「ちわーっ、病人連れてきましたー」

途中大して寄り道もせず、真っ直ぐに保健室へと連れて来られました。・・・少々歩みが遅かったですけど。

「・・・保健室でそんなに大きな声を出さないでくれないかしら。病人が寝てたら起こしちゃうでしょ」

ドアの付近にある机に座って何かを書いていた白衣を着た女性―――当然の保健の先生が亜紀さんを見上げた。

「寝てたら、でしょ? 誰も寝てないからいいじゃん」

ひらひらと手を振って軽くかわす亜紀さんに軽くためいき。

「あなた、ろくに確認もせずに声出してたじゃないの。少しは保健室だってことを・・・」

「あぁ、はいはい、そういった話はまた今度聞くから、今はこっちのおばかな病人をどうにかしてくらはい」

両肩をつかまれグイと先生のほうへ押し出される。って、おばかって私のことですか?

亜紀さんに抗議したら「熱あるのに体育をやるつもりだった人間をおばかと言わずしてなんと言う」と言われて、保健の先生にも頷かれました・・・。

「とりあえず、奥の方のベッドでも使ってちょうだい」

「だってさー。じゃ奥でカーテン閉めておねーさんが身体中隅々まで拭いてあげ・・・」

「馬鹿な事言ってないで早く授業に・・・ってあなたも脱ごうとしないっ」

先生の声にはっとして手を見てみると、体操服の裾を掴んでいた。・・・あれ?

「ホ、ホントに脱ごうとするとは・・・流石は美奈津」

「熱があるとはいえ、ボーっとしすぎねぇ」

二人して呆れたような声を出してくれました。

「熱の影響だけで、ここまでボーっとはしないでしょうから」

「普段からぼんやりしてる、と・・・たしかにそう言えるかも」

「あら、やっぱり?」

「やっぱりやっぱり」

ふぅ、なんてわざとらしく肩をすくめつつ笑っている二人。そんなにボーっとしてませんっ。

「あはは、わかったからそんなに拗ねない拗ねない」

「せっかくの可愛らしい顔が・・・まぁ、これはこれで。うりうり」

「だよねー。うりうり」

「二人して人の頬をいちいちつつかないでください!」

亜紀さんはいいとしても、先生はいくつですかっ。

払いのけたらのけたらでわざとらしくしょんぼりと落ち込む。もうどうしたら・・・。

「あっははは、ちょっとした茶目っ気なんだから」

「そうよー、だからそこのベッドでごろーんって寝転んじゃって」

亜紀さんは亜紀さんでバンバン背中を叩くし、先生は先生で鼻歌交じりにガサゴソと棚を探ってる。

二人してなんてマイペース。

「自分を棚上げしてそんなことを考えるのは良〜くないな〜」

「わ、私何も・・・」

「いや、口に出してたし」

「あぅ・・・」

こ、声に出してたつもりはなかったのだけど・・・。

「はいはい、しょんぼりしてないで寝る寝る」

グイグイと肩を押されてベッドへと座らされる。

「とりあえずこれを脇でも口でも好きなところに挟みなさい」

そう言って手渡されたのは電子体温計。さっきからこれを・・・。

「もっとまともな所に置いといたらどーなのよ、りっちゃん」

指さす先には、ぐちゃぐちゃにファイルや脱脂綿を入れた瓶などが横倒しになったりして散乱した棚。

「えぇい、りっちゃん言うな。先生と呼べぃ、先生と。

 だってさーあれだよ、体温計とかここしばらく使ってなかったから、ちょっと奥に行っちゃっただけ、だけ」

語尾を復唱してみせる先生。

「りっちゃんせんせぇー、それ可愛くないよ」

「りっちゃんに先生を付けても一緒だっ。それとだーれーがかわいくないだとぉ?」

「あ、いひゃっ、いひゃいっ!ほうりょふはんはーい!」

きゃいきゃいとじゃれるお二人を横目に見ながらブラウスのボタンを一つ二つと外していく。

そして手渡された体温計を脇に挟―――

「「じぃ〜〜〜っ」」

「な、なんですか・・・?」

さっきと体勢は変えずに顔だけをこちらに向けてくるお二人。

「見かけによらず、豊かな方でございませんこと?」

「えぇ、えぇ、まさしくその通りでございましてよ。

 その上肌質もしっとりとしてお綺麗なものですから、着替えの度についつい手が」

「まぁっ。・・・でもその気持ちも良く分かりますわ―――って事で」

「「触っちゃいますか?」」

「は!? い、いやあのなんでこっちににじり寄って・・・い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・ごほごほっ!」


保険室に来たんですから、大人しく休ませてください・・・。


 

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