチュン、チュンチュカチュン・・・ピギャッ!と可愛らしい声で雀がさえずって爽快な気分を呼び起こす日でした。

 とある大陸の北部一帯に「ここはわしの土地じゃベイベー」とグラサン片手に粋がっていたそーそーもーとくさんの下でいっしょーけんめーやったのにーと働いているジュンイクさんが、

なかなか溜まりに溜まってる政務の最終決定を何時まで経ってもやりに来ないのを「あんにゃろーまぁたボサりかぁ!?」とか思いながらそーそーさんの休んでる宮殿へと赴いて来たのです。

 無意味に長い回廊をとことこと歩きながら徐々にジュンイクさんの怒りのバロメーターはググいっと上昇してきたようです。時折足を止めて地面を見たり天井を見たり落ち着きというものをなくして憤っているようす。

 今のジュンイクさんの頭にあるのは、昨日そーそーさんがジュンイクさんに「明日は文官武官の諸将を集めよ。仕事終わったら話あるけぇ、それまで一人残らず留めときんしゃい」と高圧的な態度で玉座にふんぞりかえって肘掛に肘を乗せて某南西の国の将軍さんとは違って自慢にならないひげを撫でていた姿。今思い出す限りではそのお姿の憎らしい物に脳内変換されていたのでした。

 各所から上がってくる上奏文を読み上げている最中に傍にいる女官の3サイズを尋ねてみたり、少々お好みの容姿をしていたためかしつっっっっっっっっっっこくその女官を「この後、わしの部屋に来ねぇ? いーもんあるよー。おじちゃんむっちゃ偉いから」なんて上奏文そっちのけ。何処ぞの誘拐犯か、と思ってしまうわけで。

 こんな人間でも実は一国の主なんだっていうのですから一体全体この世の中はどうなってしまったんだ、と思ってしまうジュンイクさん。そう思った矢先に「あぁ・・・乱世か・・・」と答えに行き着いてしまって納得してしまいましたジュンイクさん。乱世かんけーないから。

 いつもよりやけにそーそーさんの寝所に行くまでに時間がかかってるなぁと思ったら、立ち止まっていたので「そりゃー進まねーべさー」と嘆息。ちょっとした気分次第で物事を見失っちゃうときってあるよね、きっと。

 ここでちょっと一呼吸をおいていざ、そーそーさんの寝所!と気合を入れなおしたその矢先。

「ぬぉぉゎぁぁぁぁぁぁっちゅぁねぇぁぁぁぁぁぁ!!!」

 と、一体どこの生物の咆哮なのか不思議に思ってしまいますが、よく聞いてみると自身が主様〜(あるじさま〜)と崇め奉っている人物の声なのです。

 さすがに普段は武官のようにとっさの反応が出来ないと陰で笑われている文官の身ではありましたが、主上の身に異変があったのであればこれは事情の異なるお話。いつもは使わないジェットブースター(駆け足)を使ってそーそーさんの下へ一目散。

 裾がヒラヒラして脚に「にーちゃーん、ちったーかまってくんなましー」と絡むので仕方なく裾を持ち上げて走っているのですが、傍目からは「王子に追い掛け回されて逃げ回るシンデレラ」のシーンに良く似ております。

 ですがそんな姿は幸いな事に(不幸な事に)誰にも見られることはありません。なぜならこの寝所にはそーそーさん以外誰もいないからです。うわー、警備薄いんですね、ここ。

 それもそのはずでこの寝所を作ったときにそーそーさんがこう言ったのです。

「わし、ここ独り占めしたい」

 独裁者的な気分にでも浸りたかったのでしょうか。当然家臣団からは大ブーイングが飛びます。「それでは殿の危険が守れません」とか「さすがにそりゃーゼータクッちゅーもんやでー」や「暗殺がやりやすくて面白いといえば面白いけどー」と批判らしい気がする批判が飛び交ったのです。

 ですがそこはさすがそーそーさん、鶴の一声とでも申しましょうか、「そんなに反対するならキミらみんな毎日寝ずの番やらせるよ」とのたまうと全員がぴたっと静まりました。さすがみんなのおうさま!

 というようなやり取りがあって以来、この寝所にはそーそーさん以外誰もいないのです。

 ついでにあまりにも心配した人物がそーそーさんの部屋の前で寝ずの番をやったことがあったのですが、三日も経つと辞めてしまいました。

なにがあったんだと口々に噂が飛び交っていて、一つには寝ずの番をしたのは二人以上で順番で仮眠を取っていたが、そのうちの一人がうなされたそーそーさんにばっさり斬り捨てられたとか。

 もう一つには毎晩毎晩寝所にナンパした女を連れ込んでは(ピー)して(ピピー)で(規制? そりゃされるんじゃないですか?)だったからというお話がありました。御主君のお遊び、色を好む姿勢は大陸中に広がっており、一度そーそーさんが城下に出ようものなら女子供は一目散に逃げ出し、男連中は家を補強したり完全武装して警備に当たるというのですからこのお話の信憑性はバツグンなのです。ある意味警備面では不満はありません、よかったねそーそーさん!

 でも、いずれも正解じゃないんです。みなさんちょっと頭を使いすぎです。だって正解はただそーそーさんの毎晩に及ぶ悪戯に耐えかねただけなんですから。曰く「あのときの顔は悪戯小僧の顔そのものでした・・・」と。憔悴しきって挙句には軍を辞めてどこか遠くへ逃げ去ったんですねぇ、こんじょーなしが。

 さてそんなわけでジュンイクさんが主ちゃんの危険を察知してひいこらひいこらとシンデレラ走りでぜーぜー言いながら目を血走らせて寝所に駆けつけたのです。ちなみに普通の兵士さんが歩いたほうが早いってのはジュンイクさんのプライドのためにも黙っておきましょう。よいこのやくそくだ!

「とのぉぉぉーーー大丈夫でございますかーーっ!!」

 ドンドンバキッ!ととてつもない勢いで部屋の扉をノックするジュンイクさん。手を押さえてうずくまってるのは普段からのひ弱さの象徴でしょうね。

 しかし中からの返事はありません。・・・ただの屍のようだ。

 さすがにそう決め付けるのは早すぎるので強引に扉をぶち割ろうとショルダーでのタックルをお見舞いしました。

 硬くて痛い衝撃が肩に来るのだろうと予想していたジュンイクさんは思いのほか軽い衝撃にびっくりするまもなく前方二回転をして石畳との熱烈なるキッスをすることになったのでした。

 当然痛みからと精神的なものからとで悶絶していたのですが、本来の目的を思い出して一生懸命気力を振り絞って上体を起こして部屋を見回しました。ちょっと涙目なのがポイントでしょう。マイナスポイントとしては男だったという点。女の涙目は破壊力満点です。・・・多分。

 部屋を見回したジュンイクさんが見たものは寝台の上で状態を起こして目を見開いてぶつぶつ呟いてるそーそーさんの姿でした。ちょっと見、危ない人に見えて三歩下がってしまったのは愛嬌だ。

 三歩下がったついでにこのまま回れ右をして一目散にここから逃げ出そうという考えが脳内ウィンドウ三択方式全ての欄に出てきたのでポチッとなと選んだ次の瞬間には、アブナイヒト真っ盛りのそーそーさんの首がぎゅうるりとジュンイクさんの方を向いて、正面に捉えました。
その顔を見てジュンイクさんはこう思ったのです。『逃げたら食われる』と。

 たとえこの世がでっかいたからじ・・・ごほんごほん、戦乱の世だからといえ、まだまだ若い身空で華と散るわけにはまいりません。よって全身全霊の気力と体力を振り絞って回れ右をしかけた身体を押し留めます。

 やはり人間は頑張ればある程度のことは乗り越えられるのでしょう、そーそーさんのおわす寝台の傍に一歩、また一歩と近づいて臣下の礼を取って、跪く事が出来ました。でもその手はガクガクブルブルと震えてるのを見逃しちゃノンノンなのです。

「ごごごごごご無事でしたか!」

 声が震えてるのはしょうがありません。だってそーそーさんの表情が本気でイッチャッテるんですから。

 それでも状況把握のためにジュンイクさんは問いかけ続けなくてはなりません。たとえ心が離れようとも!

 ですがいくら問いかけを続けても肝心のそーそーさんの返事はありません。関心が自分に向いていないことに内心少し、いえちょっと、いいやかなり安心しながらそんな事はおくびにも出さず訝しがります。いよっ!この千両役者!

 観察をすると特に怪我をしている様子はないので一安心。ですが何処となく表情が冴えないようです。殿?と呼ばれても反応なし、お殿さん?と呼ばれても無視、おいこらそーそーと呼んだ瞬間「わし、見たんじゃ」と呟くそーそーさん。

 思いっきりビックリした表情をみせたジュンイクさんですが、どうにも聞こえていないようなそーそーさんの態度に内心ほっとしつつ先を促します。バレてなきゃ何言ってもオッケーなのよ。

「な、なにをご覧に・・・」

 恐る恐る尋ねてみるジュンイクさんですが、どうにもそーそーさんは人の話を聞く耳を持たないようで、「わしはみた、わしはみた」と繰り返すばかり。ジュンイクさん一歩どころか飛び退って逃げたげです。

 でも少しでも動くと布団を見つめるそーそーさんが、ぐりんと見るんですからたまったもんじゃありません。

「わしが長い坂で福耳乞食の柳眉玄米「玄徳ですぞ」ぐおぉほん、玄米をひたすらに取り囲んで追い詰めたんじゃ」

 ジュンイクさんの訂正はそーそー的には大却下らしいです。

「あの追いかければ追いかけるほど散り散りに逃げてゆく玄米・・・そんな玄米を追い詰めるのが面白うて追いかけていったら・・・」

 途端に顔を覆っておいおい泣き始めるそーそーさん。もうジュンイクどうしようもなーい!とでも言いたげなジュンイクさん。悔やむなら一人で来てしまった数分前の自分を恨みなさい。

「一つしかない橋の上で変な大虎が唸り上げてて、それに驚いて誰も近づかないわ、馬から転げ落ちて死ぬわでもうやってられねぇー!
 って放って逃げたらさ『やまだぁぁぁぁぁっ!』と『無口なはずが無口じゃなくて食いしん坊』が『大丈夫、おいどんらにおまかせしんしゃい』なんて言うから追いかけたら・・・追いかけたらよぉぉぉぉぉぉぉ・・・」

 徐々に声を張り上げて最終的には号泣へと至るそーそーさん。今時手をM字にしてえんえん泣いてます。ネタ的に古いですしそれに幾つのつもりでいるんですかあなたは。

「おんどりゃーよくも騙したな玄米ーーーっ!って叫んだ瞬間にすぐ側の林から『待ちかねたーっ!』とか言って偽善公が飛び出して来るしさぁ、もう絶対にあんの性悪極悪伏せ龍がほくそ笑んでるって思ったつーに」

 もはや病気の類かと思うぐらいに悔しがるそーそーさん。そんなそーそーさんを眺めるジュンイクさん。

「もしや・・・美髯公と偽善公をかけていらっしゃる・・・ぬっふぁーーーーっっ!!
 このジュンイク、今激烈に感激いたしましたぞっ!さすがはそーそー様でございますっ!!」

 さすがにこれではジュンイクさんも呆れ・・・って何を感激しとるかこのダメ参謀。っとよく見たら、口調は感激してても顔は物凄く嘲笑ってます。やりますね、千両役者は伊達じゃないということでしょうか。

「おぉ!良くぞ気が付いてくれたっ!流石はジュンイク!!」

「いえいえ、そーそー様の優れたさくぶん能力には及びませぬっ」

 二人して声高らかに笑いあいます。この国の将来も見えましたね。

「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ」

「いやっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ」

 まだまだ高笑いを続けるバカ二人。国のトップと参謀がおかしいだなんて国民や臣下が可哀想ですね。あぁ、でも知らぬが仏ですか、そうですか。

「はっはっはっはっはっはっは・・・って事でチミ自害決定」

「ぬふぁっはっはっはっは・・・なんですとぉぉぉーーーーっ!!」

 急転直下、ジュンイクさんの自害が決定してしまいました。こりゃあきっと本心がバレてたんでしょうね、はなっから。

「ななななななななななな何故私が自害をっ!!?」

「吊ってゆけぇい」

 ジュンイクさんの必死の抗議をスルーして、人を呼んで縄を首に巻きつけさせてぶらぶらぶら下げながら引っ張ってゆきます。これじゃ自害じゃなくて他殺です。

 そしておもむろに木簡を取り出しますと、『ジュンイク』と書かれた所を墨で塗りつぶします。実は誰が必要な人材かを見極めてたんですね、そーそーさん。さすがは人の上に立つお人です。ぐれーとです。

「あと427人か・・・」

 まだまだ大量にある木簡を見て今日もテストに意欲を燃やすそーそーさんなのでした。



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