「え〜と・・・あ、あったあった」

教室の鍵を開けて自分の机の中を覗く。そこには一冊のノートが入ってた。

友達に貸してたんだけど、返してもらった時にちょっとドタバタしてて、机の中に入れていたのをすっかり忘れてて、

委員会が終わった時に思い出して、取りに来たの。

外を見てみると空が赤く染まってた。冬は陽が陰るのが早いから、暗くなっちゃう前に帰らないと。

とか思いつつも窓際に立っちゃう私。夕陽とかって綺麗で好きだから、ついつい眺めたくなる。

窓越しに見える夕陽に赤く染まった街並。暖かく見えるけれど、なんだか少しずつ物悲しく感じてくる。

そこでふと、昼間亜紀さんが言ってた麗さんが私の事ばかり気にかけてるって言葉を思い出した。

本当に亜紀さんが言うように麗さんは私の事を気にしてくれているのかしら・・・。

でも・・・・そんなこと・・・ないよね・・・。

溜息を一つついて、荷物を片付けて教室の鍵を職員室に届けて帰ろうかなって思った時・・・。

「誰かと思ったら美奈津じゃない。何してるの?」

教室のドアが開く音と一緒に、凄く聞き覚えのある声が聞こえた。

「あら、麗さん」

振り返って見るとそこにはさっきまで考えていた人がいた。嬉しくなって微笑んでいた。

すると麗さんも微笑ってくれた。その微笑みがなんとなく魅力的で、少し胸の鼓動が速くなって顔が赤くなってきたような気がした。

きっと夕陽の赤で上手く隠されてると思うけど。

「こんな時間まで何やってたの?」

麗さんが教室に入って来ながらそう言った。

「ちょっと忘れ物しちゃって・・・それも委員会が終わった時に思い出したので取りに来たんです」

「ふ〜ん・・・その割には黄昏ていたみたいだね」

楽しそうにクククッと笑う麗さん。・・・って!?

「み、見てたんですかっ?」

「うん、なかなか絵になってたよ。『囚われの姫』って感じで」

姫、だなんて・・・私には不似合いな肩書きだなぁ・・・なんて。

「と、囚われの姫なんて大げさな・・・」

「そう?」

「えぇ、だって教室だと開放的過ぎて囚われているって感じが出てないんですから」

そう言われてみればそうだ、なんてにこやかに笑ってる。

「そういえば、麗さんはどうしてこんな時間にいるんですか?」

麗さんは今はクラブに入ってないって言っていたし、委員会も違うからなんでこんな時間に学校にいるだろう。

「・・・忘れ物をしちゃってね。それも電車に乗って、

 降りる駅に着いてから気がついたからね。もうイヤになっちゃうよ」

「だったら明日にすれば良かったのに」

「明日だともう遅いんだ。今日じゃないとね。」

ふふっ、と何処か含みのある笑顔を見せた。うぅ・・・コアクマ的・・・なにか企んでそう・・・。

「それじゃそろそろ帰ろうか」

「そ、そうですね、暗くなってきちゃいましたし」

さっきのコアクマ的な笑顔が目の前をちらついて、ちょっとペースを乱されちゃう。

涙は武器だ、なんて言うけど笑顔も立派な武器です・・・。

「たしか、電車だよね?」

「えぇ、そうです」

「なんなら私が送ってってあげようか? 女の子が一人で夜道を歩くなんて危ないしね」

「えっ、えぇ、い、いや、いいですよ、そんな迷惑でしょうし」

顔の前で掌を麗さんに向けて左右に振る。送ってもらえるなんて嬉しいけど、迷惑になりそうだし、

ちょっと恥ずかしい・・・なんだか、デートの後みたいで・・・って考えたら顔が赤くなってきちゃった・・・。

「そ、それに麗さんも女の子じゃないですか」

たしかに女の子は女の子でも、聞いた話では腕が立つとかいう話。私は実際に見たことはないんだけど。

「まっ、そうだけど美奈津を一人で帰すとなんだか危なっかしくてね。

 いつもと違う道で帰ろう、とか言ってそのまま道に迷っちゃいそうだから」

「そこまで酷くないですっ」

私ってそんなにボケてる様に見えるのかな・・・? で、でもこんな事は一度もなかったんですっ。

「そこまでってことは少しはそんなこともあるんだ?」

「こ、言葉のアヤですっ」

・・・なりかけたことはあるけど・・・。

「まぁ・・・そーゆーことにしておきましょうか」

「う〜〜〜・・・」

じと〜っと麗さんを睨みつける。けどそんな視線も何処吹く風。

「じゃ、本当に帰ろうか」

「・・・は〜い」

ちょっと、納得いかないけど、そろそろ帰らないとね。鞄に取りに来たノートを入れて、軽く戸締りを確認。

鍵を持って教室の外に出て、ドアを閉める。それから、職員室に鍵を置きに行って靴箱へ。

「そう言えばさ、美奈津って兄弟とかっているの?」

靴を履き変えて校門を出て駅に向かってる最中、ふとそんな質問をされた。

「大学生の姉が一人に中学生の妹が一人。麗さんは?」

「へぇ〜、女ばっかりだね。私は一人っ子。でもいいなぁ、姉妹がいて」

「そうですか? でも最近、妹がうるさくなってきて、大変ですよ?」

「でも、一人よりはずいぶんいいでしょ。で、どんな風にうるさいの?」

やっぱり一人っ子だと、寂しかったりするのかな? 興味津々といった感じで尋ねてくる。

「人の色恋沙汰に興味があるのか、彼氏はいるのか〜とか、作ったりしないのか、なんて。

 女子校だから出来るわけないのに」

「ははは、妹として心配なんじゃない? 姉のことが。可愛い妹さんじゃない」

「そう・・・かなぁ・・・」

気がついたら、もう駅の改札まで来ていて、ホームの様子が見えた。私達の学校の生徒がほとんどいる様子もない。

遅くなっちゃったから・・・ホームにはあまり人はいないけど、電車の中はどうだろう。あまり人が居ませんように・・・。

その後も他愛のない話をしていたら電車がホームに滑り込んできた。

でもやっぱり人がたくさん乗ってる・・・これじゃあ、制服にしわが寄っちゃいそう・・・。

覚悟を決めて電車に乗り込んだけど、満員だからもう身動きが取れない。窓際で大人しくしておこう・・・。

それでそのまま降りる駅が来てその日は別れたんだけど・・・実は麗さん、車内では私をかばいながら立っていてくれてたりする。

それでいて、涼しい顔して話てるんだから・・・なんだか凄く優しい人だなって・・・。

こんなこと意識するとまた、顔が赤くなっちゃって・・・。さすがに気付かれたかな・・・?

 

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