稲荷璃 政隆(いなり まさたか)

江戸時代中期に活躍した交易商で、今の関西方面から関東方面へ

を輸出していた。なかなかのやり手だったらしく、結構な財産を築いたらしい。

その稲荷璃が残したといわれる隠し財産がこの日本のどこかにあるらしい。

そんな話をボクは、小学生の時に聞いた。

その話を聞いたとき、教室は隠し財産の話でもちきりで

何億円のお金が隠されているとか

もし、隠し財産を見つけたら何を買うかとか

おっきくなったら、絶対俺がそれを見つけ出すとか

先生に静かにしなさいと何度注意されても

授業中も休み時間の時もその話をしていたっけ。

休日やちょっと長い休みの時に友達と一緒に

この宝を探していたのだけど

1年また1年と時が経つにつれ一緒に探してくれていた友達が減っていき

中学をでて高校になる頃にはボク一人で探すようになっていた。

稲荷璃に関する資料を片っ端から読み漁り

隠し財産に少しでも関係ありそうな場所を抜粋して

その文章を解読(勝手に推理)してそこに書かれている場所に赴き

ひたすらスコップで穴を掘る。

時には地主さんに見つかってしまい怒られたり

時には道に迷って山中をさまよったり

そんなことをしながらこの歳(38歳)になるまで

ずっと宝を探し続けた。

周りの人たちが夢を追うことをやめそれぞれの現実を歩み始めても

ボク一人は、ずっと夢を追い続けた。

生活は決して楽じゃなかったけど

この夢を追うという最高の遊びがとても楽しくて

貧乏な生活なんてぜんぜん苦にならなかった。

だけど・・・・・・

とうとうその時を迎えてしまった。

その日もいつもと同じようにスコップを持ち

とある山の中へ宝を掘りにいった。

掘り始めて5時間ほど経過した時

カツンという音と共にスコップに振動が走った

石にでもぶつかったかな?と思い

その固いものを取り除こうと手で土を払いのけていくと

木製の板がでてきた。こ、これはもしかして・・・!?

夢中になってその板の周りを掘り始めた。

するとほどなくして1つの木箱が姿を現した。

震える手でゆっくりとふたを開けてみると

箱の中にぎっしりと金の小判が詰まっていた!!

その近くを掘ってみると1つまた1つと木箱がでてくる

その数7つ

とうとう見つけてしまった。

なんでこんな簡単に見つかるような場所に隠してるんだ!稲荷璃!!

どうしてくれるんだ、これでボクの夢は終ってしまう。

これからは、何を目的にして生きればいいんだ・・・・・・

暇さえあれば稲荷璃の文章を読み

時間を作っては色んなところに足を運び

今日は見つかるかな?見つけたらどうしよう何を買おう

TVにでられるかな、新聞にも載るかな

どんなコメントをしようかとか叶うはずのない色々な夢を見ていたのに

まさか、ほんとうに夢が叶ってしまうなんて

これからどうしよう どうしよう・・・・・・

《この物語はフィクション(創り話)です。実際の人名、地名等と一切関係ありません

ですから隠し財産などありません。そんな夢を追うくらいならコツコツ働いた方がきっと幸せになれます。

夢はかなえるものではなく追うものです。くれぐれも夢の追いすぎには注意しましょう》



今現在この国は定職率が20%をきるという深刻な事態を迎えている。

その原因は“夢追い人”といわれるいつまで経っても自分の夢を追い続ける人の増加にある。

この“夢追い人”増加の要因として一昔前に行われていた過度な夢追い教育が挙げられる。

「夢を持ちなさい 諦めなければ夢は叶う 夢を叶えることこそが人生の目的」という標語の下

人生に目的をもてない、自分が何をすればわからないという若者に夢を追う素晴らしさを再確認させるという

目的で行われてきた夢追い教育だが、予想をはるかに超える効果を及ぼしてしまい現在に至る。

事態を重くみた政府は,“夢諦め”教育の徹低を決めた。

8時から夜9時までの間、夢追いその夢を達成して幸せになる番組の放送を禁止

さらに夢を追って幸せになる物語が書かれている漫画、小説をR20指定とした。

そして、夢を追い途中で挫折してしまい不幸になる人を書いた物語や夢を叶えたけど叶えてしまった時の虚無感を

書いた物語を政府主導で製作し連日TVで流し続けている。

今日も朝から『チャンピオンベルトを手に入れてしまった男』や

『ウインブルドンを制してしまった天才少女の悲劇』などが流れている。



夢を追うことを諦め物理的幸せを追求する事と

夢を追い続け精神的幸せを追求する事

あなたならどちらを選びますか?